97、ユーリの『人化』
ユーリがはにかんだ表情で俺を見上げる。
『ママ、やっと僕……人化ができるようになったんだよ!』
そう言うと俺の胸から離れて、空中で一回転する。
すると猛烈な光が一瞬ユーリから放たれると、次の瞬間には目の前に小さな子供が立っていた。
大体……3歳〜5歳くらいの大きさだと思う。
見た目はどう考えても俺の小さい頃にそっくりだ!
髪色も、目の色も、顔も!
銀髪で、目の色は碧く、目鼻立ちは似ている。
ホントにそっくりだ……何故にそっくり???
「どう、ママ?おかしなところはない?」
「……っ、お、おかしな所はないけれど……なんで俺の小さい頃にそっくりなんだ?」
「ん?そっくりなの?僕、まだ自分の姿見てないんだよね。」
「ああ、まるで瓜二つのようにそっくりだ。」
するとユーリはものすごく喜んでくれた。
「ママとお揃いだぁ〜!」と言って、俺の周りをぐるぐる走り回っている。……目が回らないんだろうか?
そんなユーリを見て、スコットさん達とルーシェさんはすごく驚いたらしく、唖然とした顔で固まっている。
それとは逆に、4属性竜の長達は嬉しそうな顔だったり、ニヤニヤした顔だったりしている。
まぁニヤニヤしてるのはグリーさんだけ、だけどね。
セバスは鼻高々といった雰囲気ですました顔をしている。
「どうや、びっくりしたやろ、ユーリ様?これは成功やで!」
ニヤニヤ顔でユーリに向かって話す、グリーさん。
まるでその顔には「ドッキリ大成功!」と書いてあるようだ。
それから俺たちは少し4属性竜の長達と話をした後、ルーシェさんに森の麓まで送ってもらった。
さすがに森は広いので少なくても2泊は野宿をしなければならないらしく、「それなら一気に僕が麓まで送るよ!」と言ってくれたのだ。
「じゃあ、僕はここまでだよ。でもまたローランの街にも遊びに来てね!シエルくんが転移魔法を完璧にマスターしたから、いつでも来れるしね!」
それを聞いてスノーホワイトの皆はとても喜んだ。
だって、そうだろう?
ここは大陸の北端に位置し、ローランの街は大陸の中央付近だからね!
普通に野営したり街に宿泊したりで移動したとすると、片道で2週間ほどかかる予定らしい。
それがどこにいても一瞬で移動できるとなれば、喜ばないはずがない。
ちなみに、この大陸の中央にはここと負けず劣らずの広さがある森があり、そこを境に隣国があるのだ。
その森とは俺が最初にスコットさん達と出会った、あの森だ。
突然だが、この大陸には4つの国がある。
北はこの森を含む『クレイン』があり、森を挟んで南にあるのが『ネシア』、そして森は挟まずに東にある大河で分かれているのが『ヒュサカ』だ。
西の端の方に岬……というにはとても広いが、クレイン国やネシア国とはほとんどが森で分断されている国、それが『神聖法国』だ。
彼の国は地形上、神殿などの聖職者達が住む場所の守りは強固だが、農地やそれを耕したりする農民という名の奴隷たちは森と接しているのに守られてはいないらしい。
かといって、彼の国から脱国して逃げられるかというとそれは厳しいだろうとのこと。
なぜならその森には浅いところなら小さな魔物で済むが、奥に行けば行くほど強い魔物になるからだ。
農民である彼らでは力も武器もないので、隣国に行くまでに無事で済むはずがない。
ちなみにその奴隷のほとんどは人族が占めていて、残りの5%が獣人とエルフになる。
神聖法国は森を挟まない部分から侵略をし、奴隷としてその土地の住民を連れ去るのだ。
そして連れ去った後に隷属の首輪をはめ、武力と成りうる力を封じてしまう。
その為、森の中を抜けるだけの力がないのだ。
ところで残りの2つの国はどうかというと、そこはクレイン国と同じく穏やかな人たちが住む国ではあるが、それぞれ特色があるそうだ。
まずヒュサカ国は金や鉄などの鉱石や宝石と呼ばれる物が多数採掘される国で、経済が発展しているそう。
主な人種は人族とドワーフ。
やはり金属加工などが発展しているので 、加工が得意なドワーフが集まってくるのだろう。
俺はその話を聞いてから何となく、グリーさんの言葉遣いはこの国で覚えたのではないかと思っている。
そしてネシア国は獣人の国だ。
いろんな種類の獣人がいるが、この国を治めているのは竜の獣人なんだそうだ。
竜と人族の間に生まれた子供が先祖にあたるという話だが……真偽の程はわからない。
俺は『獣人』と書くからてっきり獣人というのは『獣』ばかりなんだと思っていたが、この世界では人の特徴を持ちつつ他の種族の特徴がある者を『獣人』と呼ぶらしい。
この世界には純粋な『人族』の他に、エルフやドワーフ、獣人等の『亜人』と呼ばれる人達がいる。
それらをまとめて『人』と呼ぶのだ。
ちなみに、これらの事を教えてくれたのはグリーさんだ。
さすが世界中を飛び回っている『風の竜の長』だけあるよね!
話は元に戻るが、俺たちはルーシェさんとまたいつか会う約束をし、一路スノービークへと向かう。
目的地へは徒歩で大体2日ほどだそうだ。
ユーリはまた子竜へと戻り、俺の腹にしがみついて嬉しそうにしている。
しばらくは誰ともすれ違わないとの判断で子竜のままでいるが、人が多くなってきたら人化してもらうことになっている。
あとセバスだが、服装を変えてもらっている。
だって旅をするのに1人だけ執事服っていうのもおかしいだろう?
だから彼にも身に纏う服を執事服から普通の人が着る服へと変化させてもらったんだ。
ふと周りを見渡すと、みんな久々の里帰りに少し浮足立っているような気がするが、リッキーだけは複雑そうな顔をしている。
彼は元々地元に帰るのをあまり良く思っていなかったのに、今は山田の記憶もあるのだ。
その心中、複雑だろう。
そんなリッキーと目が合うと、苦笑いされた。
「大丈夫だって!いくら記憶が戻ったとはいえ、それまでの記憶が無くなった訳じゃないんだからさ。……大丈夫だよ。」
「それなら良いんだけど……。でも……無理するなよ?」
「本当に大丈夫だ。俺の親とはとても仲が良いからな。それに、今は勝手に感情が流れてこないようにしているから、大丈夫だ。」
俺はそれ以上何も言えなかった。
「親とは」の言葉には、裏を返せば「それ以外とは」という事になるからだ。
リッキーは前を向き、俺と並んで歩き出す。
セバスは一番後ろをゆったりと歩いてついてきている。
俺たちの会話を聞かないようにと配慮してくれたのだろう。
俺は少し離れて前を歩いている3人の背中を見ながら、この3人は覚醒したらどうなるのだろうかと思った。




