表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

第五部2 もうハッピーエンドでいいじゃないですか

とうとう最終話を迎えました。

これまでお読み下さった方、感想を寄せて下さった方、誤字脱字報告をして下さった方、本当にありがとうございました!

本編に続き、ifストーリーも無事に(?)終わらせる事が出来たのも皆さまのおかげでございます。

この物語の結末が、皆さまの思い描いていたものでありますように。

それでは最後までお楽しみいただけると嬉しいです。

なんで?


どうしてこんな事になってんの?


すんごく順調にいってたのに。



もう少しでフェリシア(あの女)を追い出せて、

アタシが王子妃に収まって贅沢三昧していく筈だったのに。


それがどうしてこんな事に。


ていうかここはどこ?

何でアタシってば牢に閉じ込められてんの?


なんか手錠みたいなのも嵌められてるし。


え?魔法が使えない?なんで?


ウィリアム様はどこにいるの?



訳がわからずウロウロしていたその時、牢の頑強な扉が嫌な音を立てて開いた。


「……!」


そこにいたのはまさに女神!って感じの綺麗な人だった。


ドレスも素敵。

絶対高級品だわ。


でもなんで帯剣してるの?


変な人、と思いながら見ていたら

その人が口を開いた。


「はじめましてご機嫌よう。フェリシアの母です。気が付かれましたのね」


フェリシア様のママ!?

嘘、全然似てないじゃない!

フェリシア様ってパパ似だったのね〜ウケる。


なんて内心考えながら、

アタシは淑女らしく覚えたてのカーテシーをした。


「はじめましてフェリシアママ。癒しの乙女、リリナと申しますぅ」


「カーテシーの膝を曲げる角度がなっちゃいませんわね、落第点ですわ」


ムカっ

「すみませぇぇん、ウィリアム様の癒しのお仕事が忙しくってぇ、なかなかマナーレッスンが受けられないんですぅ」


「王子にくっついているだけの簡単なお仕事、ですのにねぇ。マダニでも出来ますわ。あぁでも貴女にぴったりね、血の代わりに魔力と金品を吸い上げて。精力を吸い上げられなかったのは残念でしたわね〜」


完璧な笑顔を浮かべながらフェリママが言った。


何よ、何なのよこの人。


こんなに優しそうで信じられないくらい綺麗なのに、

口から出て来る言葉はえげつないわ。


「……アタシをどうするつもりですか」


「王族に中〜途半端にでも魅了をかけたのよ、極刑は免れないわ」


「……どうして?いつからバレちゃってたのかしら?最初から?そんなはずはないわよね?」


「バレる訳がないと思っていたの?気づかれないと?貴女、周りをバカにし過ぎですわよ。確かにかなりの実力者だとは思うけど、貴女より上位の魔術師は五万といるのよ」


アタシ……死刑になっちゃうの?


いやだ、いやだ、教会は……。

ダメだアイツらは自分の事しか考えない。


アタシは段々と自分から血の気が引くのを感じていた。


なんとか……なんとか助かる方法を!


「ねぇフェリママ、助けてよ?アタシ、教会のヤツらの秘密を結構掴んでるのよねー。なんでも話すからさ、その代わりアタシは見逃してよ」


アタシの言葉を聞いて、

フェリママはふっと笑った。


お、かかった?


でもその笑みはさっきまでの柔らかい感じじゃなくて、なんというかとっても冷たいものだった。

蔑み?みたいなものも混じっているような……。


「ごめんなさい、そんなものはもう要らないの。だってもう、教会幹部の糞どもは私がぶっ潰したから……アラ失礼、口が悪くて。どうも騎士団時代に覚えたものが不意に口から出てしまうのよねぇ」


え?教会のヤツらをぶっ潰した?

それってアタシに退路はもう無いって事?


ますます顔色を悪くしているであろうアタシを見て、

フェリママは言った。


「貴女のその力、正しく使っていればどれだけの人の役に立ったのでしょうね」


「アタシの力はアタシだけのものよ!なんで他人のために使わなきゃいけないのよ!」


「今からでも遅くはないわ。刑の執行まで時間はあるもの。たっぷり、世の中にご奉仕してゆきましょうね」


これ以上ないくらいに眩しい笑顔でフェリママが言う。


え?ご奉仕?何のこと?


「この世界には無駄に魔力を宿してしまったり、悪意をもって魔力を込められてしまった物やイキモノが沢山いるのよ。貴女の癒しの力でその魔力を吸収して昇華しちゃって頂戴♪」


「な、なんでアタシがそんな事しなくちゃいけないの!?」


「だってこれも罰の一つですもの。死刑は倫理的にも一瞬で終わらせる。私自身の考えとしては、それでは罰になり難いと思ってますの。だからどうせなら、世の中の役に立ちながら永い時間を掛けて償いなさいな。貴女次第で、私は減刑も願い出るつもりよ」


「……そんなこと……!」


「最初は強制されてする事も永い時間をかければ、かけがえないライフワークになるかもしれないわよ?」


「何をわけのわからない事をっ」


「ふふ。私、ほんの少しだけそうなる未来を信じてみたいのよ。だから見届けさせて貰いますわね。あ、ちなみに逃げようとしたり、また他人を利用しようとしたら刑の執行は私が行いますからね」



いやだ寒気が……。


フェリママってば笑ってるだけなのに

なんでこんなに冷たい汗が流れてくるの?


「とりあえず貴女はくっつくのがお好きなようだから、魔力障害の巨大牛の癒し作業をお願いするわね。簡単よ、貴女が以前からしている四六時中体を密着させて余剰魔力を吸ってればいいのだから。それではよろしくね」


そう言い残して、

フェリママは牢から出て行った。


ちょっ……待って、


巨大牛?


四六時中!?


「ちょまっ……イヤよイヤ!

かんべんしてよ、誰か助けてーー!」


「ウィリアム様ぁぁ!」


「もう誰でもいいからーー!!」



この日、

アタシの雄叫びは

牢のある拘置所の1キロ先まで届いていたそうだ……。





○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○




「まあ!それではご婚約が正式に決まったのね」


「ええ、やっと。やっとよあの男、即位してからそんな暇はないと縁談を(ことごと)く蹴散らしてきたけれど、とうとう年貢の納めどきね。隣国からの申し出で、第一王女様との婚約が結ばれることになったの」


癒しの乙女ことリリナと教会上層部が引き起こした騒動から3年の月日が流れていた。


今日はお母さまが、遠路はるばる侯爵領から長距離転移魔法でわたしに会いに来てくれている。


そこで新国王となられたアルバート陛下の婚約が決まったと教えてくれたのだ。


アルバート陛下は

1年半前に即位され、国王となられた。

前国王が手付かずで放置していた国内問題が山のようにあり、即位当初から現在に至るまで、寝る暇もなく馬車馬のように働いておられる。


この国の民はみんな働き者だから、

王様も働き者なのはいい事だ。


「アルバートはね、どうしようもなく頭でっかちで生真面目で融通が利かなくて小狡い男だけれども、民に悪政を強いる王よりはマシなのよね。

上位貴族には苦労や犠牲を強要するけど。それでいいのよ。(まつりごと)は綺麗事だけでは済まされない。アルバートを愚王にするか賢王にするかは臣下である我々次第よ。まぁどうしようもなくクズ王になったら、私が瞬殺してウチの息子の一人に首をすげ替えるわ。うふふ、沢山生んだもの。誰にしようか迷うわね」


お母さまったら楽しそう。


「それで?あなたの体は大丈夫?

 お腹の赤ちゃんは順調なの?」


「ええ、おかげさまで順調よ。昨日、初めて胎動を感じたの」


それを聞き、

お母さまは嬉しそうにあれこれ出産や育児の話をして、

また転移魔法で帰って行った。



そう、

今わたしのお腹には丁度安定期に入ったばかりの赤ちゃんがいる。


もちろん、赤ちゃんのお父さんはウィリアム様だ。


わたしとウィリアム様は2年前に結婚した。


わたしとの結婚を機に

臣籍に降りられ、公爵位を賜ったウィリアム様は

陛下より拝領した領地を正しく治めるべく日々奮闘されている。


わたしの開発した魔道具のおかげで

もう余剰魔力に悩まされる事はなく、バリバリと領地経運営に励まれているのだ。

この2年でとても逞しくなられた。

もうかつてのようなヘタレ王子の面影はどこにも見当たらない、と信じたい。


魔道具で吸収したウィリアム様の魔力は、

ここ数年深刻化していた市井の魔力不足に大いに貢献してくれた。


平民は魔力量が少ない者が多く、魔力を買わなくてはならないのだが、昨今その魔力を売る者、魔力提供者が減っているという。

そのために魔力不足に陥っていたそうだ。


それをウィリアム様から毎日排出される無尽蔵な魔力が

この問題を解決したのだ。

だって毎日出るのよ、大量の魔力が。

こちらとしても、どんどん使って貰えたら本当に有り難い。



……リリナ様があれからどうなったのかは、

わたしは知らない。


お母さまに尋ねても「……さあ?」とはぐらかされて教えて貰えない。


公に刑が執行された話は聞かないので、

今も生きているのかそれとももう天に召されているのか、

わたしにはわからない。


きっと知らない方がいいのだろう。



そしてライアン様は今もウィリアム様の側近、いえもう側近とは言わないわね、今は従者として相変わらずウィリアム様の右腕として働いてくれている。

いずれは我が家の家令を務めて貰おうと考えている。


その前にお嫁さんかな?


誰か素敵な人がいないか一度お母さまに聞いてみよう。



サリィは結婚を機にわたしの侍女を辞めた。


叔父である騎士団長の紹介で年上の素敵な騎士サマと結婚したのだ。


とても幸せに暮らしていると、よく手紙をくれる。




みんなの人生が緩やかに過ぎてゆく。



誰かの人生と誰かの人生が

時折交差して、また緩やかに離れてゆく。



決して交わらない人生もあれば、


交差してすぐに一つになる人生もある。



わたしとウィリアム様の人生は

紆余曲折を経て無事に一つになれた。


悲しい思いや苦しい思いを沢山した。


でもあの時わたしがいたから今のわたしがいる。


あの時、ウィリアム様を諦めなくて本当に良かった。


手探りでも手を伸ばして、


握り返してくれた手を離さなくて本当に良かった。



これからもわたしは彼と


そしてお腹にいる小さな命と共に生きてゆくのだ。


わたしは今、本当に幸せだ。





「シア、ただいま」


「ウィル!お帰りなさい、ごめんなさい気付かなかったわ……ウィル?どうしたの?」


「……今、心の底から幸せを噛み締めてた」


「え?何?」


「だってシアが、僕の愛する奥さんで、そのシアのお腹には僕たちの可愛い子どもがいる。そして何よりも、またウィルって呼んでくれた……これ以上の幸せがあるかい!?」


「もうウィルったら大袈裟ね」


「大袈裟なもんか。僕は何度でも大声で言うよ!シア、僕を諦めないでいてくれて本当にありがとう!!僕を夫にしてくれてありがとう!!そして僕を父親にしてくれてありがとう!!」


「ちょっ…声が大きすぎるわ、家中のみんながびっくりしてしまう」


「いいんだよ、みんな慣れてるさ」


「それもそうね」


わたしたちは二人で笑い合った。



様々な出来事を越えて今がある。


辛い事も嬉しい事も越えて今がある。



あの頃のわたしに教えてあげたい。



辛くて苦しい日々の向こうに、


乗り越えたからこそ見える景色がある事を。



かけがえのない、変わらない笑顔がある事を。






                 おしまい




















さて、いかがでしたか?

ifストーリーを書くにあたって、たった一つの展開が違うだけで、こんなにも色々と変わってくるものなのか…と新しい発見が出来て楽しかったです。

本編と違うところ、ここは本編と変わらないであろうところ、それぞれを織り混ぜながら物語を組み立ててゆく楽しさを知りました。

話の流れから、本来結ばれたであろう“あの人”は出て来ませんでしたし、“あの子”も出て来ませんでした。

でも別の並行世界で別のフェリシアと幸せになっているのだと考えると、それはそれでまた面白いなぁと思える。物語は無限に広げてゆけるのだと改めて感じました。本当に書いてて楽しかったです。

なろう版を是非、と言って下さった読者さんに心からお礼を言わせていただきたいです。

そのお言葉がなければifストーリーを書く事なく、本編のみで終わらせていたかもしれません。

「もう彼女でいいじゃないですか」はこれにて完結しますが、皆さまの心の片隅に記憶が残る作品であれば、これ以上の幸せはありません。

最後までお付き合い、本当にありがとうございました。


アルファポリスさんの方で連載中の

「だから言ったのに!〜婚約者は予言持ち〜」も

加筆修正を加えて、なろう版として投稿しようか考え中です。

その時はどうぞよろしくお付き合いいただければ幸いです。本当にありがとうございました。


        キムラましゅろう


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アルファポリス版エンドは面白かったし溜飲が下がるものでしたが、このifを読んでみてまだ若くて良い関係性のカップルを謀略の為に犠牲にすることを選んだフェリシアの両親も王太子も大人みんなダメダメだろうと思…
再読しました。やっぱりハピエンは良いです!ありがとうございます。
よかったです!フェリシアが幸せになれて、ウィルと結ばれて…このラスト、すきですよー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ