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第一部 もう婚約解消でいいじゃないですか

アルファポリスで連載していた時から一部の読者様に

ウィリアム救済を……とのご意見を寄せて戴いておりました。

もし、あの時のウィリアムの選択が違っていたら……を元にifストーリーにしました。

本編で寄せられた感想も絡めながら綴ってまいります。どうぞよろしくお願い致します。


おそらく3〜4部構成になると思います。

「もう彼女でいいじゃないですか」


わたしは目の前の婚約者にそう告げた。


わたしの婚約者はこの国の第二王子。


将来は実兄である王太子殿下を支えながら

共に国政に携わっていくのだと、

日々邁進している18歳のキラキラ王子。


キラキラというのは別に揶揄ではない。


艶めくプラチナブロンドに

深いグリーンアイズ。


傾国の美女もドレスの裾を掴んで逃げ出す程の美形だ。


色白で如何にも王子然としているのにもかかわらず

弱々しく見えないのは、

彼が長身で均整の取れた筋肉を纏う恵まれた体躯だからだろう。


魔力保有量も凄まじく、

何から何までハイスペックなまさに

キラキラ王子の申し子のようなお方だ。


まぁ…ただちょっと、いやかなり、

執着心が強めの粘着質な性格をしていると思うけど……。



対してわたしは

平凡な侯爵家の平凡な容姿の平凡な末娘。

平凡なブラウンの髪と平凡な青い瞳。


まぁ強いて言えば

趣味の魔道具作り(魔力を動力源に起動する道具)の開発が人よりもちょっと上手いくらいかな?


そんな平凡の申し子のようなわたしと

キラキラ王子の婚約が結ばれたのは互いがまだ10歳の時だった。


王妃さま主催のお茶会に母と出席したわたしに、

キラキラ王子が一世一代な一目惚れをしたのだとか。


その日から昼夜を問わず、

わたしに猛攻撃(アプローチ)してくるキラキラ王子に、

互いの親が根負けして婚約を結ぶ運びになった。


まぁ我が家は侯爵家で王家との家格の釣り合いも取れるし、

イトコ同士だけど年齢的にも丁度良いと思ったのだろう。



婚約してからもキラキラ王子の

わたしへの執着心は凄まじかった。

妃教育のために

故郷の侯爵領から王都にある我が家のタウンハウスへ

移り住んだわたしだが、

いつの間にか城内に部屋を用意され、

いつの間にか城暮らしとなっていた。

婚姻前なのに……いいのかしら?


毎日キラキラ王子に

愛を呟かれ、愛を語られ、愛を叫ばれる。

8年経った今でも変わらずその日々は続いていた。




……キラキラ王子が四六時中、


「癒しの乙女」を左腕にくっつけさせるようになる迄は。




「キラキラ王子…じゃない、ウィリアム殿下。

もはや婚約者はわたしじゃなくていいでしょう?

もう彼女でいいじゃないですか。

どうかわたしとの婚約は解消して、彼女と婚約を結び

直してくださいませ」



わたしがそう言うと、


殿下は持っていた花束を盛大に落とし、

わなわなと震え出した。


「な、な、なっ……何をいきなり!?

え、何!?どうしたのフェリシア!」


「どうしたもこうしたも、そしていきなりではありません。

ずっと思案しておりました」


「ずっと?え、いつから?ずっと!?」


殿下は癒しの乙女がくっついていない方の手を額に

当てながら狼狽えている。


「はい、新たな癒しの乙女様が殿下の左腕に装着されてからずーーーっと」


「なんか長くなってない!?」


「だってずーーーーーーーっとですもの」


「更に長くなった!!」


「だからその花束もわたしはもう受け取れません。

今までは毎日戴いておりましたが、これからはその左腕の乙女様に差し上げてくださいー」


「これは婚約者に贈る花束だ!」


「だから彼女を婚約者に据えて、彼女に花束を贈ってください」


「嫌だ!僕の婚約者はシア、キミだけだ!

婚約解消なんて絶対にしない!」


左腕に他の女ぶら下げて何言ってんのコイツ。


淑女らしからぬ言葉で脳内にて毒()く。



「わたしはもう決めたのです。

今夜、陛下に婚約解消の申し出をします」


「ダメだ!絶対にダメ!!

今夜父上は酷い腹痛になる予定だからね!」


なんて不吉な予言(?)をするんだ。

夕食時に下剤でも盛るつもりなのか。


「ではどうしても解消したくないのなら、

癒しの乙女を別の方に交代してください」


「酷いフェリシア様!フェリシア様がアタシのこと嫌いなのは知ってたけど、酷すぎます!アタシ……精一杯お勤めを果たしておりますのにぃ……ウィリアム様ぁぁ……」


今までドヤ顔で殿下の腕に纏わりついていた

癒しの乙女こと、リリナ様がいきなりメソメソモードに突入した。



わたしの発言の所為だとしても変わり身の早さに辟易とする。


いつの間にか名前呼びになってるし。


殿下はその涙に胸が痛んだのか、

悲しそうな顔で彼女を慰めた。


「泣かないでリリナ。わかってるよ、

 キミはよくやってくれている」


「ウィリアム様ぁぁ…!」


目の前で繰り広げられる茶番を

見ていられなくなったわたしは、

盛大にため息を吐いて踵を返した。


「待ってシア!どこに行くの!?」


気付いた殿下がわたしを引き止める。


「もう部屋に下がらせて貰います。わたしは本気で婚約解消に向けて動きますから、殿下もそのおつもりで」


そう言い残し、

わたしはさっさと歩き出す。


「嫌だよシア!

 ちゃんと話し合おう、シア!」


殿下の泣きの入った声が後ろから追いかけて来たが、

わたしは振り返る事なくその場を去った。



わかっているのだ、


仕方ない事だと。


わかっているのだ、


殿下は悪くない事を。



でもわたしは殿下が好きだから。


幼い頃に結ばれた婚約だとしても


共に支え合いながら成長していくうちに


殿下はいつしかわたしにとってかけがえのない人になっていた。



だからこそ耐えられないのだ。


唯一無二の存在である彼に


わたし以外にもかけがえのない存在がいる事に。




殿下は幼い頃から

保有する膨大な自らの魔力によって体内から蝕まれ、

命の危機に何度か晒された。


その度に国内に何名か存在する、


他人の魔力を吸収し、

体内で無力化して昇華する特別な力を持った

「癒しの乙女」と呼ばれる、癒し系魔術師に命を救われて来た。


今までは何年かに一度、

蓄積された魔力が暴れ出す前に癒しの乙女に魔力を

吸収してもらうだけでよかった。


それがここ数年

殿下の成長と共にそれだけでは足りなくなり、

遂には四六時中癒しの乙女に魔力の余剰分を

吸収して貰わなくてはならなくなったのだ。


そうしなければ自らの魔力によって、

殿下は歩く事すら困難な状態に陥ってしまう。


故あって殿下は常に癒しの乙女と行動を共にするようになった。


食事中も執務中も、

それこそ入浴中と魔力が沈静する睡眠中以外は

いつも癒しの乙女と一緒にいる。


そんな何とも言えない状況、

もちろんわたしは最初から複雑な気持ちで眺めていた。


自分の婚約者が四六時中、別の女といるのだから。


それでも我慢出来たのは前任の癒しの乙女が

壮年の女性だったから。


癒しの乙女は「処女」でなければ力を失ってしまうらしい。


だから「処女」でさえいれば

幾つになっても癒しの乙女として

役目が果たせるのだそうだ。


親子以上に年の離れた二人だったから

まぁ耐えられた。



でも去年

更に保有量が増した殿下の魔力に、

前任の癒しの乙女の体が耐えられなくなったのだ。


これ以上は体が保たないと前任者が役目を辞し、

そして教会の推薦で送られてきた新たな癒しの乙女がリリナ様だ。



ピンクブロンドのふわふわの髪に

鮮やかなレモンイエローの瞳が印象的な美少女。


年は15歳と若く、癒しの力に溢れている。


無尽蔵な殿下の魔力も余す事なく吸収し、

常に彼の体調を万全に癒してくれている。


その事には感謝している。

殿下を救ってくれているのだから。


自分の小さな悋気など瑣末な事だ。


でも彼女は、リリナ様はいつからか

己が殿下の婚約者かのように振る舞うようになった。


殿下の役に立つ自分こそが相応しいと

教会関係者に話しているらしい。


それを真に受けた教会側が

生家の侯爵家に圧力をかけ始めた。


家族にまで迷惑をかけ、


わたしの心は限界だった。


それでも殿下が好きだから、


側にいたくて心を殺してなんとか耐えてきた。



でもある時ふと気付いてしまったのだ。


殿下の魔力量がコントロール出来ない限り、

一生癒しの乙女付きの殿下と暮らしてゆかねばならない事に。


結婚式も新婚旅行も、連綿と続く結婚生活も、

常に妻より他の女と共にいる夫と生きてゆかねばならない事に。



あコレは無理だな、とわたしは思った。



わたしには耐えられないし、

耐える必要もないと思ってしまったのだ。



これは殿下の所為ではないし、殿下は悪くない。


常に一緒に居なければならないリリナ様と

良好な人間関係を築こうとするのも当然の事だ。




でも、



それじゃあ、




もう彼女でいいじゃないですか。



切っても切れない癒しの乙女と妻との板挟みで苦しむ

未来しか見えないのなら、


最初から癒しの乙女を妻にすればいいのだ。



まぁ癒しの乙女は処女でないとダメらしいから?


夜の夫婦生活は営めないだろうけど?


そこは愛妾でも囲えば良いのではないでしょうか?


そんな事を考えつつも、

信じていた殿下との将来が閉ざされた胸の痛みが

どうしようもなく辛い。


でもそれが一番、

殿下の安寧な暮らしに繋がると思うのだ。



わたしが身を引けば。


わたしが居なくなれば殿下は楽になれる。


確かに胸の痛みがあるけれど、

もともとドライな性格なのでいつまでもウジウジ悩むのはバカらしいと思ってしまう。



行動あるのみ。



まずは殿下のお父上であり、


わたしの母の兄で伯父でもある国王陛下に婚約解消の許しを貰わないと。


それと一応、

試作中で頓挫している魔道具の開発も進めておこう。


そしてわたしの少ない魔力で

ギリギリ発動できる転移魔法の練習も。


やる事が沢山あるのは有り難い事だ。


忙しさのあまり悩んでる暇もないだろうし、


殿下とリリナ様がイチャイチャしてるのも見なくて済む。


わたしはわたしの出来る事をやってゆこう。


頑張れわたし、負けるなわたし。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「シア、フェリシア……

 大好きだよ。ずっと一緒にいようね」


いつだったか貴方が言った。


「わたしも大好き。

 ウィル、ずっと一緒にいてね」


いつだったかわたしも言った。



あの頃は生涯を共にするのだと純粋に信じていたのに。



……懐かしい夢を見た。


頬を伝う温かい涙を感じ、わたしは目を覚ました。





結論から言うと

わたしは昨晩、陛下に会う事は叶わなかった。


ウィリアム殿下が予言(?)した

腹痛を起こしたわけではなく、

隣国の大使との食事会という公務が入った為だった。



まあそれも

わたしを陛下に会わせまいとする殿下の策謀臭が

ぷんぷんするけれども。


でもわたしも伊達に長く城暮らしはしていない。



陛下の一日の流れなど手に取るようにわかるのだ。


それを利用して

わたしは陛下の比較的余裕のある時間、

朝のお散歩タイムに待ち伏せした。


予想通り、陛下は城の西側にある庭園へと現れた。


既に庭園にいたわたしに驚いていたが、

一緒に散歩しようと誘ってくれた。


殿下の妨害が入らないように、

朝んぽの間に話をしてしまわなくてはならない。


わたしは前置きを置かず端的に話した。



「陛下、どうかわたしとウィリアム殿下の婚約を

 解消させてくださいませ」


「な、な、なっ……何をいきなり!?

えっ何?何?どうしたというのだフェリシア!」


なんともデジャブな反応。

さすがは親子。



「どうしたもこうしたも、そしていきなりでもありません。やっと心を決めたのです」


わたしも昨日と同じ返しをしてやろうかと思ったけど、

言いながら面倒くさくなったのでやめた。



「ウ、ウィリアムと喧嘩でもしたのか!?それならどうせあいつが100%悪い!私からよーく言って聞かせておくから、早まってはいけないよっ……」


陛下はかなり狼狽えているらしく、

庭園の木の葉をむしり出した。

やめさせようと思ったけれど、枯れた葉だけを器用に選んでむしっていたので放っといた。


「喧嘩以前の問題です。殿下と癒しの乙女との関係に疲れました。もうわたしを解放してください」


「でもあの二人はそんな関係ではないだろう!?

ウィリアム(アレ)のフェリシアへの溺愛ぶりは他国にまで知れ渡っている程だぞ!」


他国にまで知れ渡っているの?

嘘でしょやめて。


「今はそうでもあれだけ一緒にいるのです、時間の問題かもしれませんよ?それに、リリナ様は殿下の妃になる気満々です」


わたしがそう言うと、陛下は苦笑した。



「それでは本末転倒だ。乙女は「処女オトメ」であるから癒しの力があり、必要とされる。それに彼女は平民だ。自国の民を貴賤で差別するつもりはないが、王族の妃として足りないものが多すぎるのは否めない。ウィリアムの妃になれるのはフェリシア、キミだけだよ」



陛下のその言葉に

わたしは首を振った。


「わたしでは殿下の妻になれません。

彼を愛し過ぎているからです。癒しの乙女付きの殿下を受け入れられるのは、妃を()()として捉える事の出来る人です。リリナ様がダメならば、どうか他の相応しい方をお探しください」


わたしの本気度が初めて伝わったのか

陛下は今まで以上に狼狽えた。


「駄目だ!絶対に駄目!!フェリシアが私の娘にならないなんて死んだ方がマシだ!婚約解消なんて絶対に認めないぞ!」


これまたデジャブな否定……

いや殿下のより重い否定を聞きながら、

そうなればと

わたしはとっておきの切り札を出した。



「………母にチクりますよ」


「ひっ!?」


「この婚約解消への折衝役は

 母に代わって貰ってもいいんですよ?」


「ひぃっ!?」



陛下は実の妹である母の事をこよなく愛しているが、

最も恐れてもいるのだ。



実妹への恐怖心を姪に見透かされていると気付いた陛下は、

襟元を正し、虚勢を張る。



「べ、べべべ別に構わないぞっ……!

こちらは王の権限で騎士団を派遣して

フェリシティ(フェリシアの母)と話を付けても良いのだからな!」



王の権限、そんな事に使っていいのか。

というか他力本願……。



「その場合、一個師団では足りませんね」


「ひぃぃぃっ!!」


国王の精一杯の虚勢をわたしは一蹴した。



わたしの母は


現国王の妹で、


侯爵夫人で、


大陸最怖の魔術騎士なのだ。



「と、と、とにかく!私は婚約解消は認めない!

あと数年もすればウィリアムの魔力量が落ち着いて、問題が解決するかもしれないからな!」


そう言いながら、

陛下は脱兎の如くこの場を走り去った。


とても国王のする事とは思えない。



あと数年で魔力量が落ちるって……?


何年先の話なのよ。


下手すれば何十年先?



年寄りになってるわ!!


ダメだこりゃ。


王妃様に相談した方がいいのかしら……。




でも今はとにかくこの後の朝食の事だ。


イヤだなぁ。


一人で自室で食べたらダメかな……。


だってリリナ様をべったりくっつけてる殿下と一緒に食事なんて、

砂を噛んでいるような味しかしない。


無視して食事を楽しめるほど

人間が出来ていないし……。


うんよし、そうしよう。


今日からは食事は自室で摂ろう。


婚約解消を言い渡しているのだ。


婚約者の義務など放棄していいじゃないか。



そうと決まれば早速、


わたしの侍女のサリィに伝えなくては。


急げ急げ。


わたしは足早に庭園を後にした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「シア!どういう事!?

 どうして朝食を一人で食べたの!?」


朝食後、殿下は執務室に向かう前にわたしの自室へと

押しかけて来た。


腕にはもちろんリリナ様を引っ提げて。



わたしは丁度

魔道具を弄っている最中で、機械油で汚れた作業着姿

だったが構わず対応した。



「朝食だけではありません。

 これからは昼食も夕食も自室で戴きます」


それを聞き、殿下の顔色は一気に悪くなった。


「ど、どうして!?子どもの頃からずっと一緒に食べてきたじゃないか!シアがいないと何を食べても美味しくないよ!」


「それなら余計にこれからはわたしがいなくても食事を楽しめるように慣れなければいけませんね」


「なぜ慣れなければいけない?」


「わたしと殿下の婚約が解消されて、お別れするからです」


その言葉を聞いた殿下の顔色が更に悪くなる。


「ま、まだそんな事言ってるのっ…?僕は婚約解消なんて絶対にしないよっ、僕にはフェリシアが必要なんだっ……!」


「リリナ様も必要なんですよね?」


「それは、うん」「きゃっ♡」


「婚約解消です、絶対です」


「なんで!?」


この男は……ホントに理解出来ないのか?


わたしはまたまた淑女らしからぬ悪態を心の中で吐いた。



「殿下、お仕事はいいんですか?

 後ろでライアン様が待ってますよ」


わたしは自室の扉の所で待機する、

殿下の側近のライアン様(20)に視線を向けた。


常に冷静沈着、容姿端麗頭脳明晰と

これまたハイスペックなライアン様はわたしの視線に気付き、胸に手を当て臣下の礼を取る。



「……前みたいにウィルと呼んでくれたら執務を頑張る」


不貞腐れた顔で殿下が言う。


わたしはチクっとした胸の痛みを無視して殿下に告げた。



「王子殿下、わたしは殿下との訣別を望んでいる人間です。そんな者が何故、愛称で呼べましょうか」


「っ訣別……!」


その言葉に殿下は深く傷ついたようだった。



「アタシが呼んであげますよぅウィルさ…「その呼び方を許しているのはシアだけだ!気安く呼ぶな!」


リリナ様の言葉に被せるように殿下が声を荒げた。


わたしはびっくりして二人を見つめる。


するとみるみるうちに

リリナ様は得意のメソメソモードになった。


ウルウルと目に涙を溜めて殿下に縋り、訴える。


「そんなっ……アタシはただ、ウィリアム様と今以上に仲良くなりたいと思ってただけなのにぃぃっ…!」


泣き出したリリナ様を見て、

途端に殿下は慌て出した。


「いやごめんリリナ……声を荒げてっ、でもその呼び方だけはやめて欲しいんだ。他はどんな呼び方でもいいから……」


あたふたとリリナ様を慰める殿下を

半目のジト目で見ながら、わたしはライアン様に声をかけた。


「ライアン様、そろそろ執務が始まるのではないですか?とっととこのバカップルを連れて出て行ってくださいませ」


不敬と思いつつも

もはや取り繕うのもバカらしい。


ライアン様も心得たもので、

さっさと二人を連れ出してくれた。


それを殿下が抵抗する。


「待て、まだ大事な事を何もシアと話せていない!

 シア、ちゃんと二人で話をしよう!」


「……二人きりになれないじゃないですか」


「……っ!」


二人の将来についての大切な話を

リリナ様の前ではしたくない。


でもそれは無理だとわかっているので

わたしはもう、殿下と話し合うつもりはなかった。


何も言えなくなった殿下の肩をトンっと押し、

わたしは殿下と付属品を部屋から追い出した。


扉を閉めようと手を掛ける。



この扉が閉まったら、

もう完全に殿下とは終わりだ。


わたしはそんな事を思いながら扉を閉めてゆく。


でもその時、


ガッという衝撃があった。


え、と思ってよく見ると、

閉まる寸前の扉の隙間に差し込まれた殿下の手と足が見えた。



「…!危ないです殿下!挟んでしまったではないですか!」


わたしは動揺しながら訴えると

殿下は静かな声でわたしに言った。



「わかったシア、二人だけで話をしよう。

リリナ、悪いけど自分の部屋へ戻っていて」


「なっ!?ええっ!?正気ですかウィリアム様!

わたしと離れたら大変な事になりますよぅっ!?」


リリナ様が慌てて殿下を扉から引き離そうとする。


殿下がライアン様に告げた。


「リリナを部屋へ。

 それからしばらく誰もこの部屋へ近づけないで」


「承知しました」


最初は驚いた顔をしていたライアン様だが、

すぐにリリナ様を連れて下がられた。


何が起きたのか理解出来ず


わたしは呆然としていたがようやく我に返った。


「で、殿下!?こんな事をして大丈夫なのですか!?

もし余剰魔力が暴走したらっ……!」


「わかってる!でも今、シアと話し合わないと永遠にシアを失ってしまう気がしてならないんだ!!」


「……!」


「この扉が閉まったら、シアを完全に失う……そう思ったんだ。そうしたら勝手に手が動いてた。体なんてどうなってもいい。僕の人生にシアが居ないなら、生きていたってしょうがない」


「そうだよ、こんな大切な事、どうして忘れてたんだ!

シアが僕の一番だ。それは今も昔も変わってないはずなのに」


「ウィリアム殿下……」


何故?何故今になってそんな事言うの?


やっと心を決めたのに。


やっと前へ進もうと決めたのに。



「シア、シアは本当に僕と離れたいの?」


「前々からそう言ってるでしょう…なんでそんな事聞くんですか」


「だってシア……泣いてるじゃないか」


「え……?」


わたしはその時初めて


自分の頬を伝う涙に気づいた。



「ねぇシア。僕はどうしてもシアと一緒に生きていきたいんだ。

 そのために僕が出来ることならなんでもする。なんでも言って。シアは、シアはどうしたい?」


殿下はわたしの前に立ち、

真剣な眼差しでわたしを見つめる。


わたしだけを映すグリーンアイズ。


こんな事、いつぶりだろう。


わたしは考えた。


わたしはどうしたい?



「わたしは……わたしも本当は殿下と一緒にいたい」


「うん」


「でも無理はして欲しくない」


「うん」


「でもリリナ様とべったりされるのはイヤなの」


「……ごめん」


「あんなにくっつかないと余剰魔力って吸えないものなの?」


「……そうだよね。確かに……」


「わたしも魔力を吸収しても壊れない魔道具作りを頑張るから殿下も魔力コントロールが出来るように努力して」


「わかった。でもシアは無理し過ぎないでね」


「ほんの少しの時間でいい、わたしと二人だけでの時間を作って」


「それは僕も是非そうしたい」


「殿下」


「なに?」


「ホントは婚約解消なんかしたくない」


「…!」


「殿下」


「なに?」


「気づいてます?殿下も泣いてますよ」


「……!ホントだ……!」


そう言って、


わたしたちは二人で笑い合った。


殿下、ホントに信じていいの?


今、真摯に向き合ってくれている殿下の気持ちが


今だけのものでなければいいと、

わたしはそう思った。

























ifのターニングポイントは扉でした。

あの時、閉められた扉の内にいるか外にいるかで今後の人生が大きく変わる事になったようです……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 扉のターニングポイントが良いですね(๑•̀⌄ー́๑)b 癒しの乙女がフェリシアなら良かったのに。゜( ゜இДஇ゜)゜。 ウィリアムの救済ありがとうございます(*^^*) 嬉しいです(…
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