560、里への襲撃 2
俺がそう思っていると、奴はもう俺達の事には興味を無くしたのか、その目はすぐ脇に聳え立っている世界樹へと向いていた。
そしておもむろにその両手を伸ばし、その両手の間に禍々しい色をした炎を作り出した。
「貴様、一体何をする気だ!?」
俺は慌てて結界を階段のように作り出すと一気にその神官の元へと向かう。
奴はそれを見て驚き、作り出していた炎を俺に向かって放った。
俺は奴が現れる前に、自分自身や仲間にも個別に結界を張っている。
もちろん武器にも魔力コーティングを施してある。
だからその炎を俺に向けられた時、愛刀でその炎を一刀両断して霧散させた。
するとそれを見た神官は目を見開き、今しがた何が起きたのか分からないといった表情をした。
「き……貴様、今、何をした……?」
神官は驚きのあまり、やっと言葉を紡いだといった感じで呟いた。
俺はそんなことに構わず、改めて刀を構える。
そして俺は奴に向かって巨大な結界を足元に張り、足場を完全に確保する。
よし、これなら安全に戦えるぞ。
そして準備ができた俺は、こちらから攻撃を仕掛けていく。
結界は透明なので、張った本人は見えるが、他の奴はよほどでないと見えない。
だから神官には、まるで俺が空中を走って来ているようにしか感じられず、あまりの恐怖に両手から無数の魔力弾を俺に向かって撃ち放ってきた。
俺はその全てを愛刀で全て斬って霧散させ、とうとう奴の目の前まで来た。
俺が刀を構えて振り下ろそうとすると、奴ももう姿に構っていられなくなったのだろう。
その本性を表し、硬化した腕で俺の刀を受け止めようとした。
その鉄の鱗の様な腕に俺の刀が当たると、一瞬だけ金属同士が触れ合う様な音がした。
だが俺が刀をそのまま力ずくで振り下ろすと、その腕はとても切れ味良く斬り落とされてしまった。
「なっ……!何だとっ!?」
神官は斬り落とされてしまった腕を見て驚き、一気に後ろへと下がり、俺とかなり距離を開けた。
奴の様子はもう落ち着いていて、傷口を見る様はまるで痛みを感じていないかのようだった。
それに、その切り口からはほとんど血が出てこない。
どういう事だ?と思っていると、その切り口から淡い光が漏れているので、いつの間にか回復魔法を使っていたようだ。
やはり神聖法国の神官だっただけあり、回復魔法はお手の物なのだろう。
俺が気を抜かずに神官の動向を注意していると、奴はまたもや世界樹に向かって攻撃をしようとし始める。
俺は肉薄して今度こそ致命傷を与えなければと思ったのだが、神官との距離がかなりあるので、空中に結界を出して向かうことによってタイムロスが生じ、奴に世界樹への攻撃を許してしまった。
それは小さな禍々しい黒炎だったはずなのだ。
だから俺も急いで水をかければ消えるだろうと高をくくっていた。
だがその黒炎は水では一切消えず、あっという間に世界樹の真ん中部分から上下へと火が移っていく。
俺は焦りのあまり、どうしたらいいのか分からずにパニックになってしまった。
神官はそんな俺を見て嘲笑うように酷薄な顔を向けた。
俺はどんどん燃え広がっていく世界樹を見て、呆然としていると、奴はそんな俺に向かって一気に飛んできた。
奴の手には短剣が握られており、目の前まで来ると俺の心臓をめがけて突きだしてきた。
だが俺は結界が張ってあるので、奴の攻撃は全く通用しなかった。
その攻撃により、俺はハッとして意識が戻った瞬間に無意識で奴の首をきり落とし、更に乱斬りをして細切れにしてしまった。
あそこまで粉々になってしまうともう回復をすることはないだろうとは思ったが、それでも念を入れてその細切れになった肉片は1つ残らず俺の作り出した業火の炎によって一瞬で灰になった。
俺の立っている結界の上に残った灰を見て、それから世界樹に目を向けた。
そこにはもう既に全身を黒炎で包まれている世界樹がいる。
俺はそれを見て力なく膝から崩れ落ちると、胸が張り裂けそうな思いがした。
ほんの少し前まで一緒にラドゥガを創っていた世界樹。
その世界樹が目の前でなすすべもなく燃え尽きるのを待つしかないのだ。
俺の目からは止めどなく涙が溢れ、自分の無力感をまざまざと感じる。
最近は本当にいろいろな事ができたことで、知らないうちに驕っていたのかもしれない……。
『ほんの少しの燃え移った炎が自分に消せないわけないじゃないか』、そんな風に思っていたのかもしれない。
それを思うと、後悔に苛まれて更に涙が止まらなくなってしまった。




