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停学を回避するために

 放課後というのは、高校生にとって至高の時間。


 拘束されていたものの鬱憤を晴らす時間。自由時間ともいえよう。


 部活動で青春するも良し。友達と寄り道する青春も良し。家に帰ってゲームする青春も良し。


 ともかく、自由時間なんだ。


 あーあ……。そんな貴重な自由時間を潰すなんて……。ヘマしちまったな……。


「──聞いているのか? 高槻蓮太郎たかつきれんたろう


 目の前に座る綺麗な髪の長い女教師──富田由美とんだゆみ先生が俺をフルネームで呼んでくる。


 担任の富田先生が生徒をフルネームで呼ぶ時。それはなにかある時だ。今回に限っては理由は明白だけど。


「あ、あははー……。えーっと……停学……ですか?」


 苦笑いを浮かべながら聞くと、呆れた顔をされてしまう。


「当然だろ。バイクに乗ってたんだから」

「免許は持ってますよ。無免許じゃありやせん。苦労しゃーしたよん。取るの。学科とかめっちゃつらたんベイビーでしたん」

「意味のわからない喋り方で誤魔化しても、バイクの免許取得は校則違反だ」

「でも法的にはセーフですよ」

「校則的にアウトだ」

「ですよねー」


 はぁ……。


 俺は昨日、バイクに乗っているのを富田先生に見つかった。


 まさか、バレるとはな。あーあ。時間をズラしてコンビニに行けば良かった。いや、コンビニなんて寄らなければ良かったんだ。そもそも──。


 嘆いていても過去は消えないか……。


 あーあ……。ヘマしちまったな……。


「お前は初犯だし、三停ってところだな」

「初犯て……。言い方……」

「次、見つかれば五停の免許取上げだ」

「厳しっ」

「これでも随分甘いがね。次にやらなければ良いということだ」

「はぁ……自重しまぁす」


 適当な返事をすると富田先生は呆れた目をして俺を見る。


「停学期間中、お前には反省文を書いてもらう」

「はぁ……。反省文すか……」


 こうなったら仕方ない。一日で反省文を書いて、残りの二日は旅に出よう、そうしよう。


 気軽に考えていると、富田先生が足元にあった段ボールを机の上に置いた。


「これを三日で書け」

「は? はあ!? んなっ! あほな! いやいやいや! この段ボールの中身全部!?」

「もちろん。全てだ」

「こんな書けるかっ!」

「書ける、書けないじゃなく、書くんだよ。それが罰というものだ」

「ふざけんな! 書けるかよ!」

「これを書かないと退学だぞ?」

「ぐっ……」


 退学はいやだ。しかし、こんな量の反省文なんて書けるかよ。何枚あるんだ? これ百は余裕で超えている。下手したら千枚あるんじゃない? 

 反省の内容薄いし、そんなに書けるかよ。てか、内容濃くても書けるか!


 困惑状態の俺を見て富田先生は、ニヤリと口を緩ませる。


「この量は確かにキツイな。ああ、キツい。キツすぎる。だろ? 高槻」

「今、転校を考えてますよ。わりと本気で」

「バイクがバレただけで転校なんてイヤだろ? イヤだよな? なあ?」

「何が言いたいんですか?」


 こちらの問いかけに、待ってました、と言わんばかりの表情を見してくる。


「見逃してやっても良いぞ?」

「は?」

「だから。見逃してやっても良いと言っているんだ」

「え? まじっすか?」


 希望の言葉にすがりつくと先生が、ビシッと指を差してくる。


「ただし! 条件がある」

「ですよねー」

「その条件をのめば見逃してやる」


 タダでは見逃してくれない。仕方ないだろう。俺も教師の立場なら見逃さないだろうし。


 ──いや、待て。教師?


「先生。そんなこと言っても良いんですか? それって脅迫じゃないですか? 先生が生徒に脅迫して良いんですか? 問題になりますよ?」

「脅迫か……。私はお前に更生という選択の余地を与えようとしているのだが……。それを脅迫と言うか……。残念だ。なら、それも良かろう。高槻。この件に関して誰かに言っても構わない。だが、それは自ら、停学しに行くような真似だぞ? 良いのか?」

「確かに……」

「どうする? 話を聞くか?」


 このままじゃ停学。ありえない量の反省文を書かされてしまう。

 もしかすると、先生の条件ってやつの方が甘いかもしれない。

 その可能性に俺はかけてみる。


「聞きましょう」

「うぬ。そうくると思っていたよ」


 先生は机の上に置いてある段ボールを持ち上げると話し始める。


「実はな、手伝ってやって欲しいことがあるんだ」

「手伝い?」


 手伝いとはなんだろう。疑問に思っていると、先生がドアの方へ歩き始める。


「詳しい説明は現場でしよう。付いてきてくれ」

「あ、はい」


 立ち上がり、先生の後に続く。


 先生は段ボールを持っているのでドアが開けられないから、俺がドアを開けてあげる。


「ああ……。重いな」

「そりゃ、その量はヤバいでしょ」


 俺の答えに先生はため息を吐いた。


「勘の悪いガキだ。持てと言っている」

「一言も言ってませんでしたけど?」

「やれやれ。女心のわからん奴だ。自分で言っておいてなんだが……大丈夫か?」

「なんの話しですか?」

「いや……なんでもない。──はい。とにかく持ちなさい。レディに荷物を持たすなんて、紳士としてあるまじき行為だ」

「三十路レディに持たせてさーせん」


 ドンッ! 


 いきなり三十路レディに壁ドンならぬ、ドアドンをされる。


「高槻ぃ。私はまだ二十九だ。わかるか? この意味がわかるか? ああ?」


 その顔がヤバかった。本当にヤバかった。

 俺の感情はただシンプルである。


 恐怖。


 これだけだ。


 これ以上の失言は俺の未来を奪うだろう。


「い、いやー。二十五歳に見えますぅ。わかぁい」

「──ふん。ま、良いだろう。だが覚えておけ。女性に年齢の話をすると、しぬってな」

「身に染みましたぁ」


 本当にしぬかと思ったよ。


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