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第三部 反撃

ウィリアムが魅了にかけられている事を知らされたフェリシア。

とうとうフェリシアの反撃が開始される?



いつも誤字脱字報告、ありがとうございます!





「ウィリアム殿下、一緒にお茶にしませんか?」


日差しの柔らかな昼下がり、わたしは久しぶりに殿下をお茶に誘った。


執務中の殿下は丁度ひと息吐こうと思われていたようだ。


それもそのはず。


午後の休憩の頃合いを見計らって誘ったのだから。



「えっ…!?シア、今なんて…?」


ウィリアム殿下が目を見開いてわたしを見る。


「午後のお茶にお誘いしました。王妃さまから美味しいお菓子を戴きましたので、殿下も召し上がらないかなと思いまして……ひょっとしてご迷惑でしたか?」


「そんなはずはない!!シアのお誘いなら、この世の果てでも飛んでいくよ!」


執務室の椅子を倒す勢いで立ち上がった殿下が言った。


「ふふ。南の庭園のガゼボにご用意をしております。さ、参りましょう。リリナ様もよろしければご一緒にどうぞ」


わたしは近頃めっきり上手くなったアルカイックスマイルを披露しながらリリナ様も(ついでに)誘った。


するとリリナ様は、

「もちろんご一緒しますぅ。ウィリアム様はアタシがいないとダメになっちゃいますからね〜」


と言って、わざと殿下に腕を絡ませた。


殿下は今日もそれに対して何も言わず、曖昧な笑顔でやり過ごしている感じだった。


〈今日も魅了魔法の供給を受けたようね…〉


今までなら、この殿下の態度が心変わりにしか思えず辛い思いしかしなかったけど、魔法の所為だとわかると気持ちの()(よう)が全然違う。


そんな事を考えていると、目の前に手があった。


「?」と思って見ると、殿下がエスコートの為に手を差し伸べてくれていたのだ。


「行こう。さあシア、お手を」


「……ありがとうございます……!」


わたしは殿下の手にそっと自分の手を添えた。


殿下の手ってこんなに大きかったかしら。



それに殿下のエスコートなんていつぶりだろう。


わたしは思わず感動で身震いしそうになった。


ちゃんと平常心を装えてるだろうか。


「あー!ずるい!ウィリアム様ぁ、リリナもエスコートしてくださぁい!」


リリナ様が甘ったるい声でねだると、

殿下は「腕にくっついてるんだからもう既にエスコートしてるのも同然じゃないか」と言った。


ぶーぶーむくれるリリナ様とわたしに挟まれた殿下……。


後ろから着いてくるライアン様に微妙〜な顔をされながら歩いた。


ガゼボに用意した椅子などの配置には少し工夫を凝らした。


テーブルと椅子にしてしまうと、


テーブルを挟んで殿下とリリナ様が並んで座り、

わたしは向かいに座るといういつもの形になってしまうので今回は、長めのテーブルに4人は並んで座れるくらいのソファーを運んでもらった。(運んでくれた方、ありがとう)


それなら、わたしも殿下の隣に座れる。


これも今まではリリナ様に張り合う形になるのが嫌で、

敢えてそうして来なかったが、今日のわたしはこれまでのわたしとは違うのだ。


殿下を取り戻すと決めたのだから

恥ずかしさやプライドなんてどうでもいい。


「このお茶はアルバート殿下から戴いたものです。東方の珍しいお茶だとか。どうぞお召し上がり下さい」


わたしが自らお茶を淹れて渡すと、

殿下はとても嬉しそうに受け取ってくれた。


「ありがとうシア。これはホントに夢じゃないよね?シアが手ずから淹れてくれたお茶をシアと並んで飲めるなんて……僕はもう、明日死ぬと言われても構わない心境だよ」


「大袈裟ね」


わたしは笑って言った。


するとますます殿下は蕩けそうな瞳でわたしを見つめてくる。


その時、殿下の反対側のリリナ様が殿下の口にお菓子を放りこんだ。


「ウィリアム様、このお菓子、とっても美味しそうですよぉ。はい、も一つあ〜ん」


「リリナ様、婚約者同士でもない者がそんな振る舞い、はしたないですわよ」


わたしがそう言うとリリナ様は少し驚いた顔をして返してきた。


「でもフェリシア様はウィリアム様と婚約解消したいんでしょ?そんな人が何言ってるんですかって感じなんですけどぉ」


わたしは姿勢を正してわざと鷹揚に言った。


「殿下との婚約解消の願い出は取り下げる事にしましたの。やっぱりわたしには殿下しかおられませんもの」


「!……シア……!」


殿下が瞳を潤ませる。


それを見た瞬間のリリナ様の歪んだ表情を

わたしは見逃さなかった。


〈あれが本性なのでしょうね。“癒し”の乙女が聞いて呆れる……〉


でも直ぐにリリナ様は持ち直してわざとらしく

殿下にしな垂れかかる。


「まぁ〜!ウィリアム様ったら振り回されておかわいそう!アタシだったらそんな不実なこと絶対にしないのにぃ〜!」


不実ねぇ……


「先日、殿下とちゃんとお話しして決めたのです。それこそ()()()のリリナ様には関係ありませんわ」


「部外者なんかじゃありませんンン!ねぇ?ウィリアム様ぁ」


その時、嫌な感じの魔力を感じた。


魔力量の平凡な、魔術師でもないわたしがどうしてそう感じたのかはわからない、でも心の奥を触られるような嫌な魔力を感じたのだ。


何故そうしたのか自分でもわからない。

でもわたしは咄嗟にリリナ様の死角で、殿下の手を握った。


「……!」


殿下が息を呑んだのがわかる。


自分から殿方の手を握るなど淑女としては落第だ。


でもわたしはそんなことはどうでもよかった。


その行為が殿下を守る、そう思ったのだ。


「シア」


思考に耽っていたわたしの名を殿下が呼ぶ。


わたしが殿下の目を見ると

殿下が少し力を込めてわたしの手を握り返してくれる。


「ウィリアム殿下……」


そんなわたし達の様子を、

リリナ様が訝しげに見た。


「アレ?なんで?おかしいな……」


おいリリナ(もはや呼び捨て)、何がおかしいというのだ。


貴女……もしかして今、魅了魔法を殿下に注入しました?


………でも、殿下の様子は変わらない。


ん?わたしなんかやっちゃいましたかしら?


もし、魅了魔法の余波があって、近くの人間に影響があったとしてもわたしには掛からない。


王族にかなり近しい者にも

魔術返しと呪い返しが施されているからだ。


もちろん、殿下の最側近のライアン様もだ。


わたしの侍女のサリィは残念ながら

魔術返しも呪い返しを受けてはいないが、運良く殿下の侍従たちと一緒にガゼボから少しだけ離れた所に立っている。

だから魔法の影響を受ける事はないだろう。



お互いが強く握った手が温かい。


昔はこうしてよく手を繋いで座ってたな。


何も話さなくても何もしなくても、ただこうしているだけで幸せだった。


こんな気持ち、わたし、忘れてた……。


リリナ様との事で色々あり過ぎて、心の中から追い出されていた大切な記憶。


あの日、殿下が扉が閉まる前に手を伸ばしてくれた事、


今思えばあれが様々な転機だった。


あれがなければ今頃わたしはこんな大切だった気持ちに蓋をして、


さっさと次のステップへ走り出していただろうな。


本当は王妃様に話をした後、下準備が終わり次第城を出るつもりだった。


生家の侯爵家には戻らず、

(戻れば貴族令嬢として社交は免れなかったから)


市井で平民に紛れ

魔道具師として生きていくつもりだったのだ。



それをあの日の殿下が引き止めてくれた。


まだ希望があるなら側にいたいと思わせてくれた。


でも翌日にはリセットされていて、


心が折れそうな不安に駆られていた時に


アルバート殿下が真実を教えてくれた。


あの扉の日から少しずつ何かが変わったような気がするのだ。


だからわたしはもう、絶対に諦めない。


離しかけたこの手を握り返してくれる手がある限り。



ややあって、ライアン様が殿下に声をかけて来た。


「殿下、そろそろ執務に戻られるお時間です」


「わかった。シア、美味しいお茶とお菓子をありがとう。おかげでまた頑張れそうだよ」


「こちらこそ、楽しいひと時をありがとうございました。またお誘いしてもいいですか?」


「もちろん!僕からもシアを誘うよ」


二人で微笑み合ってそれから別れる。


執務室へ戻る殿下に追い縋るように着いて行くリリナ様。


腕を絡ませようとしたリリナ様を、ウィリアム殿下が制し、

腕ではなく、左肩に手を添えて歩くように指示をした。


「!」


わたしはその光景を只々驚いて見ていた。


一瞬リリナ様が信じられないようなものを見たような顔をしたが、


すぐさま笑顔を貼り付けて「はぁい」と言って従っていた。


その時、わずかに振り向いてわたしを睨んだのをサリィもわたしもバッチリ見てしまったわ。


その時サリィが「チッ」と小さく舌打ちをしたのは

この際、ご愛嬌という事で。


部屋に戻るとやけにクタクタだった。


思ったよりも気疲れをしたようだ。


サリィが声を掛けてくれる。


「お夕食の時間までお休みになられますか?」


わたしは首を振り答える。


「ううん、試作中の魔道具作りに取り掛かるわ。少しでも早く問題点を見つけたいし、完成させたいの」


「わかりました、では作業着をご用意しますね」


「ありがとうサリィ」


その後、わたしは魔道具作りに専念した。






次の日は土曜日で、


ウィリアム殿下は午後からの執務はお休みの日だ。


なのでわたしは意を決して殿下に申し出る。


「殿下、魔道具に込める魔力の事でご相談したいことがあります。少しだけ二人になれませんか?」


わたしがそう願い出ると、何故か(何故かでもないか)リリナ様が反論してきた。


「二人きり!?フェリシア様はウィリアム様のお体がどうなってもいいんですね、身勝手すぎます。ウィリアム様かわいそう!」


「この前みたいに長いお時間は戴きません。少しだけご相談したい事があるだけです。それでもいけませんか?」


「ダメですぅ。ウィ「もちろん構わないよ」

ウィリアム殿下がリリナ様の言葉に被せて言った。


「……リリナ、僕は午後からは予定がない日だ。

キミもたまには自由に気ままに過ごしてくれ」


「でもぉ、アタシはウィリアム様が心配なんですぅ。お側をはなれたくないんですぅ」


「……キミは役目に忠実なんだね」


あれ?

その時のウィリアム殿下に

わたしは今までとは違う違和感を感じた。


「とにかく僕は大丈夫だ。シア、行こう」


そう言って殿下はわたしの手を引き、歩き出す。


リリナ様が尚も何か言い募ろうとしたのを

ライアン様が引き止める様子が見えた。



「シアの自室でいいんだよね?」


「う、うん」


「ははっ」


「何?どうしたの?」


「昔から二人きりになった瞬間にシアの言葉使いが変わるのが好きなんだ」


「え、そうなの?」


「そうだよ」


そう言って殿下はニコニコしながら歩く。


わたしはなんだか恥ずかしくて気まずい……。


わたしの自室に着くと、わたしは早速それぞれ大きさの違う魔道具を幾つか並べた。


「魔道具は注入された魔力を動力源にして動くのは知ってるわよね?」


「もちろん」


小さな薬瓶サイズから男性の手の平サイズまでの

小箱のような魔道具を手に取りながら殿下が返事した。


「この大中小の3つの魔道具に、殿下の魔力を込めてみて欲しいの」


「これに?どうやって入れたらいいの?」


「魔道具を両手で包み込むように持って、この中に魔力を移動させるイメージでやってみて」


「こうかな?」


殿下が魔道具を両手で持ち、目を閉じてそれに魔力を込める。


「上手ね」


「ホント?嬉しいな。フェリシアが作った魔道具はいつもフェリシアが魔力を注入してるの?」


「うん。魔力量が平凡といっても、一応は平民より魔力量の多い貴族の娘ですからね」


そう言いながら、殿下が魔力を込めてくれた魔道具をそれぞれ見比べて観察する。


「まぁ当然だけど、一番大きい魔道具にはそれだけ沢山魔力が入るのよね。でもなんだか中が定着してない不安定さを感じるのも大きな魔道具だわ。なんとか魔力暴走は起こしてないけど……多分、これが限界の大きさね」


「僕の余剰魔力を全部吸収するためには、この大きさの魔道具が幾つ必要だと思う?」


「うーん…おそらくは、200〜300は要るかしら……」


「そんなに!?それだけで1日が終わってしまうね」


「だからこそ魔力吸収の長けた魔術師が重宝されるのね、癒しの乙女はやはりすごいのね」


わたしはなんだか悲しくなった。


そんなわたしを気遣ってか殿下が話題を変えてくる。


「ね?これは何の魔道具なの?」


「これ?これは[転移魔法で残った魔力の残滓を辿って追跡ができなくなる魔道具]よ」


「へぇ、凄いな。じゃあこれは?」


「家の鍵を失くした時に、合言葉を言えば中から鍵を開けてくれる魔道具」


「何気に凄い!これは?」


「届いた手紙の切手が舐めて貼られたものかどうかがわかる魔道具」


「なにそれ、必要!?」

と言って、殿下は可笑そうに笑う。


「攻撃魔法系の魔道具は作らないの?」


「作れるけど作る気がしなくて。わたしはあると便利な物とか、クスッと笑える物が作りたくて」


「フェリシアらしいな……ねぇ、作業机の上に置いてる魔道具って、まだ魔法も魔力も入れてない状態のやつ?」


「?ええそうよ?」


「僕が魔法を込めてもいい?」


「いいけど、どんな魔法を込めるの?」


「これはね、フェリシアの護身用に。いざと言う時、キミの身を守る魔道具、かな」


と言いながら魔法を込め始める殿下の手元を見て、

わたしは仰天した。


「!!ちょっと待って!それ魔道具じゃなくてただの木箱よっ」


「へ?」


殿下が間違えて魔道具の隣の小さな木箱に魔法を込めていたのだ。


運悪くわたしが気付くのが遅かった。


詠唱された魔法の文言が木箱の中に吸収されてゆく。


これは……雷系の魔法?


やがて魔法を込め終わった殿下が言う。


「魔法が入ってしまった。これ、大丈夫?どうしたらいい?」


「とにかく、中の魔法が暴走しないようにそっと置いて……」


殿下は言われた通りにそっと木箱を机に置く。


木箱にも中の魔法にも問題は無さそうだ。


それどころか安定してる……?


「?え?え?」



わたしの頭の中に突然何かが舞い降りた気がした。


それはふわふわと安定せず、気を抜けば霧のように霧散してしまいそうな存在。


わたしは頭の中を整理するために

思考を順序よく並べてゆく。


「体内から排出された魔力はそのままだと不安定過ぎて暴走するのよね?だから安易に外に棄てる事が許されていないのよね?周りに被害が出るかもしれないから……」


「だから、吸収した魔力を体内で無力化して昇華する癒しの乙女のような魔力吸収型の魔術師が必要とされるのよね?」


「でも、魔法に変換して体外に出された魔力は暴走しない、だから魔法は飛ばしたり流したりと広範囲で有効で……」


「今、殿下はただの木箱に魔法を入れたけど、暴走していない、それはただの魔力を入れたのではなく、魔法に変換して入れたから……?」


独り言ではない独り言をぶつくさ言いながら

わたしは思考の沼にハマってゆく……。


「つまり……魔法に変換してから魔道具に入れれば、暴走はしない……?」


「!!」


わたしの頭の中で、決定的な何かが形作られた。


天啓を得るとはまさにこの事なのか!


「フェリシア?大丈夫?」


心配そうにわたしの顔を覗き込む殿下の両手を握り、


わたしはブンブンと上下に振った。



「殿下っ!殿下っ!!

出来ます!作れます!

吸収した余剰魔力を安定して保管できる魔道具が!」


「ホント!?ホントに!?フェリシア!

魔道具で魔力障害の問題が解決出来るの!?」


「出来ます!出来ますよ!殿下のお手柄です!」


「僕が何をしたのかわからないけど、嬉しいよ!」


そう言って殿下がわたしを抱きしめた。


「!!??」


わたしはフリーズ状態になる。


「フェリシア、嬉しいよっ…ありがとう…!」


殿下の心情が、わたしの中に流れ込んで来たかのように

わたしの中にも溢れ出す。


きっとわたしと同じ気持ち。

わたしと同じ喜びを感じてくれていると、

素直に思えた。



殿下の魔力障害をなんとかしたくて始めた魔道具作り。


苦節8年にして、ようやく完成しそうだ。


わたしを抱きしめる殿下の背中にそっと手を添え、わたしは目を閉じた。












魔道具はモンス○ーボール的な感じでイメージしてくださるのが一番わかりやすいかもしれません。

ポケ○ンの代わりに魔法が入ってる感じです。

でも使用時にポ○モン……じゃなく魔法が飛び出してくるものばかりではありません。

吸収したり、じわじわ効果があったり…そこは異世界の道具、なんでもアリですね。


平民の魔道具師は魔力保持者でない者も多く、その場合は魔力を買って注入してから売るか、魔道具師専門のギルドで買い取ってもらってから、ギルド側が魔力を注入して売る、という2パターンあります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔道具で魔力障害の問題を解決する方法が見つかったおかげで、フェリシアとウィリアムの仲がより親密なものになりましたか。( ̄∀ ̄)ニヤニヤ この分だと、リリナがお役御免になるのは時間の問題かな…
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