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001_プロローグ

よろしくお願いいたします。

 学校の教室より少し広いくらいの空間に20人程度の人間が、中央の魔法陣を囲むように杖を両手で握りしめ立っている。

 蠟燭の僅かな灯りと魔法陣が発する光に部屋にいる者たちの姿が照らされる。


 背中に十字架が刻まれた白いローブを着て、先端に半透明の宝玉がはめ込まれた鉄製の杖を持つ。そんな人間が20人。

 宝石と金糸で装飾されたローブを羽織り中央の魔法陣を睨み付けるように凝視する老人が1人。

 そして、老人の着るローブよりも数倍、あるいは数十倍の値段がするであろう純白のドレスを纏った十代くらいの少女が1人。


 少女は緊張から流れる汗をそのままに魔法陣を見つめる。汗を放置するなど本来の彼女なら決してしなかったであろうこと。もし教育係に見つかってしまえば小一時間は王族の作法についての講義という名の説教を受けてしまう。

 しかし、今この空間にそのような細事を指摘するような者も、気にする余裕のある者も存在などしない。


 白いローブを着た者たちは両目を閉じ、一心不乱に何事かを唱え続けている。聞くものが聞けばそれが召喚魔術に使用する詠唱であると気付くだろう。それでも、この人数を必要とする召喚対象を正確に推測できる者は世界を探しても片手に収まるくらいであろう。

 もしこの光景をそこらの召喚士や魔術師に見せたとして、悪魔や天使を召喚しようとしているのでは、と見当外れの予想しか出すことはできないだろう。

 しかし現実はもっと偉大な存在であり、遥かに恐ろしい所業である。


「............」


 老人は儀式が始まっておよそ二時間。身じろぎ一つせず、一言も発さずに魔法陣を睨み付けている。その眼力からは鋭さに反して懇願するような、縋りつくような感情が読み取れる。

 それもそのはず、この儀式の成否によりこの老人の物理的な意味での首と、王国、そして人類の命運が掛かっていると言っても過言ではないのだから。


「神様......どうか......」


 比べてドレスを纏う少女はというと、両手を胸の前で握りしめ神への祈りを吐露する。儀式が始まる前に、召喚士たちの邪魔になるため声を出さないようにと厳重に注意がされていたのも忘れ、祈りの言葉を唱え続ける。

 その集中力は恐ろしい教育係の講義ですら見ないほどである。

 しかし、召喚士たちの集中もまた深く、少女一人の呟きなど耳に入ってはこない。


「......!マーディス様!こ......これは!?」

「ぬぅ!?なんじゃこの反応は!?」


 魔法陣の光が一層明るくなったと思ったら、唐突に点滅を始める。それまで白一色の光だったのが、赤、青、紫とカラフルに、急速に色を変え続ける。

 明らかに正常ではない動作に少女から名前を呼ばれた老人、マーディスは驚愕の声を上げる。

 本来なら大きな光の後に目的の人物が魔法陣の上にいるべきこの儀式。その工程にこのような光の点滅などありはしない。

 王国付きの魔術師として召喚士としての腕も一流と自負するマーディスは見たこともない現象に考えを巡らせる。

 成功も失敗も数えきれないほど経験してきた自身でも知識にない魔術反応。だがしかし、一つだけ思い当たることを記憶の中から引きずり出してくる。


 それは、(いにしえ)の魔導書に書かれていた、術式阻害魔法。


 今では知っている者は少なく、使える者など数えるほどしかいない古代の魔法。

 マーディスも知識としては知っていても実際に見るのは初めてであった。


 古代魔法の発動条件を熟知し、実際に発動できる者など、マーディスの知る限り世界で数えるほどしかいない。

 その数少ない候補の中で、この儀式を妨害するだけの実力と動機があるのは一人しかいない。


「まさか......魔王か!」


 思わず口を出た言葉に召喚士たちに動揺が走る。しかし、この場にいることをゆるされた彼らもまたマーディスと同じく一流。どれだけ驚愕に心を揺らされようとも、詠唱を止めることは決してない。


「マーディス様!ど......どうするのですか!?儀式は!」

「リリアーヌ様よ、お下がりくだされ!ここで止めることなどできる訳もありませぬ。おぬしら、詠唱を止めるでないぞ!」


 マーディスの声を受け、召喚士たちは二時間続いた詠唱を継続する。その額には汗が流れ、杖を持つ両手は緊張からか恐怖からか震えが止まらない。それでもこの儀式を止めることは決してない。

 この召喚が失敗することの意味を、失敗した先の未来を一人ひとりがよく理解しているため、彼らは一心に、あるいは祈るように詠唱を続ける。


 より一層大きく、眩い光が部屋のすべてを包み込む。

 儀式の成功を知らせる白い光は、しかし、僅かな黒を帯びていた。




◆◇◆




 身体を包み込むような浮遊感に意識が覚醒していく。

 熱くも冷たくもない、不思議な感覚に身をゆだねながらぼんやりとした頭で徐々に目を覚ましていく。


「うぅん......」


 寝ぼけまなこを右手でこすりながら起床の準備をする。

 普段であればこのまま眠気に身をゆだねて二度寝を慣行するところだが背中に感じる違和感がそれを許さない。

 ベッド特有の感触も、頭まで包み込むような毛布の暖かさも感じず、背中には何か薄いものが積み重なったような柔らかさと全身に肌寒さを感じる。


「ふぅ......ん?」


 寝ぼけてベッドから落ちたのか、はたまたリビングで寝てしまったのかと普段から働かない頭を使い、ため息交じりに薄目を開ける。

 目を刺す光に照明をつけたまま寝てしまったかと、昨日の自分に呆れながら右手を支えに身体を起こそうとする。

 しかし、手に帰ってくるのはベッドよりも硬い、床よりも柔らかい感触。横になったまま手元に目を向けると、そこには床もベッドもなかった。

 というか室内じゃなかった。


「え......は?」


 眠気も吹き飛ばす光景に意識が一気に覚醒していく。

 身体を起こし目に映るのは、見渡す限りの自然。自身の身長を軽く超える木々が視界の限り続き、身体を支える両手の下にはむき出しの地面の上に落ち葉が重なる。

 早い話が森であった。


 昨日の記憶を探りながら、自身が大自然のど真ん中で熟睡していた理由を思い出そうとする。

 しばらくして、現状をぼんやりと理解した彼は、今出せる精一杯の声を上げる。


「ここ......どこぉ?」


 若干涙目になりながら、情けない声で呟いた少年は結局何もわからないまま途方に暮れる。

 何度昨日の記憶を掘り返そうが全く現状に繋がらない異常事態に、不安と恐怖が胸中を支配する。


 そんな感じで少年、浮月(うわつき) (あらた)の冒険は始まろうとしていた。

 こんな感じで物語が始まりました。

 取り敢えずは三人称視点、一話につき5000文字(誤差1000文字以内)で進めようとはおもいますが、ストーリーも文体も不明確なまま始めた故、色々とぐちゃぐちゃになるかと思います。

 読みにくいからもっとこうしてほしいなどあれば、ぜひ感想欄までご意見ください。

 拙作ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。

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