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あけおめ。ことよろ?

勇者サフィニアが日本に誤召喚されて、早くも二ヶ月が過ぎた。クリスマスのトラブルから一週間、それまでの忙しさが嘘のような穏やかな日々だった。おまけに仕事の進捗も穏やかで進展もなく、穏やかを越えてダラダラした日々を送っていた。

「明けましておめでとうございます」

「うむ、明けましておめでとうございます」

日本の伝統を楽しみたいという希望を叶えるために「深夜に初詣に行き、除夜の鐘を聞きながら振る舞い酒を頂く。そして運試しの御神籤に初日の出…」

と予定を立てていたのだが、紅白を見ながら年越し蕎麦を食べたら、いつの間にか寝落ち。初日の出どころかお昼近くになっていた。

「よもや、この私が一週間でここまで腑抜けてしまうとは。人間の適応力は恐ろしいな」

そう呟きながら御節を食べる。半分は私のせいだよなと思い何も答えられない。サフィニアはそんな私を気にも留めず、すっかり箸の使い方が上手になり黒豆を凄い早さで口に運ぶ。

「これは旨いな!」

唯一手作りの黒豆。私も大好きで、作り方を教わって毎年必ず大量に作っているのだ。気に入ってもらえて、少しほっとする。

「そうか。一家相伝、母の味というやつなのだな」

「いや、施設の院長婦人の味だよ。私は孤児院の出なんだ」

つい話の流れで言ってしまった。やっぱりそういう顔になるよな~ これがイヤだからなるべく隠しているんだけど…

「そんな顔しないでくれよ。私は恵まれてた方なんだ。施設は援助してくれる人がいたから、大学入学までは住まわせてくれたし、皆いい人だったんだよ」

「良い出会いをしてきたのだな。まさにヘデラ神の糸の絡み合いだ!」

「なんだそれ?」

「王国の言い伝えだ。出会いとは神の導き。その糸によって複雑怪奇にうんたらかんたら…」

本当は真面目な神話なんだろうが、サフィニアは面白おかしく話してくる。笑って突っ込んで… そのおかげか、やっと頭が動いてきた。

「予定はズレてしまったけど、初詣行く?」

勇者様は子供のようなキラキラした笑顔になった。



初詣。参道を歩く。朝方に一度は人出が落ち着いたらしいが、お昼時ともなれば再び賑やか。はぐれないように気をつけ… なくとも問題なさそうだ。サフィニアは大臣からプレゼントされた着物を着て上機嫌、いつもよりテンション高め。着物姿の外国人はすごく目立つ。とはいえ、前回の件もあるので油断はせずにいきましょう。

(しかし、魔法って便利だよなぁ…)

自分も、ついでにとプレゼントされた着物を着ている。あまりの寒さにコートにブーツで出掛けようとしたが

「それは勿体無い!」

とサフィニアが魔法をかけてくれた。寒さや暑さを軽減する防御魔法とのことで、ほとんど寒さを感じなくなった。とはいえ、まわりから変な目で見られても困るので、一緒に頂いた和装コートを羽織る。

「これも風流でよいな。我が仲間には灼熱の炎すら無効化する術師がおるのだが、私程度の魔法でも結果オーライというやつだ。」

現地人すらあまり使用していない異文化に触れてご満悦の様子。てか、勇者の仲間すげーな。この分だと海や雷を斬る剣士とかもいそうだ。

露店に気を取られながらも、先ずは参拝だと説得し先へと進む。なるべく真ん中を通らない。手水舎で手、口を清める。鈴を鳴らして賽銭を入れて、二礼二拍手一礼。平穏を祈る。サフィニアは何を祈っているのだろう。ずいぶん長く祈っているように感じた。

御神籤を引く。私は末吉。願い努力すれば叶う。そりゃそうだ。今年も頑張りますか。勇者様は案の定の大吉。向こうからやってくる。万事うまくいく。「向こうからやってくる」が気になるが、万事うまくいくなら大丈夫だろう。

帰り道は勇者無双。全ての露店を楽しみ尽くした。射的だけは苦手らしく、そこだけは私が活躍できた。純粋にすごいと誉めてくれるので、ちょっと嬉しかった。さて、この金魚と突き出たお腹をどうしようか。満腹と疲れで再び思考停止状態。明日から頑張る。

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