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異世界勇者参上

ハロウィンに盛り上がる渋谷の街。様々なコスプレをした若者たちが練り歩く。世界はいろいろあるが、なんとか平和な日本である。

と、スクランブル交差点のど真ん中に光の柱が現れる。だが、混乱は見られない。祭りを盛り上げる演出、そう思って見ている者も多いようだ。光が徐々に細くなり、輝きが弱くなり、すうっと消えていく。すると、その場には一人の人間の姿があった。銀色の鎧を纏った金髪の青年が片膝を着いてうずくまっている。それを見て人々が集まる。何のイベントかと盛り上がる者、写真を撮る者、心配する者、様々だ。しばらくすると、青年は立ち上がり辺りを見回す。精悍せいかんな顔だちをしている。女子を中心に色めき立つ。


ふぅ…


青年がタメ息をひとつすると、辺りは「きゃあ!」とさらに盛り上がる。「○○君っぽくない?」「似てる似てる♪」「ハロウィンイベントか!?」等と言葉が飛び交う。青年はそんな周囲の言葉は気にもせず、剣を抜き構えて叫ぶ!

「魑魅魍魎の徘徊する都市か! 一般人も多数確認、被害が広がらぬよう速やかに殲滅してやろうではないか!!」

神速一閃!目にも止まらぬ速さで駆けると、一瞬遅れてコスプレをした人々が吹き飛び倒れる。駆けては飛び、駆けては倒れ… 周囲の若者たち数百人、ほぼ全て倒してしまった頃に警察が到着した。

「はいはい! ストップ! ストッープ!!」

「む? この国の騎士団的存在か? ご苦労である!」

礼儀正しく敬礼する。しかし、警察は厳しく接する。

「ご苦労じゃないよ~ 君、もしかして異世界人かい? 今ね、君が倒したのはね、普通の一般市民なの! 今日は変装するお祭りなの!」

「なんですと!?」


青年は警察署へと連行させる。そして、警察は政府へと連絡をする。異世界召還省、近年増加した異世界召還関係のトラブルを総括する省だ。事態を把握した大臣は補佐官を呼び出す。

「大臣、お呼びですか?」

「うん、ちょっとトラブルがあってね~ 実に珍しいことなんだけど、こっちに召還されちゃった人間がいるみたいなんだ。君、身元引受人になってくれないかな? とりあえず渋谷警察署に向かってね~」

「はい? はい~!?」


~渋谷警察署~

「はっはっは~ 貴殿が私の身元引受人というやつか。ご足労すまないね。しばらく厄介にならせていただくよ!」

補佐官のサクラは既にぐったりしていた。どこから情報が漏れたのか、ネットでは大騒ぎであり自分のことも話題になっていた。此処に来るまでに多くの記者や市民にもまれ、罵詈雑言を浴びせられたのだ。

「あのね、ほんとに厄介なんですよ? いきなり一般人を斬りまくりますか普通?」

会うなり愚痴を言ってしまった自分に凹む。何の情報もなく召還された世界だ。独り飛ばされた不安で攻撃的にもなるだろう。そう思い少し反省するのだが…

「いやはや、まさか一般人が化物に変装する祭りがあって、しかもその最中さなかに放り出されるなんて考えもしなかったよ!」

と高らかに笑う。その姿を見て(本当に反省してるのか?)といぶかしく思う。

「だが、我が剣は悪意に反応して切れ味を増す聖剣。一般人が相手ならば思い切り斬りつけてもダメージにはならぬだろう」

腕を組んで自慢げに話す。大臣に渡された資料を見ると、たしかに被害者のほとんどは無傷だが…

「だからと言って、暴力行為はいけません! こちらの国にいる間は、こちらの国のルールに従ってください!」

「うむ、了解した!」

あまりに真っ直ぐに答えてくるので拍子抜けする。よくよく考えてみれば、こういう時のために我々の部署が存在するのだ。今までは、異世界に召還されてしまった人物の、残された家族のケアが中心の仕事だった。実は、こちらの世界に召喚されるケースは稀で、一般人が何かの拍子にというのがほとんど。しかし、今回は異世界から召還された、しかも勇者が相手だ。今後も同じようなことがあった場合、貴重な事例として何度も人の目に触れることになる。後輩たちのためにもしっかりと記録を残さねばならない。と思っていると、勇者はテレビ画面に夢中になっている。

「ああ、そういえばもうすぐ選挙でしたね」

候補者の演説が流れる。すると隣で座っていた老人が愚痴を言い始めた。

「まったく嘘ばかりつきやがって。ワシらの生活は全然よくならん。いい生活してんのはあいつらだけじゃねーか。悪政だ悪政!」

同行している女性がすみませんと謝罪する。目が合い、こちらも会釈する。勇者は顎に指をあて何やら考え込んでいるようだが…

「そうか! 私が召還されたのは、悪政を敷く為政者の討伐か! あれを倒せばいいのだな!?」

手をパンと叩き、笑顔で叫ぶ。ならば早速と剣を抜いて走ろうとするところを必死に止める。

「だーダメダメダメダメー!! ストッープ!! だからこの国のルールに従って! まずは法律とか覚えて!」

腰にしっかりしがみつくも、ずるずると引き摺られる。勇者は「めんどくさいルールだのぅ… そんなんで国はよくなるのか?」と少し呆れている。

今度はこちらが周りに謝罪する。はやくなんとか落ち着いてもらわないと身が持たない。

「とりあえず抜刀禁止、暴力禁止、疑問や欲しい物があったら私に言ってください。あと、いろいろ聞いてくる人がいますが、全部無視でお願いします!」

国家間の問題に発展するとも限らない。私たちもまだよく知らないのに、マスコミに先に知られ拡散されるのは絶対阻止である。

「なんだか住みにくい世界だな… しかし、見たところ魔王も魔獣もおらん。ならば私は何故喚ばれたのか…?」

そうなのだ。召還されたということは、召還した人間がいるはず。しかし、そのような人物はまだ見つかっていない。真剣に悩む勇者。

「と、とりあえず場所を移動しましょう。私の職場、あそこは貴方のような人をサポートする場所です。今後のことは、そちらで話し合いましょう」

周りも初めて見る異世界人に、警察署内とはいえざわついている。外のマスコミも、いつ侵入してきてもおかしくない。騒動を起こすのは我々異召省の本懐に反する。勇者もたしかにそうだなと納得する。

「よし、地図を見せてくれ。現在地と目的地は? ふむ… 理解した!」

「へ? 理解ってなんです? とりあえず、警察に協力してもらって、タクシーまでの道を…」

と言ってる途中で抱き抱えられる。まさかのお姫様抱っこである。意味がわからずパニックになる。

「ななな、なに? なんなの!?」

「あのような連中に付きまとわれては移動もままならぬだろう! 私がこのまま走って行く方が安全だ!」

扉が開いたのを確認すると、ダッシュで外へ出る。そのスピードに驚き動きが止まる野次馬たち。彼らを尻目に、省の方向へ凄まじいスピードで走る。

「か、壁!ぶつかる!!」

壁にぶつかりそうになるも、一歩手間で深くしゃがみこみ大きくジャンプする。ジャンプして、壁を走り、建物の屋上を次々と飛び越える。

「そうだ、自己紹介がまだであったな。私はニーレンベルギア公国の勇者サフィニアだ! よろしくお頼み申す!!」

「わわ、私はぁ、サクラで、です。よろしくくっです!」

東京の空を走る衝撃に下を噛みそうになりながら話す。胃が痛い。風が気持ちいい。不安とドキドキが全身を駆け巡る。さぁ、仕事だ!



「ん? 眼下に盗賊発見だ! 斬り伏せる!」

「だからやめて~!!」

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