異世界召喚省開発部
「頼もう! カドマツ殿、進捗はどうかね?」
勢いよく扉を開けて部屋に入る。ここに来る時はさらにテンション高め。こういう研究や機械には興味津々。勇者ではなく男の子という感じだ。そして、この研究を邪魔する行為の後、私が無言で睨み付けられるのもいつものことだ。
「それでは、ここに手を当てて…」
黒いタブレットを差し出す。そのタブレットにはケーブルが差し込んであり、それはカドマツの後ろの大きな機械に繋がっている。魔力を溜める装置らしいが私には詳しい仕組みは理解出来ない。タブレット画面と、その先の機械の一部が黄色?金色?に光る。魔力の属性によって色は変化するらしい。さすが勇者様。神々しい色でいらっしゃる。
「毎度思うけど、省庁内にこんな研究施設があるなんてな~ カドマツ、もっと専門的な研究機関の方が合ってたんじゃないの?」
そういえば、彼がここを希望した経緯を知らない。なので、ふと思って軽い気持ちで投げ掛けた質問だった。
「逆だよ。ここが元々研究機関。国が買い取って異世界省になったんだよ。これも原型は… いや、まぁそういうことだよ」
予想外の答えだった。民間の施設を買い取ったとは聞いていたが… そもそも異世界の研究機関が存在していたことは知らなかったし、そこが異世界省になったなんて。もしかして、彼も元々はそこの研究員で発足と同時に編入したということだろうか。
「ぜんぜん知らなかったよ。やっぱりまだまだだね、私は」
「いや、詳細は限られた人しか知らないことだ。他言無用で頼むよ…」
彼には珍しい失敗したなという表情。いじり返す事案としては十分であるが、何故かそんな気分にはなれなかった。さっきまではしゃいでいたサフィニアも静かになっている。あれ?少し気まずい空気?
どうするよと思っていると、タイミングよく電話が鳴る。ありがとう大臣。
「サクラく~ん。書類が出来たよ~ あとサフィニア君の名刺とかも届いたから、はやくおいでね~」
要件だけ言って切ってしまったが、その言葉に従いさっさと、もとい、そそくさと戻っていく。ありがとう大臣。
「やあやあ、二人ともすまないね。皆、思ったより仕事が早い。こんなに直ぐに出来てきちゃうとは思わなかったよ。普段の仕事もこれくらい早ければいいのにねぇ。はっはっは~」
軽く担当者をディスってる。そうですね。いつもはこっちがそういう扱いですからね。お気持ち、良くわかります!
「ふむ… 大臣殿、私にはまだ少し難しい専門用語も多いようだ。よろしければ、夜にでもご教示願えるだろうか?」
「え? わざわざ大臣の手間を取らせなくても私が」
「いや、それだと二度手間になる部分も出るだろう。それに、大臣殿とも交流をしたいではないか♪」
確かに一理ある。が「交流」って言葉に引っ掛かる。私を外してこの二人が何を話すのか、気になるし知りたくない気もするし。というか、クリスマス以来のぼっち飯か。サフィニアは大使館もとい大使室へ移動。部屋の整理をした後、書類に目を通しておきたいと、今日はこれで別れることになった。私も勇者案件以外の仕事も少したまっていたので部屋に戻り作業に取りかかる。
しかし、最近は誰かと一緒に食事をするということに慣れたし、むしろ一人ってさみしいなと思うようになっていた。もちろん一人でも美味しいものは美味しい。しかし、その時の私は笑顔だっただろうか。美味しいものを食べて、美味しいと真顔で思う。それは本当の意味で美味しいのか?
そんな一人問答みたいなことを考えていると、再び電話が鳴る。今度はカドマツ? 珍しいじゃない。
「はいサクラです。どうした?」
「聞いた。大臣と勇者が遊んで帰るんだろ? うちらもたまには飯どうだ?」
ほんとに珍しい!? というか初じゃね? てか、彼らも遊ぶわけじゃ… なきにしもあらずか。
「いいんじゃない。行きたいとこあるの?」
「行きつけの飲み屋がある。定食も豊富だ」
「へー行きつけなんてあったんだ。いいね。そこにしよう。てか、何を話そうか(笑)」
「きっと俺の愚痴になる」
うへぇと反応すると、お前に対してじゃないよと笑う。こいつが笑うことも初な気がする。新年早々、
面白いことの連続だ。いや、それを言うなら勇者が来てから、だな。仕事はしっかり頑張って、定時で上がる。一応、サフィニアに連絡を入れて、よし出発だ!