564、真夜中の襲撃 1
それから俺はユーリとセバス、そして新たに加わったラドゥガの4人(?)でみんなのいるヒュサカの宿屋へと転移した。
宿に着いたのは夕食前。
みんなに報告をする前に、先に食堂へ行って座席確保と注文を済ませた。
注文した品が届く前に、エルフの隠れ里で起こった出来事を順を追って話す。
俺が世界樹から見せられた記憶。
その中に『隷属の魔法』に対抗する術がちゃんと記録されていたことを伝え、その通りに魔道具を作ってきたと言ってラドゥガを紹介した。
「この魔道具……命が宿ってしまったから魔道具って括りも違う気がするけど、とりあえずこの子がその魔道具で、名前を『ラドゥガ』と名付けたんだよ。」
「なるほど、『命が宿った』ねぇ……それってあの『自称神様』が関わってるんだろ?」
俺の言葉に、リッキーがニヤニヤしながら聞いてくる。
俺はなんともいえない表情でラドゥガを見て、またリッキーを見た。
彼には俺の言いたいことが伝わるから、リッキーの表情がニヤニヤから呆れた顔に変わった。
「やっぱりな!そんなことだろうと思ったぜ?それにしても『出来心』っていっても、やっちゃ駄目なことってあると思うんだけどねぇ。……まぁ、こいつ自身には問題があるわけじゃないから良いがな。」
リッキーはそう言うとラドゥガの頭をガシガシと撫でた。
他のメンバーも苦笑いをしてはいるが、話すことができないとはいえ、ちゃんとした意思や感情のある「人」だと認識して接してくれている。
そんな彼らにラドゥガもなんだか嬉しそうだ。
それから俺は、その後に例の神官が世界樹の結界を破って入ってきて、世界樹を灰にしてしまった事、その神官を俺が討伐し、その後に『世界樹の分身』を植えたら『例のあの人』がユーリに憑依して勝手に世界樹の苗木を一気に元の状態まで成長させた事を話す。
ラドゥガの事でも驚いていた皆は、俺の話を聞いて更に驚く。
そりゃそうか、世界樹が灰になってもうこの世から一旦消え去ったとは思いもしなかっただろう。
「でもまぁ……創造神がすっかり元に戻してはくれたんだし、深く考えるのはやめないか?」
スコットさんが何だか悟ったような表情で俺の顔を見た。……まぁ、そうなるよね?
それから俺達は明日、早速例の森に行って神官の残党を探そうと皆で話し合い、それぞれの部屋へと戻った。
夜も更け、皆が寝静まった頃。
突然、窓に激しく何かがぶち当たる音が部屋に響いた。
俺は丁度窓際のベッドで寝ていたので、その音に驚いて飛び起きた。
そんな俺をチラッと見たセバスが窓を少しだけ開ける。
するとその隙間から1羽の小鳥が入ってきた。
そして俺の目の前まで来たので手を出すと、その掌にとまった。
その瞬間、その小鳥の姿はかき消え、リーシェさんの声が部屋に響き渡った。
『シエルくん、緊急事態だっ!すぐにクレイン国の王都へ来てくれないか!』
その声はとても緊迫していて、冗談を言っているようには全く感じられない。
これは本当に何かあったのだろう。
俺はセバスに「ちょっとクレインの王都へ行ってくる」と告げ、すぐに転移しようとした。
するとセバスは俺の腕の中にラドゥガを渡し、「王都で何か起きているのならば、この子が役に立つのではないですか?」と真剣な顔で言った。
俺もそれは考えたのだが、万が一俺の不在中にここで何かあった場合が怖かった。
「セバス、ラドゥガはここに置いていく。万が一にもあの森の奴らがここに来た場合、防ぐ手段がない。リーシェさんに詳しい話を聞いてから考えるよ。」
俺はそう言って、ラドゥガをセバスに手渡した。
すぐにリーシェさんの所に向かおうとした俺に、セバスは「お気をつけて。行ってらっしゃいませ」と見送ってくれた。
俺はどうせならと、リーシェさんを目的地にして転移をした。
一瞬後には予定通り、リーシェさんの目の前に転移で現れた。
「シエルくん!良かった、すぐに気づいてくれて。実は今、この街を襲っている者がいてね。彼らはどうやら『隷属の魔法』を使うらしく、この王都を丸ごと『隷属の魔法』包んだらしい。」
「えっ、この広い王都を、ですか!?」
「ああ、そうなんだ。それは流石に私の魔力でも厳しい。つまり、これをやっているのは1人じゃないって事だね。」
俺はリーシェさんのその言葉に、一瞬グリーさんの出来事が頭によぎった。
あの風の属性竜の長であるグリーさんでさえ、6人の高位神官にかかれば『隷属の魔法』に身を縛られてしまうのだ。
この広い街に『隷属の魔法』をかけるのはもっと少ない人数でかけることができるだろう。
俺はそれを考えて、何か対策はできないかと考え始めた。




