25、壁はどうなった?
食後にみんなで雑談をした後、俺がまず寝に行くことに。
今回はテントではなく寝袋(みたいな物)を使う。
前回街に゙出た時に買った物だ。
中に入ってみると意外と狭いけど快適だった。
さすが快適さにこだわるらしいエミリーさんのおすすめだね!
中に入って目をつむると、案外すぐに眠気がくる。
寝袋の快適さと慣れないことへの疲れで俺は眠りの海に沈んでいったのだった。
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「…シエルは寝たのか?」
スコットがそう俺に聞いてくる。
俺は頷き、「疲れが溜まっていたようで、深く眠っているようだ。」と答えた。
そして壁を見る。
どうやらシエルが寝ても壁は無事なようだ。
シエルがすごく気にしていたから、起きたら教えてやろう。
「それなら良かった。シエルがここに来てまだ10日くらいだが、あいつのいた世界とはまるっきり違う生活様式や生物、人々の考え方に触れて、肉体的にも精神的にも疲れ果てていたはずだ。まだ子供なのに、親と離れて暮らすのは辛いよなぁ…。」
「確かにそうよね…年齢は14歳だって言っていたからまだ成人前だものね。ご両親も急にいなくなってすごく心配していると思うのよ。何とか元の世界に帰す方法はないものかしらねぇ…。」
「帰す方法はないと文献に書いてありましたから、多分ないんだろうと思います。もういっそ戻れないなら戻れないで、ご両親の代わりに私達がシエルくんの保護者として大切に育てていきませんか?彼が大人として独り立ちできるまで、しっかりと面倒を見ましょうよ。」
俺以外の3人はそう話していた。
もちろん俺もそれには賛成だ。
シエルがたとえ1人になってもしっかり生きていけるように、いろいろな事を教えていきたいと思っている。
俺たちがずっとあいつと一緒に旅をしていくのもありだとは思うが、もちろんあいつが望むのなら、だな。
俺がそんなことを思いながらシエルを見ているとスコットが聞いてきた。
「ところでさっき来た奴らはまた戻ってきそうなのか?勝手に俺たちが街に戻ったと思って、そっち方面に行ったとシエルが言っていたが。」
俺は探査魔法を使いつつ少し考えて、スコットに返答する。
「ん~、今のところ戻って来る気配はないが、いかんせんシエルの探査魔法と違って俺のはあまり遠くの方まで調べられないから、少なくてもこの洞窟付近にはいない、としか言えないな。」
「まぁ、それであっても今のところ近場にいないなら大丈夫だろう。今日はみんな、同格以上の魔物との戦いで体力と魔力の消耗や疲れが溜まっているだろうから、しっかりと休めよ?」
「もちろん、お前もな、スコット!」
「ハハハッ、そうだな、みんなで順番にしっかり休もう。最初の見張りはどっちがする?エミリーとリリーは2人ペアで朝方の見張りな。」
「了解!じゃあ先に休むわ。ほらリリー、寝に行くわよ!」
「待って、エミリー!今行くから!」
2人はシエルに続いて寝に行った。
残ったのは俺とスコットだけ。
目線でどちらが先に見張るのか話し合う。
結局先にスコットが休んで、俺が一番最初に見張ることになった。
「夜中過ぎたら起こしに行くぞ?」
「分かった、それまでにしっかり寝て体力の回復をしておく。」
「ああ、そうしてくれ。」
スコットが寝に行ったので、俺は1人で火の番をしながら見張りをする。
まぁ見張りといっても壁で仕切られているから何も出ないだろうけど、万が一にも壁が崩れたり壊されたりした場合に必要だからな。
スコットと交代するまでまだだいぶ時間があるので、俺はシエルとの出会いから今までのことを振り返った。
シエルを初めて見た時、つまり遠目で見ていた俺はその服装からちっさい大人だと思った。
だが実際に間近で見たシエルは、服装が似あわないような、天使かと見紛うほどに綺麗な顔をした子供だった。
最初は女の子かと思ったが、発せられた声で男の子…それもまだ変声期なりたての頃だと分かった。
俺は対峙した相手の心や感情が自然と流れてくるので相手の考えていることがわかるのだが、その時のシエルは『自分に何が起きたのか全く分からない』という混乱した感情しか流れてこなかった。
少しおかしな奴だと思ったが、それがまさかの異世界人。これにはさすがに驚いた。
それと同時に『俺達が依頼を受けて森の中にいる時に、滅多に現れないという異世界人が落ちてきて一番最初に出会うという、ものすごい確率の偶然があったものだ』とも感じた。
そこまで考えて、ふと俺は気づいた。
もしかすると俺たちは、神からシエルを託されたのではないのか?と。
そのシエル本人は、知れば知るはほど不思議な存在だ。
色々なスキルもたくさん持っているし、それ以上に能力も知能も高い。
さらに性格も見た目もとても良い。
今現在、そんな人がこの世に存在していることが奇跡なくらい、この世界は荒んでいる。
現に、さっき現れた奴らが盗賊紛いのことを平気でしようと企んでいたくらいだ。
もしこの壁がなかったら俺達と奴らで戦闘をしなければならなかっただろう。
もちろん俺達が負けることはないが、それでも今は同格以上の魔物との戦闘後ということもあり、手加減できずに殺す事になるかもしれない。
そしてそれを『生死の戦いをすることのない世界』から来たシエルに見せることになっただろう。
俺達はそれだけは避けたいと思い、シエルに壁を作らせたのだ。
その作戦は成功して奴らは退散、俺たちはそのままゆっくりと休む事が出来るので、まぁ良しとしよう。
ともかく、俺達はこっちに来てしまったシエルの為にこれからも力になり、不安で寂しいだろう彼の心に寄り添って支えてやらなければ。
これから先、たとえどんな事があろうとも、少なくとも俺だけはずっとシエルのそばにいてやらなければならない。
なんとなく、俺の心がそれを望んでいる、そう感じた。
そして俺は焚火の火を見つめながら、静かにこれから先のことに思いを馳せるのだった。




