表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

歴戦の勇者だからね

異召省、他の省庁とは見た目から異なる古びた建物。当時はまだ珍しかった、魔力に関する研究施設を買い取り改築させて作られた。そう、当時はまだ珍しかった。というよりも異世界の存在や魔力がほとんど認知されておらず、召喚被害者も法律上存在していなかった。召喚されていった者も、されて来た者も…

その省の屋上、昼休みにバレーでもやれそうな広さの空間に男二人。大臣と勇者。レジャーシートを敷いて屋上のど真ん中に座り込む。

「いやいや、すまないね~ 何しろマイナーな部署だから安月給で。でも、ここは眺めもいいし、周囲にはこちらを覗き見れる場所もない。安酒を揃えて無礼講で飲むには最適なところなんだよね~」

「うむ。盗撮、盗聴、張り込みに潜入、ほぼ不可能だな。おまけに結界で魔力による介入も不可。我が公国の重要施設並であるな。他の省庁とは一線を画す」

二人の視線が交わる。お互い笑顔だが、目が笑っていない。相手の出方を伺い、直ぐにでも攻撃に転ずれるように… そんな空気を発していた。

「いや、探り合いはやめよう。せっかく無礼講と言ってくれたのだ。素直に受け入れ、素直に問いかけるのが一番。それに…」

「それに?」

「はやく飲みたい! そのツマミは何だ? すごく美味しそうじゃないか!」

直前までの張りつめた空気が嘘のようにほんわかムードになる。

「はっはっは~ 私イチオシの一品だよ。ぜひ食べてみてくれ」

しばしの御歓談。互いに持ちよった酒とツマミの品評会。オッサン二人の宴が続く。



「へぇ、個室なんだ~」

ほぼ同時刻、サクラとカドマツは、カドマツ行きつけの居酒屋にいた。

「オヤジさんが優しくてね。一人の時も使わせてもらってる」

コートをハンガーにかけながら会話をする。チラリと目に入るオススメのメニューに心引かれ、サクラのお腹がくぅと鳴る。それを聞いてカドマツはいつものように呆れた顔をする。仕方ないだろと言うと、フッと笑いながら先ずは注文してしまおうとカドマツが座る。せり鍋、美味しそうだなぁ♪



「なんと、そんなお値段でこれが!? むむぅ、やはりこの国、侮れん!」

「これを見つけるまでは外れも引きまくったよ~ 安月給は困るけど、ならではの出会いだねぇ」

「いや、月給は安くはないだろう。手元に金が無いのは寄付をしているからでは? そなたは自身に責任を感じすぎている」

大臣の顔が一瞬真顔になる。そして直ぐにいつもの柔らかい顔に戻る。

「知っていたのかい?」

「皆の素性や発言、世界の状況、いろいろ考察して先程確信したのだ。もしや、いや、やはりとな」

バショウは参ったなという顔をする。そして頭を掻きながら話す

「数人しか知らない機密事項だ。内密に頼むよ」

「賄賂を頂いてしまったからな。それにマスターの命だ。秘密は守ろう」

勇者はニヤリとして盃を掲げた。



「お前はいいよなぁ。人助けして走り回っていてぇ。俺はぁ、大臣に無理難題言われまくりでぇ。ほんとはもっと違う研究だってしたいのによぉ…」

意外や意外。カドマツがこれ程に酔いやすく絡み酒だったとは。しかも、ほんとに愚痴。しかも大臣の。

「私は、お前は得意なこと、好きなことで仕事をしているんだなと、大臣からも信頼を得ているようで… 羨ましいなって思っていたよ。だから、まさか愚痴られるとはね」

その言葉に反応したのか、こちらをじっと見つめてくる。え?何?と酒を飲むコップの手が止まる。

「むしろ逆だな。バショウが気にかけてるのはお前だし、信頼されてるのもお前だ」

そう言ってコップの酒を飲み干して追加の注文をする。サクラは一呼吸おいて、器に残っていた鍋の汁を飲み干して応えた。

「じゃあ、孤児院に寄付していたのは、やっぱり大臣なんだね」



「察しの通り、君を召喚したのは私だよ。そして、かつてあの子を召喚したのも私だ」

「未熟さ故の召喚事故か。サクラは異世界人だったのだな」

バショウはコクりと頷く。

「異世界より傑物を召喚し、この世界を治めてもらおう。そんな若い召喚士の浅はかで歪んだ願い。それが一人の子供の人生を狂わせた。まだ赤子と言ってもいい年齢。私は無我夢中で知り合いの孤児院に走り、あの子を預けた。そして、罪悪感から逃れるために寄付を続けた」

「その後、政治家になり同じような者たちを救おうと奔走しているわけだな。カドマツも異世界人のようだが、彼も君が?」

サフィニアの言葉に驚くバショウ。

「そこまで気づいたか。まったく、君は恐ろしいな」

「歴戦の勇者だからね。推理と考察は歴代トップと自認しているよ」

「いやはや、感服だよ。彼は別の事件の召喚被害者だ。私が身元保証人になり、その知識を利用しようと部下にしたんだ。いつかは彼にもちゃんと謝罪しないとねぇ」

「その必要はないだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ