最後の…?
大賢者サントリナがやって来て一週間。勇者サフィニア同様に世間に認知され、その知性と美しい容姿で人類を魅了していた。いや、大人気過ぎだろ!? チャーム系の魔法とか使ってませんか? ほんとに大丈夫か?
「そんなもの使わずとも、人々から好印象を得る会話術や立ち振舞い。それを普段から行っておりますれば、造作もないことでありましてよ」
あ~ガチですげえ人なんだな~ 怒らせないように気を付けよ。そんなことよりも…
あれから一週間。大使館は出来たが、引き継ぐべき仕事はおろか人もいない現状。どちらかと言うと、サフィニア待ちではなくリナとカドマツの実験や開発待ちとなっていた。サフィニアも暇潰しに入り浸っているようだ。何を作っているのかは相変わらず教えられていないけどね!
さて、私は今日も平常運転で、行方不明者のリストの選別作業。あからさまに違う事件から、現場付近に赴いて魔力探知機で確認しないといけないもの、様々やってくる。初めは手当たり次第に聞き込みとかやってたな~ 仕事が全然進まなくて、遺族や警察、味方であるはずの政治家からもお叱りを受け捲ったっけ…
はっ!? いかんいかん。なんかひとりでしんみりしてた。別にあいつが帰っても元に戻るだけ。静かで平穏な日々が戻ってくるのだ。たしかに少し寂しくはあるが、もう振り回されることが無くなると思うと安心する。胃も休まるというものだ。
モヤモヤを抱えたままだと、仕事というものは進まなくなるものだ。普段はとっくに終わっていてもおかしくない量。それが半分ちょいしか終わっていない。正月ボケではない。だからこそ、わかっているからこそ余計にイライラする。
「今日はもうやめておこう… 焦ってミスったら元も子もない…」
そういえば、ここに来て間もない頃、一度だけ大臣に反発したことがあったっけ…
「サクラくん、今日はもう上がりなさい。君、相当疲れがたまってきてるでしょ?」
たしかに最近は残業続き。寝不足だし、食事もしっかりとった記憶はない。だが
「いえ、大丈夫です。もう少し頑張ります!」
そう言って次の資料に手を伸ばす。
「サクラくん、そんな状態で仕事されても困るよ?」
私はその言葉に反発した。
「この資料は、人々の願いそのものです。私は、この願いを一秒でも早く聞き入れてあげたいんです!」
普段の大臣の様子ははっきり言ってユルい。たしかに仕事は出来る人だが、そんな態度に不満があった。そんな感情も絡んでの反発だった。すると大臣は明らかに怒った顔で、しかしいつもの穏やかな口調で、そんな私を窘める。
「その通りだ。それは人々の願いそのもの。そして、ここはその願いを叶える場所だ。ただ聞き入れればいいってものじゃあない。ここは単なる相談所ではないんだ。そんな状態で、願いを叶えてやることが出来るのかい? 冷静な判断が、対応が可能かい? 彼らに必要なのは必死でやってますアピールではないよ?」
その言葉に私は何も言い返せなかった。必死でやってますアピール。その言葉が胸を抉る。そういえば、先日ここに来て私が対応したご婦人も、私が話すにつれてだんだん不安が増していくようだった。途中で大臣が入ってきて場を和ませてくれたけど、あのままだったら…
「あの… すみませんでした。今日は、これで…」
「うん、ちゃんと食べて、ちゃんと寝てきなさい。明日から、また一緒に頑張ろう」
「はい… あの… ありがとうございます…」
心に余裕がないやつが、心に余裕のない人の相談になんて乗れるはずがなかった。そんなことにも気づけなかった。今は、ちょっとだけ成長できたかな?
さて、二人に帰宅の連絡入れるかな。
LINEを送ると、リナが「一緒に帰る。転送する?」と返すので「夕食の買い出ししながら帰りたいんだけど…」と返す。するとサフィニアが「竜田揚げが食べたい!」とデカイ文字を打ってくる。どこで覚えた!
「了解。入口で待ってる」と返して私は歩き出す。最後の晩餐かもしれない。そんな予感を打ち消しながら。