お父さんドラゴン
ねぐらの前に捨てられていた人の子を拾った。
今年は雨が少なかったから…よくある事だ。
拾った理由は、自分でもよく分からない。全く、どうかしている。私はドラゴンなのに。
しかたなく面倒を見た。赤子ではあんまりなのでシアと呼んだ。
赤子は泣く、シアは特に泣いた。お腹が空いて泣き、おしめが濡れて泣いた。しばらくしてあまり泣かなくなった。
人の成長は早い、私を見てパパと喋った。パパ…悪くないな。
シアは外に憧れるようになった。私が記憶投影の魔法で外の世界を見せた事が原因だ。ある日シアが冒険者になりたいと言ってきた。精霊の話によると、とある男の子と冒険者になる約束をしたそうだ。人の子の成長は早すぎる……
やはり私が人を、育てるべきでは無かったのかも。
A級冒険者のシアが竜に捕らわれたという噂はすぐに広まった。誰もが諦める中で一人の少年が立ち上がった。
「ぐっ!」
脆弱な種族の癖に時折こう言う奴が現れる。何より気に入らないのが、この小僧が「シアを返せ!」と言ってくる事だ。お前はシアの何だと言うのだ。
お互い限界を感じ、最後の一撃を構える。
「やめんか!」
瞬間、横から巨大な火球に吹き飛ばされた。
「シア!良かった、無事だった!」
「ちょっとパパ!どういうつもり!」
勇ましかった少年が硬直する。
私は答える事が出来なかった。だってシアが麓の町に行ってしまったら。
「別に良いわよ」とシアが私に魔法をかける。まずい!この魔法は記憶を投影する魔法だ。
『やはり私が育てるべきではなかった。彼女の本当の親が麓の村にいるはずだ』
『それが、彼女の両親は10年前に…』
ああ、知られてしまった。シアの本当の親は…
「なんだ、そんな事」
シアはあっけらかんとして言った。
「えっ?」
「一言文句言ってやろうと思ってね。冒険者になった日に探したの。無駄足だったけどね」
なんて事ないと彼女は言う
「たとえ血が繋がってなくても、たとえドラゴンでも、私のお父さんはパパだけだもの」
なあ、本当に私が出ても良いのか?
「何よ?娘の結婚式に参加しない訳?」
し、しかしだな、私が人の街に行くなんて。
「もう、領主様にも話しちゃってるんだから、いい加減に覚悟を決めてよね」
この街には勇者が結婚式を挙げたという伝説がある。
伝説では勇者の妻はドラゴンに育てられたと言われており、伝説を伝える壁画には必ず、窮屈そうに身を縮ませながら、でも誇らしそうな顔をしたドラゴンの姿が描かれていた。