17、卵について3
「…えっ?」
ステータスを見た俺は思わず声を漏らしてしまった。
だってこれはあまりに急激なステータス上昇だ。
レベルが1から10に上がったらまさか能力値もそのままほぼ10倍になるとは予想していなかった。
魔力の数値なんか下手するともう少しで5桁目に入りそう。
俺が驚いて声を上げたものだからみんな心配そうな顔をしている。
「大丈夫ですよ、ちょっと驚いただけです。」
「それなら良いが、何かおかしな事があったのかと思った。」
「…スコット、そうじゃない、驚くほどにステータスが上がっていたってことだろう?ホントは聞くつもりはなかったが、どのくらい上がった?」
「…えっと…ざっと10倍ですかねぇ…」
それを聞いて、今度はみんなのほうが驚いた。
「えっ!?ってことはもうレベルが10になったってことか?早くないか!?」
リッキーさんがそう言うと、みんなも頷いている。
「多分固有スキルに『経験値倍化』っていうのがあるから、それのせいで予定より経験値が入ってるんですよ。」
「なんだそれ!すっげぇ羨ましいスキルだな!」
「そうですね、俺も経験してみるまではよくわからなかったです。」
「…でもまあ話を戻すと、魔力量も約10倍になったなら、その分卵に行く魔力も10倍になったと見るのが妥当だろう。だから急に大きくなったんだな。」
「でも、そんな急に供給される魔力量が増えても大丈夫なのかしら?」
「大丈夫ですよ、だって竜は人よりもものすごくたくさんの魔力を持ってますから、人がどれだけ魔力量が増えても予定より卵が孵化するのが早くなるだけで大丈夫です!」
リリーさんがそう言うと、卵がまるで肯定するようにくるんっと回転した。
「…へあっ!?今、卵、勝手に動きましたよ!?」
みんながその現象に驚いていると、また卵が回転した。
まるでみんなに挨拶?しているようだ。
「お前も早く産まれてみんなに会いたいんだよな?」
俺は卵を撫でながら声をかける。
すると卵はまた回転した。
「そのうち中から声が聞こえてきたりしてな!」
リッキーさんがそんなことを笑いながら言い出した。
「そんなことになったら同室の私がまた眠れなくなるじゃない!そうなったらリッキーと部屋代わってもらうからね!」
「いや、それはないだろ!?俺が眠れなくなっちまう!」
「大丈夫、私もちゃんと自制できるよ!だから一緒の部屋で大丈夫よ、エミリー!」
エミリーさんとリッキーさんが言い争っていると慌ててリリーさんが止めに入った。
…そんなにドラゴン愛がすごいんだね、リリーさん。
とりあえず卵の確認が終わったのでみんなは部屋へと帰っていった。
俺は卵を鞄戻し、スマホを出す。
スマホには山田からのメッセージが来ていた。
『えっ、なんだその人達。一体どこにいるんだ?』
俺は改めて街の通りでこっそり撮った写真を送る。
するとすぐに返事が。俺もすぐに返事を返す。
『なんか変な人達が写ってるけど、合成だよな?そうなんだよな!?』
『いや、これは現実だ。いい加減認めて、会社に代理で辞表を出してもらえないか?』
『……わかった、しょうがない。明日、会社に辞表を持っていってやる。だが、ホントにそっちからは戻ってこれないのか?』
『ああ、今のところは戻れる手段がない。それはそうと、せっかくインターネットが使えるんだからメッセージのやり取り以外はできないものかなぁ?』
俺がそう返事を返した後、急に電話が鳴った。
驚いた俺はビクッとしたせいでスマホを上に軽く放り投げて落としてしまったが、すぐに拾って電話に出た。
「いや、まさかホントに電話回線じゃない手段で電話がかけられるとは思わなかったよ!」
そう山田が電話越しに言う。
「俺もびっくりだ!そっか、インターネットが使えるんだからこの手段での会話も可能なのか!良かったぁ~!」
「それは良いんだが、ホントに異世界に行ったのか?一体どういう経緯でそうなったのか教えろよ。」
俺は山田にここに来るまでのいろんな出来事をすべて話した。
山田はとても驚いていたが、それと同時に心配もしていた。
「…話はわかった。でも良かったな、良い人に助けてもらえて。悪い奴だったらとっくに殺されていたんじゃないのか?」
「……いや、もしかするとそんな状況でも大丈夫だったかもしれない。」
「なんでだ?」
「いやな、婆さんから貰った腕輪なんだが、見えない壁を作って悪意を持ったものからは完璧に俺を守ってくれるみたいでな。でも悪意のない人はその壁をすり抜けて俺を触れるんだ。不思議だろ?」
「マジか!それはすげぇな!」
「でも助けてくれた人達のおかげで俺は無事に街までたどり着き、その人たちのおかげで今は宿にも泊まれている。本当にありがたいことだと思っているよ。」
「そうだな、その人達にはきちんとお礼をしないとだな。」
「ああ、俺もそう思う。そうそう、そういえば婆さんからもらった卵なんだが、中身はドラゴンらしい。」
「はぁ!?ドラゴン!?マジで!?」
「ああ、マジだ。見るか?」
「ああ、見たい!」
「じゃあちょっと電話切るな。」
山田がそう言うので改めて卵を出した。
卵を目の前において動画を撮る。
またもや嬉しそうに自分でくるくると回る卵。
そして撮り終わった動画を山田に送る。
するとすぐに電話がかかってきた。
「マジか!ホントにマジなのか!?すげぇな、異世界!」
「だろ?今から孵化するのが楽しみなんだよ!」
「それは確かに楽しみだな!孵化するところは動画に撮っておけよ?見れるの楽しみにしてるからな。」
「あぁ、楽しみにしていてくれ!」
そんな他愛のないことを久々に山田と話せた事で、自分は大丈夫だと思い込ませて心の中に閉じ込めていた不安な気持ちが、なんとなく少し解消された気がした。
『何かあったら日本にいる友人や家族と電話で相談もできる』という事実が、なんともいえない安心感をもたらしたようだ。
その日の夜、俺はこちらの世界に来て初めて心からの安心感に包まれながら眠れた。




