104、話の通じない相手
お互いの紹介が終わると食事会が始まったが、思った通り、なかなか会話が弾まない。
弾まないどころか、ヘイスさん達3人は俺とユーリをじろじろ見ていて、まるで値踏みをしているかのようだ。
ある程度食事が進んだ頃、とうとうヘイスさんが俺に話を振ってきた。
「君のその髪色なんだが、この国ではとても珍しい髪色をしているねぇ。どこの出身なんだい?」
「どちらかというとローランのある南の方の出身です。」
俺は前もってリッキー達とルーシェさんとで話し合って決めていた内容を言う。
まさか異世界からとは口が避けても言えないからだ。
かといってエルフではないので「エルフの隠れ里の出身」とは言えないので、ルーシェさんが何とでも誤魔化せるローラン付近ということになっている。
それを聞いてヘイスさんは少し考えていたがその付近は詳しくなかったらしく、ふむと頷いた。
「なるほど、その付近なら森をはさんで南のネシアの血が混じることもあるのかね?その銀髪、そしてその顔立ち、リッキーの友人にしておくにはもったいないと思わないか、ミスト?」
「そうだな、俺達の友人になるのがふさわしいと俺も思うよ、父さん。」
リッキーの両親がいるその場で、そんな事を言うヘイスさんとミストさん。
……何を考えているんだろうね?
それを聞いて眉をひそめるリッキーの両親だったが、何も言わなかった。
するとエスカレートしたのか、得意顔でさらに俺に言ってくる。
「そうだ、君や弟君のような人ならば、私の崇拝している国にふさわしいと思うのだが……行ってみたいと思わないかね?そこは素晴らしい国なんだよ!」
そこまでヘイスさんに言われたところで我慢できなくなったのか、ウォールさんが口を出した。
「彼はリッキーたち冒険者グループの一員なんだ。おかしな所に連れて行こうとしないでくれないか。」
「……おかしな所だと?」
「だってそうじゃないか。このクレイン国や南のネシア国と小競り合いをしては領土や人を攫っていくなんて、普通じゃない。そんな国が素晴らしいなんて、どうかしてる。」
苦い顔をしながらウォールさんがそう言うと、真っ赤な顔をしてヘイスさんが怒りだした。
「本来この大陸は神聖法国のものなんだ!その大陸の土地や人は全て神聖法国のものなんだから、攫ったり奪ったわけじゃない!」
「……何を言っているんだ?お前、ちゃんとこの国や大陸の歴史は学んだのか?」
「もちろん学んだとも!そしてその上で、神聖法国の言う事のほうが正しいということも知っている!兄さんの方こそおかしいんじゃないのか!?」
……やばいな、この人。
完全に神聖法国に染まりきっているんだね。
うんうんと頷いている子供たちも親同様、神聖法国に染まっているんだろう。
あ〜……かかわりたくないなぁ。
「すみませんが、俺や弟が神聖法国に行くことはありえませんので、この話はもうやめませんか?」
俺がうんざりといった顔でそう言うと、ヘイスさんは怒りの矛先を俺に向けたようだ。
「平民風情がなに図に乗っているんだ!お前らは貴族に歯向かうことは許されない!私の言うことは絶対なんだ!だからお前らは私の言うことを聞いて神聖法国に行くんだ!!」
真っ赤な顔をして唾を飛ばしながら叫ぶヘイスさん。
そんなヘイスさんを見て、訝しげに首を傾げるウォールさん。
もしかして、いつもと違うんだろうか?
「今日は一体どうしたんだ?いつもならこんな事になるまで我を忘れたりしないだろう?」
そう言われてハッとした表情をしたヘイスさん。
たぶん街の人にはこういう態度をいつも取っているんだろうな。
そして兄であるウォールさんにはその事を悟られないように振る舞っていたんだろう。
俺が平民だから自分の言う通りにできると思っていたのに全く思い通りにいかないから頭にきた、っていうところだろう。
「……ふぅ、そうだね、兄さん。私も少し冷静さを欠いていたようだ。この話はまた今度することにして、我々はもう食事を終えたので失礼するよ。ではまたね、シエルくん。」
そう言ってヘイスさん達が去っていった。
その時チラッと俺達の方を見たのだが、その目の中には憎悪に近いものが見えた気がする。
子供たちの方はそこまで気にしていなかったのか、ちらっと流し目を送ってくるだけだった。
だが……これで終わることはまずないだろうと思う。
嫌だなぁ……なんで目をつけられちゃったんだ。
こうなってくると早くこの街を出たくなるが、リッキーのお母さんのことを考えるとそうもいかない。
たぶん近々俺達にヘイスさんだけでなく、ミスト&フォグ兄弟も接触してくるんじゃないかと予想しているが、外れてしまうのを願っている。
……だがこの時の俺は、この親子が予想もできないことをしでかすとは思いもよらなかった。




