第四部2 母来たる
いつもお読みくださりありがとうございます。
誤字脱字報告もホントありがとうございます!
いつも多くてすみません…。
今アルファポリスで連載してる話に出てくる女が嫌な女で、書いててしんどい……。
今の展開がしんどい……ので、こちらの話のフェリシティ様でストレス発散します。
忘れてましたが今作も一応R15保険でかけてました。でも話の流れ的にお下品なワードは出ませんでしたね。本編では少し(?)出てます。
お上品なまま完結しますように…!
こんな凄い人と僕の父上が同じ兄妹なんて信じられないな……
初めてフェリシティ様を見た時、僕はそう思った。
当時第三王女でありながら、
魔術騎士団に所属していたフェリシティ様が
大恋愛の末に騎士団を辞め、遠い辺境地の侯爵家に嫁いだ事を公表した時、国内だけでなく大陸全体が震撼したという。
美姫というだけでなく、
才気溢れる魔術騎士として大陸中に名を馳せていたフェリシティ様を知らない者はいなかったらしい。
輝く銀髪にペリドットの瞳。
服装は侯爵夫人らしく優雅に洗練された
ロイヤルブルーのマーメイドラインのドレス姿。
月の女神かと見紛う美しさに反して、
腰には歴戦を物語る無骨な剣を佩いていた。
父親似であるフェリシアとは
本当に全く似てないが、二人は正真正銘の親子なのだ。
場が鎮まってくると
何が起きたのかようやく視認できた。
……フェリシティ様が城の頑丈な壁を破壊して、新しい入り口を造って下さったようだ。
ついでにリリナの空間結界も蹴散らしてくれたらしい。
僕が目を白黒させて見つめていると、
瓦礫の山の頂きにいたフェリシティ様と目が合った。
「お久しぶりでございますね王子。以前お会いしてからいつぶりかしら?たしか魔力障害でお倒れになった時にお見舞いに馳せ参じた時以来でしたわね。あの時はまだ前任の癒しの乙女が王子の肩に常に手を触れて、懸命に余剰魔力を吸い上げておられましたわ」
そう言いながら、
フェリシティ様は優雅な仕草で瓦礫の山から降りてくる。
僕は慌てて服装を正した。
「アラ、お楽しみのところをお邪魔してしまったかしら?今の癒しの乙女は魔力だけでなく、精力を吸収するのもお好きなようね。尻軽そうだと思っていたけど、爆風に飛ばされて尻から着地した姿を見た時は尻の重い女だったと考えを改めましたわ」
とても優しげな声色で紡がれるその言葉は、
なんとも辛辣なものだった……。
「それで?確か王子はまだウチの娘の婚約者でいらしたと記憶するのだけれど、違ったかしら?」
「っもちろん!
今も昔もフェリシアは僕の大切な婚約者です!」
僕は必死になって言った。
フェリシティ様は
誰もが見惚れるであろう微笑みを浮かべた。
「王子、嘘偽りなくお答えください、
……………未遂?それとも事後?」
僕は真っ青になりながらフェリシティ様に
縋り付く勢いで答えた。
「信じてください!み、未遂です!危ないところをフェリシティ様に救っていただきました!」
「まぁね、状況を見れば大体わかりますけれど。命拾いしましたわね王子、事後でしたらチョン切っておりましたわよ」
僕はひゅ
っとして
思わず股間を押さえそうになるのをなんとか堪えた。
そんな僕をお構いなしに
フェリシティ様は何も言わずに僕の目を見つめてくる。
この世のものとは思えないほどに美しいペリドットの瞳。
全てを見透かされているような眼差しに居た堪れなくなり、目を逸らそうとした僕にフェリシティ様は言った。
「……王子、貴方、間違いなく掛かってますわね。しかも中〜途半端に。そこに転がっている小娘の仕業ですわね」
フェリシティ様は完全に気絶しているリリナを一瞥した。
わかっていて何が?と惚けられるほどの胆力は僕にはない。
「自分に魅了を掛けた相手に自ら解雇通告を突き付け、話し合おうと思える程の油断とスキを見せてしまう辺りが、術に掛かってる証みたいなものですわよね、中〜途半端にでも」
「……はい」
「う〜ん…でもおかしいですわ、本来なら魅了になど絶対に掛からない筈なのに……あぁ、魔力障害で弱っている時に“種”を植え付けられましたのね」
「種……」
確かリリナもそう言っていたな、
僕に“種”を植え付けたと。
「貴方の深層心理の更に奥深くに、小娘は種を植え付けた。そして毎日毎日まさに蒔いた種に水を与えるように魅了魔法を掛け続けたのでしょう。魔術返しの効果で完全には芽吹かなかったとしても、毎日魅了の供給を受ける事で種は朽ちる事なく在り続けた。その結果、今の中〜途半端な状態になったというわけですわね」
「そうだったのか……」
騎士団任務中、様々な魔法案件に触れてきたフェリシティ様の見立てなら間違いないのだろう……。
ふいにフェリシティ様は僕の目の前に立たれた。
「今回の事は、私の初期対応も悪かったと反省しておりますのよ。教会から圧力がかかり始めた時、もちろん一番にフェリシアの事を心配しました。でも教会側の動きが予想以上に早く、主人と対応に追われて後手後手に回ってしまいました。まぁもちろん、教会は完膚なきまでに打ち負かしてやりましたけどね、社会的にも物理的にも」
教会側と一体何があったんだ。
そんな事、第二王子である僕は何も聞かされていない。
その前に侯爵家と教会に確執があったなんて知りもしなかった。
兄上はご存知だったのだろうか。
父上は?母上は?
僕の思考がダダ漏れだったのか
フェリシティ様はため息を吐きながら言った。
「陛下はご存知なかったわ。王妃様はつい先日知らされたそうだけど。今回の事は、発生から収束までの展開が私でも驚く程の早さだったの。全ては王太子殿下の采配の下だった」
「兄上の?」
「ええ。そもそも事の発端は、主人が王太子殿下の命を受けて、教会側の不正を暴いた事から始まったのですから」
「不正!?」
なんて事だ、全く知らなかった。
リリナはそれに加担してたんだろうか……。
「王子、貴方はいわば巻き込まれた被害者。にも関わらず蚊帳の外にして悪かったとは思っているのよ。でも貴方は中〜途半端にでも魅了に掛けられていて、教会と繋がっている癒しの乙女に取り込まれてこちらの情報を渡す可能性があった。実際、それを危惧するくらいにはあの小娘を盲信してる時期もあったでしょう?」
「確かに……」
僕はあの時まで自分の行いが
常軌を逸しているなんて気付きもしなかった。
フェリシアを傷付けていたなんて考えもしなかった。
いや、考えるという発想がなかった。
今思えばそれも魅了の効果だったのだろうか……。
でもあの時、フェリシアを失うと知り、
どうしようもない衝動に駆られたあの時から
僕の中で何かが変わった。
何かがおかしい。
でも何がおかしい?
べつに何もおかしくはないのか?
いや、やはり変だ、何かが変だ。
そしてガゼボでフェリシアに手を握られた瞬間、
それは確信に変わったんだ。
フェリシアから流れてくる温かな魔力。
それに反してリリナから流れてくる魔力の、
例えようもない異物感。
何故今まで気付かなかったのか、いや気付けなかったのか。
自分に魅了が掛けられていると悟るのには
それほど時間は要らなかった。
僕はある事に思い至り、フェリシティ様に聞いた。
「フェリシアが教会の手の者に攫われそうになったのもこれが原因ですか?というかフェリシアはこの事を全て知っていたのですか?」
「ええそうよ。事の顛末を知ったあの子が、全て片付くまで大人しくしてるわけはないと思ったら案の定、貴方を取り戻すために突っ走ったわね。だから王太子殿下に黙っててくれってお願いしたのに……。そこの小娘が焦ったのか教会側を焚き付けたのよ、フェリシアを消せば侯爵家にも王家にも痛手を食らわせられると」
「リリナが……。
ではフェリシアに告げたのは兄上ですか?」
「そうよ、貴方からフェリシアを奪いたくないと。最初は王太子殿下が二人には黙って事を進めると決めたくせに」
「兄上……」
心より感謝します、兄上。
「侯爵家はべつに破談になっても良かったのよ。魅了に掛かるような軟弱者に大事な娘を預けるわけにはいきませんから。全て終わったら連れて帰るつもりでしたの」
「うっ……!」
フェリシティ様の言葉が刺さる…!
「……ウィリアム王子」
ふいにフェリシティ様が僕の名を呼んだ。
「はい」
「事の顛末を知ったからといって、貴方に掛けられた魅了が解けたわけではないわ」
「はい」
「今となっても、
あの小娘に対して情けを感じているのでしょう?」
「……はい」
「そうよね。魅了に掛かっているからこそ、いくら毒性の魔力で動きを封じられたからといって、魔法攻撃で対処もせずにそのまま陵辱されかけるわけがないものね?」
「……はい?」
「嫌だ嫌だと言いながら、このまま流されたいなんて思っていたのではないの?」
「っ違います!!絶対にそんな事はありません!さっきまでは本当に魔力を練られないほどに弱らされていたんです!」
「本当にぃ?」
「はい!」
「年頃の男子の性だから仕方ない、なんて思ってるのではないの?」
「とんでもない!信じてください!」
「そもそも、貴方の心の奥底のスケベ心に取り憑かれたのが諸悪の根源なのよ」
「ごめんなさい」
「今からそんな感じで、一生フェリシアだけを愛し続ける事など出来るの?王族といえど、王以外は多妻は認められてないのよ」
「僕にはフェリシアだけです。子どもの時からずっとです」
「小娘にしてやられてた癖に?」
「……ホントごめんなさい」
「ウィリアム王子、誓いなさい!」
「はい!」
「生涯、フェリシアだけを愛すると!」
「誓いますっ!!一生、フェリシアだけを!愛し抜きます!」
「よろしい!では歯ぁ食いしばれぃ!でございますわ!」
「はい!…っえ!?」
ん?歯を食いしばる?と思ったその瞬間、
唐突に僕の頬にフェリシティ様の平手打ちが炸裂した。
「へぶっ……!ぶほっ」
右から入り、そのまま左へ返される。
世に言う往復ビンタというヤツだ。
「な、何をっ……なんでっ……!?」
思わず両頬を押さえる僕に
フェリシティ様はにっこりと微笑む。
「治療ですわよ。魅了を相殺するレベルの魔力を込めたショック療法で解術して差し上げましたわ。ついでに、今までフェリシアが泣いた分だけ仕返しも代わりにしておきましたの」
「そ、そうですか……すみません、
ありがとうございます……」
「礼には及びませんわ、でももう一発、いえ往復ビンタですから二発ですわね、行っときます?」
「いえいえ!もう結構です!」
僕が首をぶんぶん振って必死にお断りをするも、
フェリシティ様は何故か楽しそうに迫ってくる……!
「まぁそう遠慮なさらずに♪」
「ほんっとごめんなさい!」
「もうその辺で許してやって下さい、叔母上」
「……アラ」
「事を成す為に魅了を放置して、実の弟をエサに使った私が一番悪い……そうでしょう?」
「もちろん」
そう言ってから
フェリシティ様は花のかんばせを綻ばせ、
優雅にカーテシーをした。
「お久しぶりにございます。
王国の若き太陽、王太子アルバート殿下にご挨拶を申し上げます」
月の女神が太陽の化身に首を垂れる。
まるで一枚の絵画のような光景だった。
ウィリアム殿下がクズ王子でないので
今作のフェリシティ様はかなりマイルドに仕上がりましたね。
本当はビンタラッシュ、書きたかったです。