好感度システム
頭を地面に擦り付ける勢いで土下座。
たっぷり10秒は待ってから恐る恐る顔を上げると…。
口をカバのようにあんぐり開けたそばかすの美少女がいた。
いやいや、可愛いんだからそんな阿保面しないで!
そんなにびっくりしちゃった? まぁ、傲慢で高飛車なエリナが急に土下座し出したら驚くか…?
「エリナ…様…」
「ユエル、本当にごめんなさい!信じられないかもしれないけど、私心を入れ替えたの!これからは貴方に意地悪しないしパシリもしないわ!大切な1人の学友として扱う!いや、今更私に学友なんて言われたくないかもしれないけど…でも、貴女が許してくれるならば、私はその…お友達になりたくて…。ううん、おこがましい考えよね?今のは忘れて!まずは貴女に許してもらうことからだわ。ごめんなさい!今までの数々の行為を謝罪するわ。これで過去が変えられるわけじゃないけど、許してくれないかしら…?」
最後の方はもはや涙目だった。自分がしてきた嫌がらせの行為を思い出し、罪悪感で押し潰されそうになる。
思い出すのは前世での自分。上司に仕事を押し付けられ、責任を負わされ、使い走りにされ、嫌味を言われてきた。あんなに辛かったことを自分が他人にしていたなんて、信じられない。最低だ。
「エリナ様…あの…、とりあえずその地べたに這いつくばるのをやめていただけないでしょうか?私、そんなエリナ様見たくありません…」
あぁ、そういえばこの国には土下座という文化はなかった。前世の記憶を取り戻したことで、すっかり日本文化寄りになっていた。
とりあえず、と土下座から正座にして、ユエルを見上げる。
どんな言葉でも受け止めるつもりだ。
あのっ、と口を開くユエルの次の言葉を、固唾を飲んで見守る。日本女子たるもの謝罪の際は潔く散らねば。どんな暴言も受け入れて進ぜよう。
「何があったのか、私にはわかりませんが、とりあえずエリナ様が今まで私にしてきたことを謝りたい真摯なお気持ちは伝わりました。それは本当に驚きでしかなく、にわかに信じがたいですが、私は信じることにします。」
「ユエル…」
目の前のふんわりとした栗毛が風に揺れる。植物園の花の甘い香りが鼻をくすぐった。そばかすの美少女は、表情のない顔から微かに微笑んで、正座している私に手を差し伸べた。
「そんな風に地べたにお座りになられてはエリナ様のスカートが汚れてしまいます。ほら、お立ちになってくださいな」
ユエルの白く細い手が眼前に伸ばされる。てっきり、ふざけんな許すと思うなよクソ女、くらい言われると思っていた私は、あまりのあっけなさに拍子抜けして、ぽかーんとした。
「ユエル、いいの…?今まであんなに酷いこと沢山したのに」
「許す、とはまだ言っていませんよ?エリナ様」
でも、とユエルが続ける。
「でも、今のエリナ様となら向き合えそうな気がしましたので」
そう言って笑うユエルはとても可愛らしかった。
あぁ、こんな可愛い子をお友達に出来たらいいのに!
ユエルの手を取って立ち上がった瞬間だった。
どくんと、心臓が跳ね、周囲が暗くなる。
頭に流れてくる情報。
ユエル 10。
10ってなんだ…?
あっ!!!
私はハッとした。思い出すのはこのゲームの特殊なシステム。
そう、このゲームは対象に触れる事で好感度がわかる仕組みなのだ。
そのくらいわかりやすくないとハッピーエンドクリアは無理ゲーな鬼畜設定。
ユエルの好感度は10か。低いけど、当然というべき。むしろ0でないのが驚きなくらいだ。
「ユエル…ありがとう」
私は思わず彼女の手を両手で包み込んで満面の笑みを浮かべた。安堵した。
ふにゃり、とだらしなく頬が緩むのがわかる。
「…!」
目の前のユエルが少し赤らんだ気がしたが、気のせいだろう。
私は初めて0点以外をとった小学生並みに、10という数字に喜んでいた。
その頃、植物園の影ががさりと揺れる。
「なんだあれ…面白いことみちゃった♪」