仕事始め
「正月疲れが清められるようだな」
七草粥で胃袋が落ち着く。薄めのお茶で一息ついて、今日から仕事開始だ。
「年末分の報告書の提出の時に新年の挨拶はしたけど、今日が仕事始めだからね。さあ、気合い入れていこう!」
ちょっと大きめの水槽の中を悠々と泳ぐ新しい家族、金魚のホオズキにいってきますと手を振って、新しい一年に意気揚々と走り出す。
「なんと!?」
「それ、ほんとに大丈夫なんですか?」
出勤早々、大臣より通達。仮ではあるが異世界大使館を、この異世界省内に設置して、ニーレンベルギア国大使として勇者サフィニアを任命。そこで働いてもらうとのことらしい。
「まぁ、現状は本国とは連絡が取れないし、カドマツ君たちも頑張ってくれてるけど進展ないし、かといってこのまま異世界勇者をタレントとして遊ばせておくのもね~ だから、ちゃんとした役職に就いてもらって、この国のために少し働いてもらおうっていう魂胆だね」
魂胆って… まぁ確かに、こいつはタレントとしてよりも政治家の方が実力は発揮できそうではある。うまく本国と交流可能になれば進展も早いしお互いのためにもなるだろう。
「一応、本人から許可を得てからってことだったからさ。詳細は帰りまでに書類にまとめておくよ。今日は初日だからのんびり挨拶周りしておいで~」
相変わらずユルい…
「とりあえず、大使館、確認していく?」
サフィニアにとっては新しい職場になる。異国での要職。気合いは入っているようだが、緊張も混じっているのが私にもわかる。
「珍しいね。緊張かい?」
「うむ。正直な話、今までは勇者として、ある意味では自由に生きてきた。やりたいようにやってきた。自分の信じる勇者道というやつだな。しかし、政治というものは皆のことを考えねばならん。そこに差別はない。先の長い若者を優遇、先の短い老人を冷遇、仕事のできる者を優遇、不器用な者を冷遇、そういう社会にしてはならない。かといって、あからさまに弱き者を優遇、強き者を冷遇もダメだ。もちろん平等を重んじて…」
話途中に、フッと軽いため息をつく。そして、半ば自嘲気味に再び話し出す。
「などと学生時代に散々苦悩したものだ。いまだに結論は出せず。我が国の王も批判する者は多かったが、誰よりも国民のことは考えておられた。それに、勇者仲間の中には政治家となり、かつての信念をねじ曲げてしまった者もいる…」
初めて見る苦悩と不安の顔での勇者語り。普通の人が相手なら、はいはい愚痴ね政治批判満腹ゲップ~となるところだが、彼の信条を知っているだけに聞き入ってしまう。
「そんなに気負うなよ。何も国政を任されたわけじゃないんだし。それに、ちゃんと応援してるやつはいるんだからさ」
背中をバシッと叩いてやる。一瞬イッと驚いていたが、少し照れて頭を掻いて、いつもの自信満々の表情に戻っていた。
「てか、ここかよ」
ほとんど使われていなかった第3会議室。会議室とは名ばかりの、誰か使ったことあるのか?という小さな部屋。ここを改装して、というか長テーブル等を出して、ちょっと立派な机と椅子、棚を入れただけ。それ以外はまだ何も無い。まさに0からのスタート。
「有効利用素晴らしいではないか。心機一転だな。まぁ、何をすべきかもわかってはおらぬがな」
「んじゃ、とりあえずカドマツのとこ行こうか。新年の挨拶と魔力供給」
魔力探知機を改良して異世界との通信機を開発中のカドマツ。ここ2ヶ月、そういうことも出来る彼を、もはや素直に尊敬していた。相変わらず嫌味な言葉は投げつけられるが、自分の至らなさ故と甘んじて受けとめて… いる… チッ