お前に決まってるだろ
次の日、案の定ひどい二日酔いに見舞われた。酒臭い酒臭いと言いながら、美晴が俺や藤野に水を飲ませてくれていた。辻田が一番元気だった。すぐに酔ってつぶれる奴は、その後のダメージが小さくすむらしい。ちなみに一条は延々と寝ていた。結局全員が起きてこられたのは夕方だった。
まだ少し痛む頭を押さえながら、俺はリビングの広いテーブルの上に並べられたものを見た。
「なにこれ?」
数学のドリルの束やら、新品同然の教科書やらが適当に置かれている。一条たちは面倒そうに椅子に寄りかかっていた。俺に残った椅子をすすめてくる。
一条が顎でプリントを示した。
「早く教えろ。終わらせないとやばいから」
「これ、え、補修のやつか? 全部?」
「なんで意外そうなんだよ。僕たちがテストで点取れるとでも思ってたのか?」
なぜそんなに偉そうなのか、わからなかった。一条も辻田も藤野も、例外なく惨憺たる有様だった。皆赤点が五つある。中間テストは国語、英語、理科、社会、数学の五科目だから、つまり全滅だ。夏休みにまで補習課題をもらっているということは、追試もだめだったということになる。
辻田にはできると思っていた国語も六点だった。漢字の問題しか正解していない。理由を訊けば、「むかつくんだよ。作者の気持ちとか、わかるわけねえだろ。気持ち悪い」とのことだった。思えば、辻田と藤野はずっと自分の作業をしていたし、一条が真面目に授業を受ける姿も想像できなかった。どうやって高校入試を乗り越えたのだろう。
「もしかして俺に勉強させたの、このため?」
一条は下手な口笛を吹いた。
二日目は勉強まみれで終わった。今までで一番辛かった。教師という職業そのものが尊敬できるようになった。こんな生徒たちにも勉強を教えないといけないというのは、給料をもらっていてもきつい。途中から美晴も手伝ってくれていたが、すぐに俺と一緒に半分キレながら教えることになった。
寝る前に、皆でゲームをした。色んな有名キャラクターがすごろくで対決するやつだ。コントローラーが四つしかなかったため、一人は見物役で、最下位だった奴と交代するという決まりで続けた。俺と美晴はプレイヤー側に残り続けた。他三人は全くゲームをしたことがなかったらしく、恐ろしく下手だった。叩きのめして、美晴と一緒にすかっとした。
「美晴ちゃん、風呂入んないの?」
着替えを持った美晴が、洗面所から出てくる。先に入って上がっていた藤野は、ドライヤーで丁寧に髪を乾かしながら顔だけ扉から出していた。
俺の前まで来ると、美晴は一度止まった。リビングのソファで寝っ転がって本を読んでいる辻田や、歯磨きをしながらスマホを見ている一条を見てから、最後におずおずと俺を見上げてきた。
何が言いたいのかは、すぐにわかった。俺が言うべきだと判断した。
「久しぶりだもんな。風呂入るか」
「うん……」
小さく返事をする。藤野がドライヤーを止めて、洗面所から出てきた。
「一緒に風呂とか、入ってんの?」
「まあ」
「ほんとに仲いいね」
美晴はうつむいた。
辻田が起き上がり、ソファの背もたれの部分に顎を乗せた。
「珍しいな。小学生とかならわかるけど」
「おかしいと思う?」
なるべく、普通の声で尋ねた。美晴はさらに恥ずかしそうにする。辻田は天井を見ながら、真面目な顔をして考えていた。
「うーん? どうだろうな。僕、妹とかいたことないし。人それぞれじゃね? 判断できん。お互いにいいと思ってるなら、いいんじゃないか」
ともくんって、家族みんなで風呂に入ってるの? おかしい。小学六年生くらいの時、そう言われたことを思い出していた。あの時も週に二回以上は、父さんや母さん、美晴と一緒に風呂に入っていた。そのために、自宅の風呂場を少し増築することまでした。
足をだらしなく伸ばして本を再び読み始めた辻田に、心の中で礼を言った。直接言わなかったのは、美晴がじっと辻田を見つめていたからだ。今日は昨日よりももっと野菜の入った料理にしよう。着替えながらそう思った。
三日目、演劇部としての活動が再開された。俺は具体的な内容にはほとんど首を突っ込まず、議論が議論でなくなりかけた時に注意するだけにした。この時驚かされたのは彼らの罵倒の種類の多さで、ある意味感心させるほどのものがあった。
どうしてそんなにすぐに喧嘩するのか。辻田と藤野に関してはわかる。自分の考えたもの、作ったものをすぐに否定され続ければ、そうなるのは仕方がない。不思議なのは一条の方だった。彼女の方がむしろ、苛ついているように思えた。
一度区切りをつけてから、俺は一条を外にまで引っ張り出した。最近気がついたことだが、思い切って強い口調で頼むと、意外と聞き入れてくれることがある。
「なんでお前、あんなに怒るんだ? 怒らせてる方だろ」
うるさいだの死ねだのインポだのと流れるような罵倒をやり過ごしてから、同じ質問をする。五回くらい繰り返すと、舌打ちを連続でしてから乱暴に言ってきた。
「今まで一度もこんなことなかった。私は、今までむしろ落ち着いて仕切る方だったから」
「今までって、何歳の話だよ」
「あっちでも自分の感情を隠さないやつが多いから。大人だけど子供みたいな人もいる」
「お前も、ここでは癇癪持ちの子供みたいだな」
「くたばれ。そこが、私にもわからない。あいつらと一緒にやってると、自分の制御も効かない。多分……、嫉妬してるから」
俺は彼女の顔を二度見した。この口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった。
「どういうとこに?」
「絶対あいつらには言うな。私は、辻みたいにぽんぽん話は浮かんでこない。リリーみたいに、色彩感感覚に優れてたり、手先が器用なわけでもない。そこが嫌」
「嫌って、それは当たり前だろ。誰にだって得意不得意はある。お前は演技がすごいし、えっと、やばいくらいの美人じゃん。女優だし。自分の強みを、こうさ」
「お前、あんなのどうやって見つけてきたの? 初めから私がお前が入学する高校に来るって知ってたの? ずっと前から準備してたの?」
冗談ではなかった。彼女は、俺を得体の知れないものとして見てきていた。
「いや、偶然だよ。辻田は図書室で会って話して、偶然作品を見たんだ。藤野の方は、先生からお便りの投函を頼まれて、それで」
「はっきり言うけど、お前はあいつらとの関係を築かないはずだった。すれ違うだけのはずだった。それこそ人種が違う。なのにお前はあいつらを繋ぎ止めた。容赦ないくらいに」
「なんだよ、その言い方」
は、と一条は嫌な笑い声を出した。
「ある程度、お前とあいつらの間に距離を作りたかった。じゃなきゃ、ずぶずぶになるから」
「どういう?」
「お前が頭から血を出しながら担任の先生を殴った時、確信した。あの時、辻とリリーがどんな顔してたか、わかる? 喜んでたの。今までにないくらいに。あいつらに友達はいない。お前以外は。だからお前の行動次第で、簡単に感情が左右される。歪としか言えない」
「お前も、友達だろ」
「犬みたいなのに、蛇でもある。お前みたいなのが一番悪質。一生懸命じゃないのに一生懸命。気持ちが悪い」
「がんばるのは、悪いことじゃないだろ」
「お前の根源が見えないって言ってるの。いや、見えなかったって言う方が正しいか。お前は……、何笑ってるの?」
迫力のある顔が迫ってきても、俺は口元の緩みを抑えきれなかった。
「だってさ、なんていうか。ごめん、嬉しくて。お前さっき、滅茶苦茶あいつらのこと褒めてたじゃん。だから、笑えてきちゃった」
一条は俺の脛を蹴ってから、中へと戻っていった。一人でしばらく考えてから、俺も中に戻った。
夜は茉莉さんが色々と段取りをしてくれて、庭でバーベキューをすることになった。いつの間に連絡を取り合っていたのか、菜々実さんや忠輝さん、そしてなんと辻田の両親も参加することになった。
「息子がいつもお世話になってます……」
「やめろよ」
辻田佳乃さんは息子の頭をしっかりとつかみながら、頭を下げさせていた。そして父親の成彦さんは、日焼けした肌が特徴的な、がっしりとした人だった。彼はずっとにこにこしながら、率先して準備を手伝っていた。辻田が普段どんな生活をしているのか気になった。
俺が全員の家族の相手をしている間、一条たちは好き勝手に肉を食べていた。俺が自分用に焼いたものも遠慮なく取っていく。意外にも一番食べていたのは藤野だった。辻田は脂っこいものが好きだと公言するくせにすぐ胃もたれするし、一条は見てるこっちがうんざりするほど野菜を食べていた。
全員の腹が膨れて、炭もあまりぱちぱち言わなくなってきた頃、俺は菜々実さんに呼ばれて家の裏の方にまで来た。庭の方にいなかったのである程度予想がついたが、菜々実さんだけではなく、茉莉さんや佳乃さんもいた。
「ごめんね、急に」
水色のジャージ姿で菜々実さんが煙草を吸っている。前のものとは違っていたので、安心した。一度煙を吐いてから、急に深々と頭を下げてきた。
「な、なんですか?」
「うちはさあ、もうだめかもしれないって思ってたの。引っ越すことも考えてた。でも、倉下くん。君がどうにかしてくれた。だから、ありがとうございます。りりちゃんは毎日楽しそうで、こっちも楽しいです」
「いえ、そんな」
「うちの子もそうです」
佳乃さんが続けて頭を下げてきた。俺も慌てて礼をし返す。長めの黒い前髪を横にやってから、佳乃さんは控えめに笑ってきた。
「ご存じの通り、ああいう子なので。ある程度は好きにさせようと思ってたのですが、やっぱり心配なものは心配だったので。今の大志は、ええと、もっと変になりました。でも楽しそうです。ありがとうございます」
「あの、こちらこそ」
茉莉さんも頭を下げてくる。そして右手を伸ばしてきた。俺は少しためらってから、握手をする。
「あいは、最近いつも学校の話をするんですよ。初めてのことです。しかも特定の男の子の話を、特にたくさん。プリスクールの頃から周りに馴染むのが難しい子だったので、私も諦めていた部分があったのですが、間違っていました。これからもよろしくお願いします」
「倉下くーん、良かったじゃん、将来は女優の夫だね」
「逆玉というやつですね」
堂々と感謝を述べる茉莉さんも、それに茶々を入れる菜々実さんも、真面目に乗ってくる佳乃さんも、全員親の顔をしていた。俺はそれで、胸の底が苦しくなった。
自分は、こんな真っ直ぐな感謝に応えられるだけの人間だろうか? 一条の言葉が思い出される。確かに、そうかもしれない。前までの俺だったら図書室で辻田に話しかけなかったし、藤野の家のポストに便りを入れてすぐに帰っていた。一条に無理やり告白することもなかった。
ここまでしてきたのは、明確な理由があってのことだ。彼らと仲良くなろうだとか、そういう理由でやったとは言えないかもしれない。もし彼らが物書きとかメイクとか演技とかができなくても、友達になっただろうか? 答えられないからこそ、この感謝が苦しい。
別の乱される感情もあった。この「母親」たちを見ていると、だんだんと胸が締めつけられてくる。これはもっと強烈だった。直視することさえできず、それに蓋をした。
それから、皆で花火をした。一番はりきっていたのは辻田の父親の成彦さんだった。建設会社に勤めているらしい彼は、手では持っていけない設置型の花火を堂々と振り回して、曲芸みたいなことをしていた。あとで佳乃さんに耳を引っ張られていた。
最後に、線香花火で締めた。誰が一番長く火花が落ちないでいられるか競うことになったが、最初に美晴のものが消えてしまった。俺は誰にも見られないように動き、自分の火花を消した。美晴と一緒に脱落者のゾーンに並んで、一条たちがお互いの線香花火を消そうとしている醜い光景を笑って眺めていた。
その日は、あまり寝付けなかった。深夜の十二時近くになってから、部屋の戸口に美晴が現れた。床で布団を体に巻き付けながら寝ている辻田をそっとまたいでから、俺のベッドの中に入ってくる。
何も言わずに美晴を抱きしめた。胸に顔をうずめてくる。俺も目を閉じて、彼女の背中や頭をゆっくり撫でた。今日は特に、比べてしまう機会が多かった。仕方のないことだ。賑やかになればなるほど、反対に寂しさを強く感じてしまうのは、俺たちだけなのだろうか?
四日目。一条の言っていた期限を超えたが、皆帰る気はないようだった。どうやら部活動に進展が見られるまで粘るつもりらしい。もしかすれば夏休み中ずっと皆と同居するかもしれないと思っていたら、午前中の内に辻田が雄叫びを上げた。
「面白い。私の使い方もいい。やってみよう」
辻田はソファの背もたれを太鼓みたいに叩いてから、何事かと自分の部屋から出てきていた俺に、印刷された用紙の束を渡してきた。
一時間くらいかけて、その脚本を読んだ。水が枯渇した、架空の砂漠世界の話。人間はほとんど死に絶え、血を糧とする吸血鬼が繁栄していた。ある時血嫌いな吸血鬼の青年ジェスタは、朽ちた井戸の底で水の精霊メイユーに出会い……
欲望の追求というテーマを根底に据えた上で、自罰的で暗い吸血鬼と自由奔放でミステリアスな精霊の冒険劇という、ファンタジーの王道とも言える内容になっていた。笑いも悲しみも無理なく同居できているという点、結末が気持ちの良いものであるという点からも、作者が観客の存在をちゃんと意識していることがわかる。というのが、一条の評だ。
新鮮な思いだった。小説とはかなり違う。地の文、ト書きというらしいが、最低限の視覚的情報しかない。小気味いいテンポで自然な空気感のある台詞が中心という印象だった。この方が、舞台でどのように表現されるか頭の中に浮かびやすいらしい。
「一条に振り回される倉下を観察してたら、思いついたんだ。これなら藤野の課題も面白くなる。水の精霊っぽい衣装とかメイクって今までしたことないだろ?」
「特殊メイクの方か。やったことない。面白そう」
辻田と藤野はもう頭の中で色々と走り出しているようだが、俺はまだわからない所があった。
「すげーいいけど、これ、登場人物結構いるよな」
「一条には実力相応に頑張ってもらう。三役くらいは振ったかな」
「でも、男キャラもいるだろ。しかも主人公。どうするんだ?」
「は? 何言ってんのお前」
辻田は、俺を見てきていた。顔を動かせば、藤野も首を傾げながら見てきている。最後に一条が、肩をすくめながら嘲笑ってきた。
「あの、だから、役者が足りないっていう」
「お前に決まってるだろ」
「え。いや、いやいや無理。無理だって。俺演技とか無理だから」
「僕でもわかるぞ。一条がお前に散々台本読みさせたの、何のためだと思ってたんだ?」
「でも、俺? 俺かよ。一条と釣り合わないっていうか。別の人の方がいいよ。あ、亮吾とか。加村亮吾。俺の友達なんだけど、顔良くて、声も結構……」
ぴん、と空気が張り詰めた。俺はそれ以上何も言えなくなった。辻田はテレビの方を見ていて、藤野は斜め下に視線を落としている。一条だけが、俺を直視してきていた。部外者は入れるな。全員、無言で主張している。
「ごめん。わかったから。でもさ、俺下手だし」
「あと二カ月少しある。余計な心配するな。お前、今日から私の弟子だから。死ぬ気でやれよ」
口調的には、下僕の方が合っていそうな気がした。
合宿が終わった後も、俺には休日なんて訪れなかった。学校の休暇課題は既に時空間を利用して全部終わらせていたから、ほぼ全ての自由時間を部活動に充てることになった。
一条の家か俺と美晴が住んでいる所に毎日のように集まった。合宿していた時期と、感覚的にはほとんど変わらなかった。俺は制作関連にはほとんど参加せず、一条にずっと「演技指導」を受けていた。
「声張れって言ってんだろインポ! だめだめ。喉痛めるからそれ。もっと喉開け! 喉チンコ見せろ!」「ぶち殺されたいの? 想像をしろ想像! 感情を乗せる時は、感情そのものを考えるな。脚本見ろよ節穴野郎。行動から感情を取り出すんだよ」「姿勢が悪い、声の張りも悪い、想像力がお粗末。お前何のために生まれてきたの?」「一度失敗したとこは、二万回繰り返して完璧にするんだよ! 昨日言ったことも忘れたの? 猿かよ」
俺はまだ知らなかった。一条あいは今までに見たことがないほど苛烈な女性だ。乱暴だと言い換えてもいい。だが日常的に見てきた彼女の針は、まだ裁縫で使うような小さなものでしかなかった。演技に関することになると、血にまみれた剣になる。
一条は今まで聞いたこともない課題を何個も出してきた。たとえば、昨日一日で目にした青色のもので、一番印象に残ったものをプレゼンしろだとか。何度も怒られた。少しでも飾った言葉でそれを表現すると、すぐに脛を蹴られた。俺自身の生の言葉を使え。そう言われても、わからなかった。
ただ室内で怒鳴られるだけではなかった、一条に連れられて、走って近くの駅のホームまで来た。そこで二人とも壁側に寄り、通行人の観察が始まった。
「目に入った奴のこれからを想像しろ。これまでを作り出せ。大人やったら、子供、子供やったら大人。男、女、若い奴、年取った奴。まんべんなくやれ」
一条はバックからサングラスを二つ取り出すと、一つを俺に渡してきた。
「これは?」
「見られてると、相手も変に思うでしょ。迷惑かけたくないし、目立ちたくもない。私たちの視線をごまかすためのもの」
既に目立っているも同然だった。俺と一条はサングラスを掛けたまま、駅の壁に寄りかかって立ち続けた。多くの視線が通り過ぎていく。最初は落ち着かなかったが、一時間もすると慣れた。色々な人を見て想像を巡らせたが、親子連れだけはあまり数をこなせなかった。これも、日課になった。運動している方の俺ですら考えながら三時間立ち続けるのはきついのに、一条は平然と続けていた。駅までのランニングも経ているというのに。
「プール行くぞプール」
彼女は事前のスケジュール合わせを一切しなかった。役作りのために泳ぎに行くそうだが、俺はどうしても同行できる気がしなかった。断ると案の定一条はヒートアップしたが、美晴にも懇願されて結局諦めてくれた。かなりほっとした。多分、部活動どころじゃなくなっていただろうから。
あっという間に夏休みが過ぎていった。今までで一番短く感じた。そして学校が再開してもあまり日常的な感覚が変わらなかった。テニス部の奴らとか、同じ中学の奴らとか、そっちの集団とぎくしゃくしたままだったが、対応する余裕がなかった。授業に集中し、休み時間は一条に引っ張り回される。えらく疲れるが、嫌ではなかった。充実していると感じた。
劇に出られなくなった。そう一条から連絡が届いたのは、九月中旬、ちょうど文化祭本番の一か月前だった。