563、世界樹の復活 2
世界樹がすっかり元通りに戻った事で呆然としていた俺だったが、ユーリがふらりと力が抜けて崩れ落ちそうになった事で意識が戻った。
すぐにユーリを支えてやったが、その全身からはかなりの大量な汗が噴き出していて、着ていた服をびっしょりと濡らしていた。
俺は慌ててユーリの状態を鑑定すると、ユーリは極度の魔力不足になっていた。
そこで俺はすぐに、ユーリへと俺の魔力を譲渡してやる。
俺とユーリの魔力の相性は抜群なので、何の魔力のロスも違和感もなくユーリの全身に染み渡り、どんどん回復していった。
ほどなくしてユーリの意識が戻ったようで、ゆっくりと瞼を持ち上げると俺をぼんやりと見上げた。
「……にぃに?」
「ああ、俺だ。安心しろ。もしかしてお前、『例のあの人』に体、乗っ取られていたんだろ?」
ユーリは俺の言葉で事態を思い出したのか、とても嫌そうに顔を顰めた。
「うん、そう!酷くない!?何の断りもなしに、勝手に僕の体を使うなんてさっ!いくら『この世界の為』なんて言ったって、僕には分かるもん!あれってどう考えても、酷く落ち込んでいたにぃにを元気づけるために無理やり世界樹を元に戻しただけだよ!確かに僕もにぃにが辛そうな顔をしているのは見たくない。見たくないけど、にぃにに頼まれたわけじゃないのに、勝手に手を貸すのはあの人の立場からしたら越権行為なんじゃないの!?」
ユーリは心の中で思っていた事なのか、苛立ちが止まらなかったようで、『例のあの人』への文句が止まらない。
……まぁ、そうだろうねぇ。
事が終わった後のユーリが魔力枯渇に陥っていたことを考えれば、少しやりすぎな気がする。
散々『例のあの人』の悪口を言うと、やっと気持ちだけじゃなく表情も、少し落ち着いてきたようだ。
「ところで世界樹は本当に元に戻ったの?」
ユーリは世界樹向かってそう声をかけた。
すると世界樹はその枝葉をサワサワと揺らし、肯定の意を伝えてきた。
『ああ、すっかり元に戻ったよ。それにしても私がこの『分身』を渡したすぐ後に、まさか襲撃にあうとは想像していなかった……いや、少しは予感らしきものがあったかな?でもそれに従って良かった、とは思うね。』
「そりゃそうですよね。俺もあれは『まさかの出来事』でしたし。」
俺は世界樹の言葉に苦笑いをすると、「でもこうやって復活できて良かったですね」とにっこり笑った。
『そうだね。ただ、まさか『創造神』様が私を元に戻すとは思っても見なかったよ。君は余程『あのお方』に目をかけられているんだね。』
世界樹は弾むような声でそう言うと、笑うように枝葉を少し激しめに揺らした。
「さて……それは良いんだが、あの神官は何をしにここまで来て世界樹をこの世から葬り去りたかったんだろうな?」
とりあえず全てが元通りになった頃、俺は集まって丸く座った面々を眺めてそう話し出す。
「それはもしかすると……なんじゃが、過去の出来事から『隷属の魔法』を無効化できる魔道具を作らせないように、ではないかの?確かシエル殿は世界樹の記憶からそれを『見た』じゃろ?」
ラーシェさんはそう言うと、俺の方に顔を向けた。
確かに俺は『世界樹の記憶』で何代か前の神竜が同じような魔道具を作っていたのを見た。
それにその魔道具を作ることになった原因も、神聖法国の前身の国だった事を考えると、もしかすると高位神官になりすましている魔物の中には当時からいた奴もいるかもしれない。
そうなってくれば自ずと、また魔道具を作らせないためにもこの世から世界樹を消し去ろうとしてもおかしくはないだろう。
そこまで考えた後、俺は今の世界樹に目をやる。
この世界樹は新しく苗木からここまで成長をしたものだが、その力は前の世界樹の半分ほどの能力しかないだろう。
だから流石に、また『分身』を作り出すほどの力はないと思う。
そうなればまた襲撃をされて世界樹を失うことがあれば、今度こそこの神聖なる樹はこの世から消え去ってしまうだろう。
「なぁ、世界樹。俺が君に強固な結界を張っても良いかな?」
俺は世界樹を見上げてそう尋ねた。
すると、今度は世界樹も『否』とは言わずに受け入れてくれたので、俺はあらゆる可能性を考慮して、『この世で最も安全な結界』を張った。
これなら俺がいなくても世界樹は、安全にこのエルフの隠れ里で世界中の人々をずっと見守っていってくれることだろう。
それを思うと、なんだか肩の力が抜けてホッとした。




