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今日からよろしくお願いします

最後まで書き溜めてあります。

面白くならなきゃ死ね


場所:野岸市

期間:高校卒業まで

目的:不明

手段:不明

要注意事項:不明


 中学は楽しかった。すごく楽しかった。よく楽しいことはあっという間に過ぎると言われてるけど、そうじゃないと思う。大事な思い出ほど、引き伸ばされていく。永遠のように感じられる。何度も思い返されることによって。

 振り返ると、正門からどんどん生徒が入ってきていた。皆、ぱりっとした高校の制服を身に着けている。塀にまで伸びている桜から落ちてきた花びらが風に吹かれ、肩にまで落ちてきた。それを左手で払いながら、亮吾の方を見る。彼は玄関前の掲示板に張り出されたクラス表を眺めていた。

「違うクラスじゃん。つまんな」

 相手の表情を観察してから、俺は口を開いた。

「どうせ部活で一緒だろ。誤差誤差」

「そだな」

 野岸南高校は、まあまあの高校だと言われている。立地はまあまあ、偏差値もまあまあ、部活の強さもまあまあ、歴史の長さもまあまあ、女子の可愛さもまあまあ。でも、これはまあまあじゃない。もう一度、クラス表のB組の列、「倉下とも」という名前が書かれた部分を見た。俺の名前だ。それに重なるようにして文章が浮いていた。

「面白くならなきゃ死ね」

「なんて?」

 隣の友達を見下ろしてから、俺は人差し指を前に出した。

「あれ、見えない? なんかさ」

「何も見えん。ちゃんと寝たか?」

 もう一度クラス表を見ると、変な文章は消えていた。

 亮吾が急に肩を叩いてくる。

「おい見ろ、一条あい。本物」

 その勢いに押されるようにして、俺もまた振り返った。正門の方で、黒い車が止まっている。後部座席のドアが開いた瞬間、周りにいた生徒たちがわっと群がった。

「行ってみようぜ。わー、えぐ」

 この時には既に、別のまあまあではない存在に気を取られて、不気味な幻の存在をほとんど忘れていた。



 高校も楽しかった。

 一年目。亮吾とは違うクラスになったけど、中学校からの他の友達が結構いたので、ほとんど苦労することなく馴染むことができた。サッカー部に入ってしまえば、まさに中学時代のまんまだ。先輩も含めて皆優しく、勝つことよりも楽しくやることを優先するような空気だったので、続けられそうだと思った。

 あの一条あいは、亮吾と同じAクラスだった。最初あいつははりきりすぎるくらいはりきっていたけど、結局仲良くなることはできなかったらしい。そもそも彼女を学校で見かけることが少なかった。たまに登校してきても、昼を過ぎたら帰っていくらしい。夕飯の時に母さんにそのことを話すと、隣で聞いていた美晴がサインを欲しがった。だけど、正直俺は一条に近付きたくなかった。なんとなく、怖かったから。

 母の日に、美晴と協力してこっそりケーキを作った。リビングでバラエティ番組を見ながら皆で食べた。でも母さんは最後の方泣いていた。心配して尋ねると、美晴と一緒に抱きしめられた。

 二年目。クラス替えがあった。進路によって分けられるもの。俺は地元の大学進学を希望していたので、Aクラスになった。亮吾と同じクラスになれたし、女友達で一番仲が良い沙良もいて、文句なしといった感じだった。

 でも、一条あいまで同じだとは予想していなかった。彼女はどうせ東京の大学とかに行くと思っていたからだ。少しクラスでの過ごし方が心配になったけど、それは無駄に終わった。二年生になってから、一条はほとんど学校に来なくなっていた。仕事が忙しくなったらしいと、女子達が言っているのを聞いた。

 母さんの誕生日に、母さんの職場の人と協力して、サプライズのお祝いをした。母さんは最初すごくびっくりしてたけど、すぐに泣き始めた。そして俺と美晴に抱きついてきた。苦しいくらいだった。母さんの職場の人が結構周りにいたから、かなり恥ずかしかった。

 三年目。沙良から告白されて、付き合った。彼女のよく笑うところがいいなと思っていたので、素直に嬉しかった。母さんが帰ってきてからすぐに報告すると、大げさなくらい喜ばれた。いつ家に呼ぶの、と美晴からもからかわれた。気が早いと思う。俺は母さんの涙目を見て、今度の母の日と誕生日には、母さんの好きな駅前の店のチーズケーキを一緒に食べに行くことにした。サプライズはもうなしだ。そうするといつも母さんは泣くから。嬉し涙であっても、涙には変わりない。あまり見たくない。

 一条がここの高校を辞めて、芸能関係の学校に行くらしいという噂が広まった。俺はその噂話にもあまり関わらないようにした。なんとなく、自分の中にある楽しさが崩されそうな気がしたからだ。

「もうクラス会の奴ら集まってるってよ。行こうぜもっとも」

 亮吾が、卒業証書の入った筒で軽く肩を叩いてくる。

 俺は空になった教室を見回した。クラス会。正しくは、友達会だろう。いくつかの席を見る。クラスの生徒全員と仲良くなれたわけじゃない。ほとんど話さない相手だっていた。でも、それは当たり前のことだ。

 亮吾の方を向こうとして、目の端で何かが動いた。

 黒板を見る。今流行っているアニメのキャラクターのチョーク絵や、三年A組サイコーなどと書かれた色とりどりの文章。それらを食い破るようにして、黒い線が伸びていた。あっという間に文章を作っていく。

 

 総合得点:六点

 全く面白くならなかったので、死にます


 はい。心の中で答えた。はい、そうですかとしか思えなかった。

「早く行こうぜ。沙良も……」

 彼女が何なのかを聞く前に、既に周りが溶け始めていた。そう表現するしかなかった。絵の具が水に浸されてどろりと落ちていくみたいに、黒板や壁や天井やたくさん並んだ机や椅子の色がなくなり、溶けて一つに混ざり合う。その直後から、体が無理やり絞られるような感覚もやってきた。うめき声が出る。いや、出ようとして喉の途中から消えていく。声も出せず、指一本動かせず、俺はただ自分も溶けて落ちていくのを感じていた。

 大きく口を開けて、呼吸をした。何度か瞬きをすると、視界がはっきりしてくる。左半分が、青い布でふさがっていた。少ししてから、自分が横向きで寝ていて、見えているのが自分の枕だとわかった。

 半身を起こして、窓のカーテンを開ける。日が差し込んできて、布団を照らした。布団から舞い上がった埃が陽の光に照らされて、虫の群れみたいに動いている。それを右手でかき乱してから、ベッドを出た。

 時計を確認する。少し遅く起きてしまったらしい。変な夢も見ていたような気がしたし、いつもより目覚めが悪い。クローゼットからさっさと制服を取り出して、鏡を見ながら支度をした。染めていると勘違いされることが多い茶色寄りの髪。寝癖を直してからズボンを履いた。ほとんどの勉強道具を学校のロッカーに置いているおかげでとても軽いリュックと、部活道具の入ったバッグを持って、開きっぱなしの扉から部屋を出た。

 階段を下りていく途中で、思わず悲鳴を上げそうになった。俺は何をしているのだろう。もう、高校には行かなくていいはずだ。平日には違いないが、まだ春休みで……。

「あ、やっと起きた」

 とりあえず階段を降り切ると、美晴がリビングで片足立ちになっていた。白のソックスを履いている途中だった。

 俺は吹き出しそうになった。美晴も同じ間違いをしているらしい。

「それ、何?」

「え、何?」

「それ、中学の制服だろ。もう着なくていいって。卒業したんだから」

「ええ、どうしたの? おかしくなった?」

 俺は、美晴を見ながら徐々に違和感を持ち始めていた。美晴は真剣な顔だ。怖がっている風でもある。どこか彼女の姿形が知っているものとずれている。少し、小さいような。

 自分の口が勝手に開いていく。何も声が出てこない。リビングのテーブルに置いてある、自分のスマートフォンを手に取り、電源を入れた。出てきた日付は、四月七日。ホーム画面へと移り、カレンダーのアプリを開く。西暦二〇一九年四月七日。

 それは、三年前のものだった。つまり今日は、高校の入学式の日。卒業したはずの。

 美晴が見てきている。それでも、平気な顔をするなんてことはできなかった。彼女は肩をすくめてから、両足のソックスを履き終わる。それから早足で、階段を上がっていった。

「お母さーん、もう準備できてる? 遅れちゃうよ。あとなんかともがおかしい」

 俺はただひたすらスマホの画面を眺めていた。いくら美晴がドッキリをしようとしても、俺のスマホまでいじるわけがない。台所にあるカレンダーを見ても、同じ日付だった。つまり、おかしいのは周りではなく、俺自身なのか。

 上の方から、おかしくなったような叫び声が聞こえてきた。

 その瞬間あらゆる心配事が頭の中から吹き飛んで、俺は階段を駆け上がり始めていた。その悲鳴は明らかに異常なもので、切実に誰かの助けを求めているようなものだった。声すら出す間もなく二階に上がった。

美晴は廊下の一番奥で、壁に寄りかかっていた。口を両手で押さえながら、ずるずると崩れ落ちた。

「大丈……」

 彼女の視線が母さんの部屋の中に向かっているとわかった時、胸の中が詰まったようになった。進みたくない。そう思っても、美晴を支えるために足が動いていた。彼女のそばに近づき、部屋の中へと目が行く。

 最初に目に入ったのは、電灯から伸びる縄だった。それが黒い髪の中へと入っている。髪の下にある額は、紫色になっていた。その下の鼻も、紫色になっていた。両目がやや飛び出していて、そこから体液がこぼれ落ちている。口からは舌がだらりと垂れ出ていた。その色だけは、他よりも鮮やかだった。よく大口を開けて笑い、その口の中が見えたことがあったので、それが母さんの舌だとわかった。

 吊り下がっている母さんに、文字が侵略してくる。


 全く面白くならなかったので、貴方の一番大切な人が死にます


 いつの間にかへたりこんでいる自分に、気がついた。




 曖昧だった。病院とか警察とか明るい場所とか暗い場所とか、色んな所に行った気がする。でもそれらを歩いて通り過ぎたのか、走って通り過ぎたのかもわからない。這っていったような気もするし、誰かに引っ張られながら進んだ気もする。

 顔の鬱血、眼球の飛び出し、一部が腐食。狭い個室のようなところで、同じ質問を何度もされた。死体の状態は吊られてから長い期間が経過した前提のものであること。一日やそこらでなるものではない。遺体を放置していたのかどうか。前日に出勤していたことは、職場の確認が取れている。明らかにおかしい。人間のしたことじゃない。そんな言葉が飛び交う。

 おかしい。確かにおかしい。母さんは、生きているはずだった。中学生の頃と変わらず、ほぼ毎朝弁当を作ってくれて、俺と美晴に笑顔で手渡す。そして一緒に外へ出る。途中で別れる。それから俺と美晴は少し歩いて、また別れる。高校に着く。そんなことを何百回も繰り返していたはずだった。

 保険金が下りない。自殺したから。だから葬儀は別のお金でやらなくちゃいけない。今までほとんど会ったことのなかった親戚たちが分担してやった。俺は、それに出席したかもよく覚えていない。ずっと寝ていたかもしれない。

 多分、知らないホテルだった。俺と美晴は数日間そこに泊まっていた。それからようやく、母方の全く知らない親戚の一人が持つ家に移った。その女性は画家か何かで、世界を飛び回っているらしい。だから、会っていない。毎月ある程度のお金を振り込むことを電話越しに言ってきてから、二度と連絡してくることはなかった。

 何度か玄関の扉が開いたり閉まったりする音を聞いた。美晴が学校に行き、帰ってくる音。自分が到底できないことをしている音。それを聞くのが嫌で、いつも耳を塞ぐようになった。登校と下校の時間には、いつも目覚めるようになった。


 欠席可能日数:残り十三日


 自分が、自分の頭の中に住んでいるとする。狭くて閉じている所は苦手だったけど、そこにはいつも母さんと美晴がいるから、平気だ。それぞれが好きなお菓子を食べて、たまに分け合いながら映画を見る。皆、明るい話が好きだった。途中で主人公とかが苦しんだりするけど、最後には幸せになる話が好きだった。その時食べているお菓子、母さんと美晴の表情、部屋の空気の流れ、映画を流しているテレビの光。全てが鮮明だった。現実みたいだった。


 欠席可能日数:残り六日


 ずっとカップラーメン。夜にトイレで吐いた。口周りがじょりじょりして気持ち悪い。気持ち悪いことばっかりだ。そういう時はいつも、美晴のすごさについて考える。彼女は学校に行って、新しい友達を作っているかもしれない。部活に入っているかもしれない。どうしてそんなことができるのだろう。すごすぎる。俺の妹なのが信じられない。多分彼女は、将来総理大臣にでもなると思う。俺は、どうにもならない。


 欠席可能日数:残り一日


 夜、美晴が部屋に入ってきた。たまに俺のベッドのすぐそばに布団を敷いて寝ることがあったけど、何も話さなかった。だけど今日は違った。

 彼女は机の上にあったリモコンを操作して、明かりを点けた。少し薄暗い程度だったけど、それでも俺にとっては眩しかった。声をあげようとして、美晴がその丸い瞳を真っすぐ向けてきているのがわかった。母さんに似ているから、やめてほしかった。

「ともとお母さんってさ、両想いみたいな感じだったよね」

 俺は顔だけを何とか美晴の方に向けた。

「なに?」

「何度も聞いた。ともは、お父さんにすごく似てるんだって。わたしもそう思うけど。そういうこと言ってる時のお母さん、すごく幸せそうだった。だから、しょうがないよ。ともがそうなるのは」

「やめてくれ」

 美晴は唇を噛んだ。泣く前のように目を細めているが、涙は出てきていなかった。

「わたしと違って、愛されてたんだからさ。もっと休んでていいよ。そうしなよ」

 俺は半身を起こした。

「何言ってるんだよ」

「だって、そうじゃん。そうに決まってる」

「やめろ。なんでそうなるんだ。母さんは、美晴のことも」

「じゃあ、なんで自殺したの?」

 突然、首を絞められたような心地がした。直後にその苦しみが恥ずかしくなった。俺よりももっと苦しんでいるのは、目の前の妹だ。でなきゃ、こんなことを言えるはずがない。

「違う。それは、だから」

「きっと、何かあったんだよ。不満とか、嫌なこととか。わたしが、何か迷惑かけたかもしれないし。でも、とものせいじゃないからね。わたしのせいだから」

「違う! 母さんは、いつだって俺たちを」

 美晴は、自分のパジャマの裾を握り締めた。

「じゃあなんで死んだの? 私たちいるのに、なんで自殺したの? おかしいじゃん!」

「母さんは、自殺したんじゃない! 殺されたんだ」

 言ってしまってから、自分の声が脳内で繰り返されていくのを感じた。その響きの間に、美晴の呆気にとられたような顔が映る。だめだとわかっていても、止めることはできなかった。

「誰かが、何かがやったんだ。だから、美晴は悪くない。自殺したんじゃない……」

 間違っている。おかしい。おかしいのは、俺じゃない。俺をこういう状況にさせた、何かがおかしい。

 美晴が、何度か首を振りながら、俺から遠ざかっていく。俺を、怖がっているみたいだった。

「なんなのそれ。おかしいよ」

 俺はむきになって、色々なことを叫んだ。美晴も負けないくらい大きな声で叫び返してきた。その中にはお互いに一度も言ったことのない、ひどい言葉も含まれていた。それでも、俺は止まれなかった。

 美晴が泣きながら出て行った後、俺は目元を乱暴に拭ってから布団をかぶった。目を閉じる直前、何かの言葉が頭をよぎったような気がしたが、拾い上げる余裕もなかった。


 欠席可能日数:残り〇日


 一番大切な人が────

 喘ぐように息を吸い込みながら、俺は目を覚ました。半身を起こした勢いのまま、ベッドから転がり出る。部屋には立派なクローゼットや前のよりも大きい全身鏡があったが、それを見もせずに部屋から飛び出した。ほとんど手すりに寄りかかるようにして階段を駆け下りていき、玄関の扉に飛びつきながら、外に出た。

 道路の感覚がいつもと違う。靴を履いていないからだ。それでも、走り続けた。親戚の持ち家は元の家とあまり離れていない。だから、慣れ親しんだ通学路へとすぐに出ることができた。途中で小石を踏んだせいか、裸の足から血が流れ出ているのがわかった。それでも走り続けた。ランニングをしている老人や、少し急いでいる風のサラリーマン。彼らに驚かれても走り続けた。途中で美晴を追い越し、焦った声で呼び止められても走り続けた。足から伝わってくる血のぬるぬるとした感触や痛みがなくなっていっても走り続けた。

 野岸南高校の正門には、全く生徒がいなかった。校舎の壁にある時計は、八時半を示そうとしている。既に、門が閉まっていた。俺は門に一度両手を付けてから、背伸びをした。ぎりぎり、越えられそうなくらいの高さだ。息を吸い込んでから、門を登り始めた。

 息が詰まる。苦しい。体はもう限界だった。ずっと寝ていたのに、急に動いたからだ。腕に力が入らない。途中で足から流れる血で滑った。門の上から地面へと背中から落ちた。俺は口の端から涎をこぼしながら、再び立ち上がった。今度はもっとがむしゃらに取り付いて、手の皮が擦れるのも構わずに力いっぱい掴んだ。反対側へと超える途中、門の柵に引っかかり、太ももの辺りで激痛が走った。その痛みで力が抜けた。全身に浮遊感。

 もう何度も聞いた、馴染みのあるチャイムが鳴っていた。仰向けに倒れたまま、俺は前へと顎を動かした。顎先が地面の砂に擦れて、少し痛かった。

暗闇が下りてくる直前、その文章がはっきりと表れるのがわかった。


 面白くならなきゃ死ね 


 場所:野岸市

 期間:一年生の修了式まで

 目的:不明

 手段:不明

 要注意事項:不明




 目を開けると、白いカーテンが見えた。

 呻いてから、寝返りを打つ。目を泣き腫らした美晴が、すぐ横で座っているのに気がついた。俺は半身を起こそうとしたが、その前に美晴の方から首元へと抱きついてきた。

「美晴」

 美晴は俺の胸を拳で叩いた後、顔をうずめてきた。鼻をすすっていた。

「わたしを置いてかないで。ひとりぼっちにしないで……」

「ごめん。ほんとにごめん」

 美晴の頭を撫でながら、俺は正面を見ていた。


 二周目特典として、インスピレーションアイテムが与えられます


 イオニアン・リング

     効果:大切な人と共に生きよう

     ペナルティ:ふられたら死にます

   ……


 まだ続いているリストを見ながら、考えた。全く面白くならなかったので、貴方の一番大切な人が死にます。確かにこの文字はそう言っていた。俺にだけしか見えない文字を書いた何かが、母さんを殺したのは間違いない。そしてそれは一度だけでは満足しない。

 より強く、美晴を抱きしめた。自分の妹だけは守らなくてはいけない。もう、ちゃんとした家族は美晴だけしかないのだから。そのためにどうしたらいいのか。面白くなればいいらしい。本当に頭がおかしい。馬鹿げている。

 だが、そうするしかないのだ。

 カーテンが大きく開かれる。ここは、学校の保健室のようだった。保健室の女性教師と、かなり強面の男性教師が見えた。男の方は、三年間俺のクラスの担任をしていた教師だった。

 初対面のように見てきている二人の教師に向かって、頭を下げた。

「今日から、よろしくお願いします」



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