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第3話 "ドナドナされていた美少女" ★

 そっと。

 言葉なく、交差していた影が離れる。

 月明かりが照らす中、涙の跡が光る。

 照れたように笑みを交わす青年と人形の少女。


「そ、それじゃあ着せるね」

「はい、お願いします。オーナー」

 気持ちが高ぶりすぎたが、思い返す恥ずかしさについ、緊張を感じる2人。


 白いシームレスにするりと、足を通す。

 銀色の線材から作った縁取りに彩られたドレスを着せていく。

 腰回りを締めるコルセット、後ろのリボンをきゅっと結ぶ。


 窓から差し込む満月の光の中に、白と銀で彩られたドレスアーマースタイルのヴァルキリーが誕生した。

 ひらひらと揺れるスカート、カチューシャをベースに、頭の両側から延びる翼飾り。

 人形衣装に特化した細工スキルと裁縫スキルを、今できる限りを込めて創り出したドレスセット。


「着心地はどう?」

「完璧よ。動きやすいし、何よりあなたの温もりに包まれているようで至福だわ」


 ひらりひらりと、左右に身を回し、月光に舞う人形少女。

 ああ、どうしてこの世界に一眼レフカメラを持ち込めなかったんだ。

 いつか映像記録装置を手に入れてみせる! 脳内のやることリストのトップに1行書き加える。


「スキルも、なかなかのものだと思うわ」

「それがあったね。自分のステータスでは見えるけれど、教えてくれるかい?」

「ええ。もちろん。オーナーと私、2人に同じスキルが共有されているわ」


 《光魔法Lv2》, 《剣術Lv1》, 《魔力強化Lv2》, 《身体強化Lv1》, 《浮遊 Lv2》


 神眼で見てもらうと、この世界のスキルはLv10が通常の最大値。

 冒険者は2,3個組み合わせの相性が良いスキルをLv3で持っていれば腕利きの部類、Lv6ともなると達人級らしい。

 流石に今の裁縫/細工スキルではこれが限界だったようだが、組み合わせも厳選したなかなかのできに満足。

 主な素材は”魔蚕の絹(マテンのシルク)”、飼育に成功したモンスター化した(かいこ)の糸で作られる高級品だ。《光魔法》はこれのお陰だった。


 他に主なスキルの発現元となった素材は、

 ・随所のアーマーパーツのベースに使ったサーベルタイガーの牙が《剣術》

 ・角兎の毛皮が《身体強化》

 ・グリフォンの羽根が《浮遊》

 ・縁取りや装飾の銀素材が《魔力強化》


 グリフォンなぞが出没しては恐ろしいと鑑定してもらったが、これは遠く冒険に出た時に、拾ってきたものだったらしい。

 サーベルタイガーなら少し奥に行けばいるとの事でもあったが……。


「いつかもっとすごいドレスを作るからね!」

「ありがとう、楽しみにしているわ」

「楽しみなのは俺の方さ。スキルのお陰でいろいろなドレスが作ってあげられそうだ。もっと鍛えて、着飾った紗雪を見られるのが楽しみだよ♪」


 前世に置いてきてしまった無数のドールサイズドレス、衣装。何とか持ってきたいものではあるが、生産スキルを鍛えていつか再現してみよう。


「明日はいよいよ町へ向かうのでしょう? 今日は早めに休みましょう」

「そうだね」


 もう一度ベビードールに着替えさせようと申し出たが、よほど新しい手作りドレスがうれしかったのか今日はこのままでいたいと、固辞されてしまった。

 小声で、”もう一度お着替えしてもらうのは、心がどうにかなってしまいますわ” と聞こえたのは聞かなかったことにすべきだろう。というか俺もだ。今度こそ高鳴りすぎた鼓動に、確実に心臓が破けるだろう。



 明くる朝。



 冒険者時代に、この狩猟小屋の持ち主、ハンスさんが使っていたらしい背負い袋に補修用の素材や食品、食器類を詰め込む。

 服は多少サイズが大きかったが、スーツ姿で森の中も無かろうと、厚手の皮で補強された冒険服一式をベルトで絞めて着る。裁縫スキルが人形衣装特化なので、人間サイズは手も足も出なかったのだ。

 お金も、銀貨や銅貨が残されていたので、申し訳ないと思いつつも頂戴した。

 紗雪に念入りに鑑定してもらい、相続すべき親族もいないことは確認済みだ。


 ちなみに、お金の単位はゴールド。鑑定で日用品を見てもらった感じ、1ゴールド=1円くらいの感覚でよさそうだ。

 いただいた総額は27万ゴールド。当座の生活費には十分だろう。


「結構な荷物になったな……さて、行こうか!」

「ええ。いよいよこの世界で、オーナーとの新しい生活が始まるのね」


 そう返してくれる彼女は今、顔のすぐ横を飛んでいる。

 俺が使うとせいぜい10㎝浮く程度の《浮遊Lv2》だが、彼女の場合体重の軽さも手伝って、普通に空を飛べることが分かった。

 しかも魔力消費も少なく、浮いて移動する程度なら一日中使っていても問題ない。

 速度はさほど出せないが、もっとレベルが上の装備か、あるいは《飛行》のスキルが付いた装備が作れれば、空中機動力はかなりのものになるだろう。



 1時間ほど歩いただろうか、紗雪の”眼”で周囲に危険が無いかを見てもらいながら、街へ進む。

 もう少しで森を抜けるか? という頃。焦げ臭いにおいがするのに気が付く。


「今すぐ迫っている危険はないみたい。でも……何かしら? 神眼で辿れないわ」

「君子危うきに近寄らず、かな。戦闘経験も無い今、無理は禁物だし迂回しよう」

「待って……。(えにし)が見える、かも。行くべき? って、”神眼”には”視えて”きたわ」

「む、それは捨て置けないか。仕方がない、気を付けてこのまま進もう」

 まだLv1という事もあり、事象を辿れる限界もあるのだろう。自身なさげではあるが、せっかく紗雪が一生懸命”視て”くれたのだ。用心しつつも進むことに決める。それに、紗雪のこの能力も女神様がくれたものだとすれば、きっとここで見えた縁には意味があるはずだ。



 見えてきたのは燃え落ちた樹々。折り重なるそれの下敷きになった鎧姿の、兵士達?

 そこら中に争ったような形跡。血の跡、折れた剣、突き刺さった矢。

 凄惨な有様にもっと参るかと思ったが、存外平然としている自分に驚く。転生の影響だろうか?

 前世ではグロテスク系やホラー系は大の苦手だったのだが。



 馬は逃げたか、殺されたか。横転した箱馬車の2台が炭化し、最後の1台、金属補強されているそれだけが直立したまま、倒れた大木の下敷きになりながらも辛うじて原型をとどめている。

「あの中。そこに(えにし)を感じるわ。他に生きている人はいないみたい」

 最後の馬車を指さす紗雪。

 ひしゃげた、金属板を打ち付けた扉を開くと、中には1人の女性。

 貫頭衣を1枚着せられ、サンダルを履いただけの薄着はとても森の中を歩く備えには見えない。

 もっとも、その恰好のお陰で、胸元の豊かな膨らみから女性とわかったのだが。


 なにせ、彼女の姿は異様だった。

 岩のように頑丈な金属製の手枷と足枷をはめられ、首にも武骨な金属の首輪。

 挙句、頭部はすっぽりと黒い袋に覆われ、顔が見えない。

 浅い呼吸に動く身体から生きていることはわかる。


「目にしてはっきり分かったわ。彼女が例の探し人よ」

 女神様のお願いにあった少女が彼女だという事か。

 見るからに厄介事の匂いしかしないが、こうして新しい人生を、それも紗雪と共に生きるチャンスをくれた女神様のお願いだ。無視するわけにはいくまい。


「聞こえているかな?」

 問いかけてふと思い出す。俺が話している言語はなんだ? 意識することなく普通に会話していたが、日本語? ではない気がする。

 捕らわれの女性が身じろぎした。耳は聞こえているらしい。が、喋れない?


「今から頭を覆っている布袋を外す。俺は通りがかりの者だ。ここで何があったのかもわからないが、敵対の意思はない」

 かすかに袋が前後に動いた気がする。頷いたと考え、そっと手を伸ばす。

 顎下で絞められていたひもを解き、そっと袋を外す。


「……っ!」

 紗雪が息をのむ声が聞こえた。

 俺も目を見開き、間抜けな顔をさらしていることだろう。


 開け放たれた箱馬車の扉から差し込む陽光を浴び、自ら輝きを発するがごとき、ストレートロングのプラチナブロンドヘアー。 金色の瞳を宿した白皙の相貌。

 クールな美人という形容など生ぬるい。

 神が作りたもうた芸術作品と呼ぶことこそふさわしい、途方もない美少女の姿がそこにあった。


 袋を取って見えた枷の下、首の付け根表面には茨のような黒い、入れ墨だろうか? 紋様がくっきりと描かれている。

奴隷紋(どれいもん)、というみたいよ」

 “眼”で見てくれた紗雪が補足してくれる。頷きを返し、少女に問いかける。


「喋れるかい?」

 かすかに傾げられる首。金色の瞳を逸らし、何かを探すように左右に視線を振る。

 枷が重いのか、体は動かしづらいようだ。

 割れた窓から見える外、ある1点で視線が止まる。その先を追うと、鎧ではない、ひときわ豪奢な宗教色を感じる服を着た白髪の男が胸を剣に貫かれ、死んでいた。

 それを見て、しばし逡巡するような沈黙。

 彼女の口から澄んだ清流のような、清らかな声が、こぼれ出る。


「主の死亡を確認」


 しかしその語り口は、機械合成音のようなものとももちろん違う、だがどこか平坦で感情を感じさせない、不思議な語り。

 なるほど、あの男が奴隷としての彼女の主だったわけか。


「権利書を確保の上、街へ。わたくしの所有権を貴方に」

 脳に染み渡るような美しい声ながらも、片言で無表情に、囁くようにしゃべる。

 事前に与えられていた主不在の奴隷への命令、とかそういうものなのだろうか?

 歴史の断片的な知識でもなければ、前世の物語くらいでしか知らない、奴隷という存在に思いをはせる。


「手足の(かせ)を外す方法はわかるかい? 鍵のありかとか」

「鍵はございません」


 紗雪に”眼”でも探ってもらっても、鍵らしきものは確かになかった。権利書らしき書類を見つける。

 彼女の向かいの席の下に据え付けられた、頑丈な箱の中に収められた羊皮紙がそれだった。

 他にも金庫らしき開かない大きな箱もあったが、持ち歩けないうえ、彼女の事から誰が持ち去ったか足が付きそうなので、放っておく。


 それにしても権利書の文字を見て実感する。

 この世界の言語だ。日本語でも英語でもない。なのに自然と理解できる。

 女神様のお陰だろう。どうやら自分は日本語の感覚のまま、この世界の言葉を自然と使っていたようだ。


 あまり悠長にしていて、襲撃犯と出くわしても大変だ。

 外せない足枷にどうしたものかと悩んだが、俺が彼女に浮遊をかけ、とにかく急ぎ町まで、お姫様抱っこで進むという結論に至った。

 MPが切れたら都度、休憩だ。



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 紗雪のイメージ写真をさし絵に変わり投稿させていただきます。

 主人公ナオが脳裏に描く前世でのイメージと捉えていただけますと幸いです。


挿絵(By みてみん)


※写真に写っておりますドールは筆者所有のドールを筆者自身が撮影した写真です。転載等なされませぬようお願い申し上げます。

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