562、世界樹の復活 1
俺は唖然とした顔でそのキラキラ光っている『世界樹の灰』を眺めていたが、ふと「これも、もしかしたら何かに使えるかも?」と思って、腕輪に全てしまい込もうとした。
……粉ものだからどうなるかと思ったけど、もしかして?と思って灰の一部に腕輪を突っ込むと、スルスルとその灰が自ら収納されている。意外と便利だね?
しぱらくすると、すっかりその場にあった灰はなくなり、後にはまるでそこには何も生えていなかったかのような風景が広がっていた。
穏やかな日差しの差し込む花畑、といった感じだ。
そうそう、あの神官の姿をした魔物を討伐した後に、ラーシェさんはすぐさま壊された結界を修復しだした。
ラーシェさんには珍しく、結界を張る為に呪文を長々と唱えている。
でも普通と違って唱え終わってから呪文が発動するのではなく、唱えているうちから呪文の効果が始まっていて、今ではもうひび割れも見えなくなったほど修復できたようだ。
「じゃあにぃに、世界樹を植えようか。」
ユーリは結界もほぼ修復できたことを確認し、俺に世界樹が託してきた『分身』を出すよう促してきた。
もちろん俺はそれに同意し、すぐに『分身』を取り出して両手で持つ。
その『分身』は薄っすらと銀色の光を纏っていて、あの大きな世界樹のミニチュアを見ているようだ。
「これをどの辺に植えようか?」
「う〜ん……とりあえず今まで植わっていた所なら無難なんじゃない?」
俺の問いかけに対して、ユーリは軽い調子でもっともなことを言った。……まぁ、それが位置的にも丁度良いんだろうな。
俺は早速一面の花畑の中央付近に、シャベルがなかったので代わりにスプーンを使って、『分身』を植えることのできる穴をしっかりと開ける。
深さも広さも申し分ないと思えたので、その穴にせこの『分身』を入れて土をふんわりとかけてやった。
そこまでやって気づいたが、世界樹って水をあげたほうが良いのだろうか?
俺はとても迷ったが、とりあえず器に水魔法で水を溜め、そこに神聖力を付与し、その水を植えたばかりの世界樹の『分身』に土の上からかけてやった。
すると、なんだか目に見えて世界樹が少し成長をしたような気がした。
「……何だか神聖力入りの水をあげたら、目に見えて成長しなかったか?」
俺は訝しげな顔でユーリに振り向く。
ユーリも目をパチクリとさせて眺めてから、「……確かに大きくなったかも?」と言った。
そして改めてユーリが口を開こうとしたその時、ユーリが変な顔をして空を見上げた。
「……いや、それ、嫌なんだけど?前回は終わってからかなり体が怠かったし。」
空を見上げていたユーリが突然そんな事を話しだしたかと思うと、急に体をぶるっと震わせた。
「それに、何の為にそれをしようとするの?……それ、どうしても必要なの?」
「……さっきから何を話しているんだ?」
ユーリが一体誰と話しているのか分からないが、少なくても何かを拒絶する様な口振りだ。
眉間に皺を寄せて話しているところを見ると、相当嫌なのだろう。
ユーリは俺が「誰と話しているのか」と聞いた瞬間、ハッとしたように俺の方を見た。
どうやら口に出していたとは思っていなかったらしい。
だが俺がそれを認識した途端、急にユーリの体から力が抜け、崩れ落ちそうになったので慌てて抱きかかえる。
「どうした、ユーリ?何があった?」
俺は焦った表情でユーリの顔を覗き込む。
ユーリはまるで眠っているかのように力が抜け、目を瞑っている。
俺が軽く揺さぶって起こそうとすると、ユーリはその瞼をゆっくりと持ち上げ、俺の目をまっすぐに見つめた。
俺はその目と視線が合うと、思わずドキッと心臓が大きく鼓動を打つ。
その目はいつものユーリのものではなく、とても静謐な目をしていた。
まるで……そう、まるで違う『何か』が憑依したかのようだ。
そこまで考えが至ると、自ずと答えは出てくる。
間違いなく先ほどまでの会話は『例のあの人』との会話で間違いはないだろう。
……信じたくなかったけど。
ではユーリとの会話から読み取れるのは、この『例のあの人』がユーリの体を使って何かをしようとしているという事だけだ。
俺は一切言葉を発さず、ユーリに憑依した『例のあの人』が何をするのかを、固唾を呑んで見守っている。
そんな俺をその人はチラッと見て、それから植えたばかりの世界樹に目を向けた。
そしておもむろに両手を上空に広げた。
次の瞬間、遥か上空から巨大な光の柱が降り注ぐ。
その勢いは、光が地面に衝突した時にかなりの衝撃があったほどだ。
辺りが一面光の海に呑まれた後、地面から物凄い衝撃が起こった。
それは地震大国に住んでいた俺でさえ恐怖を覚えるほどの大地震だった。
辺りが光で何も見えない状況でのそれは、相当な恐怖でパニックになりそうだったほどだ。
揺れが落ち着き、辺りの光も収まってきた頃、俺は目の前の光景が信じられなかった。
そこには一瞬前の小さな小さな苗木ではなく、元のような何千、何万年と歳を重ねてきたかのような巨木が聳え立っていたのだから。
俺は唖然とした顔で世界樹を見上げ、そして目の前に立っているユーリの後ろ姿を見る。
そっか、『例のあの人』はこれをしたかったのか。
俺は改めてそれを認識した。




