極小アパートから豪邸に引っ越してみた件
東京郊外、駅から徒歩15分ほどの古びたアパートの一室で暮らす夫婦がいた。
6畳一間の狭小空間での生活にストレスを感じていた。そんなある日社長に呼ばれる事になり、その提案とは?
***第1章: 窮屈な日々***
東京郊外、駅から徒歩15分ほどの古びたアパートの一室。6畳一間の狭小空間で、英雄と早苗は結婚生活5年目を迎えていた。二人の日常は、まるで満員電車でラジオ体操をするような窮屈さだった。
朝、目覚ましの音と共に目を覚ました英雄は、隣で寝ている早苗の髪に顔を埋めていた。寝返りを打つたびに、お互いの体が押し合う。これが二人の朝の日課だった。
「おはよう、早苗」英雄は優しく妻を起こした。
「んー、おはよう英雄」早苗はまだ眠そうに目をこすりながら答えた。
二人が同時に起き上がろうとして、またしてもゴツンと頭がぶつかる。
「いてっ!」
「ごめんね!」
これも、毎朝のお決まりのシーンだった。狭い部屋の中で、二人は息をひそめるようにして朝の支度を始める。クローゼットから服を取り出す時も、お互いの動きを確認しながらでないと、肘が当たったり、背中がぶつかったりしてしまう。
キッチンに立った早苗が溜息をつく。「あ〜ぁ、またフライパンが出せないわ」
「どれどれ」と英雄が手を伸ばすが、
「キャッ!」
今度は腰がぶつかってしまった。
「もう...こんな暮らし、限界よ」早苗の目に涙が光る。
英雄も同感だった。でも、現実は厳しい。「分かってる。でも、この辺りの家賃が...」
「高いのは知ってるわ。でも、せめて...」
「せめて?」
「リビングとキッチンが別々の家に住みたいの!それと、お風呂とトイレも別々で...」早苗の願望リストは果てしなく続きそうだった。
英雄は黙って頷いた。彼も同じことを考えていた。この狭さは、二人の心までも押しつぶしそうだった。
朝食を終え、二人は玄関で靴を履く。ここでも、お互いの動きを確認しながらでないと、背中合わせで身動きが取れなくなってしまう。
「行ってきます」と言いながら、英雄は妻に手を振った。
「いってらっしゃい。気をつけてね」早苗の声には、いつもの疲れが混じっていた。
会社に向かう満員電車の中で、英雄は考えていた。このままでは、早苗がストレスで倒れてしまうかもしれない。何とかして、もっと広い家に引っ越さなければ。でも、今の給料では...
***第2章: 突然の提案***
その日の午後、英雄の机に内線電話が鳴った。
「はい、秘書課の佐藤です」
「佐藤君、すぐに社長室に来てくれないか」
社長からの直接の呼び出し。英雄の心臓が高鳴った。何かまずいことでもあったのだろうか。それとも、昇進の話?いや、まさか。
緊張しながら社長室のドアをノックする英雄。
「どうぞ」という声に促されて部屋に入ると、社長の笑顔が彼を迎えた。
「やあ、佐藤君。座りたまえ」
「は、はい」英雄は恐る恐る椅子に腰掛けた。
社長は間髪入れずに切り出した。「君に、私の家を譲りたい」
英雄は耳を疑った。「え...家、ですか?」
「そうだ。3階建ての洋風住宅でね。かなり広いんだ」
社長は説明を続けた。彼の家族はそれぞれ別の会社を経営しており、すでに各自の家やマンションに移り住んでいたのだという。そのため、社長の家を引き継ぐ相続人がいなくなったのだ。
「で、でも...なぜ僕に?」英雄は困惑していた。
「君、いつも率先して残業してくれるじゃないか。それに、コーヒーの入れ方も上手いしね」
社長は満面の笑みを浮かべていた。
(まさか、それが評価されていたなんて...)英雄は心の中で叫んだ。
条件は驚くほどシンプルだった。家にある全ての物の所有権は英雄のものになる。価格は中古住宅程度。つまり、激安である。
「ただし」と社長は付け加えた。「明日までに決めてくれ。他にも買い手がいてね」
英雄は頭が真っ白になった。こんな大きな決断を、たった一日で?しかも、家も見ずに?
「あ、ああ...分かりました。妻と相談して...」
「そうだな。じゃあ、明日の朝一番で返事を聞かせてくれ」
社長室を出た英雄は、足がふらついた。これは夢なのか現実なのか。
***第3章: 決断の夜***
その夜、英雄は興奮気味に早苗に一部始終を話した。
「えっ!社長の家!?それも格安で!?」早苗の目は丸くなった。
二人は必死でグーグルマップを検索した。
「ここよ!ここ!ああ...なんて素敵な建物!」早苗の声が上ずる。
「庭も広いぞ。ガーデンパーティーも開けそうだな」英雄も興奮を隠せない。
3階建ての洋風住宅。真っ白な外壁に、赤い屋根。広々とした庭には、色とりどりの花が咲いているように見える。
「でも、本当にいいの?私たちみたいな者が、こんな素敵な家に住んで...」早苗の声に不安が混じる。
「大丈夫さ。社長が選んでくれたんだ。きっと理由があるはずだよ」
しかし、英雄の心の中にも不安があった。今の年収で維持していけるのか。近所付き合いはどうなるのか。そもそも、本当にこんな話があるのか。
二人は一睡もせずに話し合った。今の生活、将来の夢、お金のこと...すべてを天秤にかけた。
「英雄、私はあなたを信じるわ。あなたが良いと思うなら...」
早苗の言葉に、英雄は決心した。
「よし、買おう。新しい人生を始めよう」
朝日が昇る頃、二人はようやく少しの睡眠を取った。目覚めた時、お互いの顔を見つめ合う二人。そこには不安と期待が入り混じっていた。
***第4章: 新生活の始まり***
「買います!」
英雄の声が社長室に響き渡る。社長は満面の笑みを浮かべた。
「よし、決まりだ。引っ越しは来月からでいいかな。それまでに必要な手続きは全て会社で行っておこう」
英雄の背中に喜びと不安が走った。今まで想像もしなかった生活が始まる。
それから1ヶ月、英雄と早苗の日々は慌ただしく過ぎていった。引っ越しの準備、新居の下見、近所への挨拶回りの計画...。
ついに引っ越しの日。トラックから降ろされる荷物の量の少なさに、作業員たちは首を傾げていた。
「本当に、この家に引っ越すんですか?」一人の作業員が聞いてきた。
「はい、そうなんです」英雄は少し照れくさそうに答えた。
玄関を開けると、そこには想像を遥かに超える広さと豪華さが広がっていた。高級な家具、絵画、調度品...すべてが完璧に配置されていた。
「まるで、映画のセットみたい...」早苗はため息をついた。
リビングルームは、今まで住んでいたアパート全体よりも広かった。大きな窓からは、手入れの行き届いた庭園が見える。キッチンは最新の設備が整い、主婦の夢のような空間だった。
2階には4つの寝室と書斎。3階には屋上庭園まであった。
「信じられない...これが本当に私たちの家なの?」早苗の目には涙が光っていた。
英雄は妻を抱きしめた。「ああ、私たちの家だよ。新しい人生の始まりだ」
その夜、二人は広々としたベッドルームで眠りについた。もう、お互いの寝返りを気にする必要はない。
しかし、この突然の幸運は、彼らの人生をどう変えていくのか。そして、社長の真意とは...?
新しい環境での生活が始まり、英雄と早苗の前には、思いもよらない出来事が待ち受けていた。
***第5章: 予期せぬ発見***
新居での生活が始まって1週間が過ぎた頃、英雄と早苗は少しずつ家の真の姿を理解し始めていた。
最初は広さと豪華さに圧倒されていた二人だったが、実際に生活を始めてみると、予想外の光景が広がっていた。
「英雄、ちょっと来て!この部屋、どうなってるの?」早苗の声が2階から聞こえた。
英雄が駆けつけると、そこには信じられない光景が広がっていた。天井近くまで積み上げられた段ボール箱の山。箱の隙間からは、高級そうな商品のタグや包装紙がのぞいている。
「これ、全部...買ったまま開けてない物?」英雄は呆然と立ち尽くした。
早苗が一つの箱を開けてみると、中には高級キッチン家電が、まだ包装されたままの状態で入っていた。箱に記された日付を見ると、3年以上前のものだった。
「すごい...ショッピング依存症みたいね」早苗はため息をついた。
二人で家中を探索してみると、似たような光景が至る所で見られた。
リビングルームの一角には、5台もの大型テレビが並んでいた。どれも最高級モデルだが、ほこりをかぶっている。
「これ、全部使ってたの?」英雄は首を傾げた。
「まさか。きっと新しいのを買うたびに、古いのをそのまま置いていったんでしょうね」早苗が推測した。
キッチンを見ると、そこにも驚きの光景が。3台の冷蔵庫が並び、その横には未開封の高級オーブンが2台。
「冷蔵庫3台も要らないわよね...」早苗は頭を抱えた。
書斎に入ると、そこは本の海だった。床から天井まで本棚が並び、さらに床には積み上げられた本の山。
「すごい量...でも、半分以上読んでない感じね」早苗が本を手に取りながら言った。
ガレージを開けてみると、そこには廃車になっていた高級車が3台。しかし、ほこりをかぶっており、長らく放置されたままの様子だった。
「凄い車ね、でも維持費が大変そうね...」早苗はガレージを見渡しながら呟いた
庭に出てみると、そこにも驚きが。ガーデニング用品や高級な屋外家具が、使用された形跡もなく放置されていた。
「これ、全部どうするの?」早苗は不安そうに英雄を見た。
英雄は深い息を吐いた。「うーん、整理するのに時間がかかりそうだね。でも、使えるものは使おう。要らないものは...売るか寄付するかしないと」
その夜、二人はリビングのソファに座り、今後の計画を話し合った。
「大変だけど、これも一つの冒険だと思えば楽しいかも」早苗は前向きに言った。
「そうだね。一つずつ片付けていこう。きっと素敵な家になるはずさ」英雄も笑顔で応えた。
こうして、英雄と早苗の「不用品整理」という新たな挑戦が始まった。予想外の困難ではあったが、二人で協力して乗り越えていく決意を固めたのだった。
***第6章: 整理整頓の日々***
翌日から、英雄と早苗の「大掃除」が始まった。
まず、彼らは家中の不用品を分類することにした。
「使えるもの」「売れそうなもの」「寄付できるもの」「処分するもの」の4つのカテゴリーを設け、休日を利用して少しずつ整理を進めていった。
「ねえ、英雄。このブランドバッグ、10個以上あるわ。しかも未使用のまま」早苗は驚きの声を上げた。
「へえ、これは売れば結構な額になりそうだね」英雄も興味深そうに覗き込んだ。
キッチン用品の山を整理していると、同じような調理器具が何セットも出てきた。
「これ、私たちが使うには多すぎるわね」早苗は首を傾げた。
「そうだな。近所の人にお裾分けするのはどうだろう?」英雄が提案した。
休日ごとに少しずつ整理を進めていくうちに、家の中はどんどんスッキリしていった。不要な家具を処分し、重複していた電化製品を整理すると、部屋の広さを実感できるようになった。
「こんなに広かったのね」早苗は感慨深そうにリビングを見回した。
しかし、すべてが順調だったわけではない。高価な物の処分には悩まされた。
「このアンティーク家具、私たちの趣味じゃないけど、捨てるには惜しいわ」早苗が言った。
「そうだね。専門家に見てもらって、価値があるなら売却しよう」英雄が提案した。
また、大量の本の整理にも頭を悩ませた。
「全部読むのは無理だし、かといって捨てるのも...」英雄は迷っていた。
「図書館に寄付するのはどう?」早苗のアイデアで、多くの本が新しい読者の元へと旅立っていった。
整理を進めるうちに、思わぬ発見もあった。
「英雄、見て!このアルバム」早苗が古いアルバムを手に取った。
中には、社長家族の昔の写真がびっしりと詰まっていた。笑顔の家族写真や、休暇の思い出の数々。
「なんだか、申し訳ない気持ちになるね」英雄は少し複雑な表情を浮かべた。
「でも、社長はこの家を私たちに譲ってくれたのよ。きっと、新しい家族に命を吹き込んでほしかったんじゃないかしら」早苗の言葉に、英雄も頷いた。
整理が進むにつれ、二人の新居は少しずつ彼ら自身の色に染まっていった。不要な物が減り、自分たちの好みの配置で家具を置き直すと、まるで別の家のように感じられた。
「やっと、自分たちの家らしくなってきたね」英雄は満足そうに言った。
「そうね。大変だったけど、やりがいがあったわ」早苗も笑顔で応えた。
そして、整理の過程で出た不用品の一部を売却したお金で、二人は念願だった家具をいくつか新調することができた。
「私たちらしい家になってきたわね」早苗は新しいダイニングテーブルを撫でながら言った。
「うん、これからもっと素敵な思い出を作っていこう」英雄は妻を抱きしめた。
大きすぎる家と大量の不用品という予想外の課題。しかし、それを乗り越えたことで、英雄と早苗の絆はさらに深まった。そして、この家は彼らにとって、単なる住まいではなく、二人で作り上げた「家庭」となっていったのだった。
***第7章: 社長の真意***
英雄と早苗が新しい生活に慣れ始めた頃、社長からの手紙が届いた。手紙には、社長の真意が詳細に綴られていた。
「佐藤君、君がこの家をどう活用するかを見守ることが、私の楽しみになっている。君には優秀な人材としての将来性があり、ヘッドハンティングされるのを防ぐためにも、君を支える環境を提供することが重要だと考えたのだ。また、この家の整理を通じて、君と早苗さんがどれだけの創意工夫と努力を見せるかに期待している。これからも頑張ってほしい」
手紙を読んだ英雄と早苗は、社長の深い思いに感動した。社長は彼らを信頼し、将来を見込んでこの家を託してくれたのだ。
「社長は私たちに本当に大きな期待をかけてくれているんだね」英雄は決意を新たにした。
***第8章: 新たな挑戦***
英雄と早苗は、社長の期待に応えるべく、新しい挑戦を始めることにした。
まず、英雄は料理教室を開設し、地域の人々に料理の楽しさを伝えることにした。毎週末には、キッチンで地元の人々と一緒に料理を作り、楽しいひと時を過ごした。
一方、早苗は庭の一角を使って小さなカフェを開いた。手作りのケーキやコーヒーを提供し、訪れる人々に心地よい時間を提供した。カフェは瞬く間に人気を博し、地元の人々の憩いの場となった。
「これで、社長の期待に応えられるわね」早苗は満足そうに言った。
「うん、これからもっと素晴らしいことを成し遂げていこう」英雄は妻を見つめながら応えた。
***第9章: 家族の成長***
新しい挑戦が実を結び始めた頃、英雄と早苗は一つの大きな決断を下した。それは、子供を迎えることだった。
「この家で、新しい命を育てていこう」英雄は早苗にそう告げた。
「うん、この家ならきっと素晴らしい家族を作れるわ」早苗は嬉しそうに頷いた。
数ヶ月後、早苗は無事に男の子を出産した。二人はその子に「勇気」という名前をつけた。
「勇気、これからたくさんの冒険が待っているよ」英雄は赤ちゃんを抱きながら微笑んだ。
勇気の成長とともに、家はますます賑やかになっていった。近所の人々も、彼らの家族を温かく見守り、時には助け合いながら共に過ごした。
英雄の料理教室は大盛況で、早苗のカフェも地元の人々に愛される場所となった。家族としての絆が深まる中で、社長の思い出が詰まった家は、新たな命と希望に満ちた場所へと変わっていった。
***エピローグ: 新たな未来***
数年後、社長の後押しもあり、英雄は会社の副社長に昇進した。社長の子息と共に会社を支える参謀役として、彼はますます忙しくなっていった。
「社長の期待に応えられているだろうか」英雄はふと考えることがあった。
「あなたなら大丈夫よ。私たちの家族も、社長の家族も、みんなあなたを信じているわ」早苗は微笑んで応えた。
家族の絆、新しい挑戦、そして愛情に満ちた日々。英雄と早苗の新しい生活は、まさに思いがけない転機から始まった奇跡の物語だった。
そして彼らは、新たな未来に向かって、力強く歩んでいった。
今回は、憧れの豪邸に住めたらな?と、いったテーマで書いてみました。
実際に広い家で暮らすのも夢がありますが、それと同時に掃除と片付けも大変そう。と、いった事で書いてみました。