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時間差勇者  作者: 稲荷竜
1章 異世界生活十年目
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18話 王女対策会議

「『実はそのブローチ、隊商からサービスでもらったものでして、作り主はわからないんですよ』って言うこともできたわね」


 相談のために神殿に出向いた。


 王女殿下は俺が「お返事をする前に出かけねばならない場所があるのです」と言うとついてきそうな勢いだったが、場所が神殿だとわかったとたんに同行を辞した。

 どうにもあの子は神殿とか宗教とかのよくわからないものが苦手らしい。


 これ幸いとダッシュで神殿へと出向き、聖女をお呼び出し申し上げ、すっかり俺たちの相談場所となった、例の、狭い真聖堂で、テーブルを挟んで向かい合う。


 そうして経緯を説明すれば早速キリコが機転のきく意見を言ったので、俺は深くうなって大きくうなずいた。


「いいなあその機転。お前に現場にいてほしかったよ」


「まあ、あとからならなんとでも言えるから。実際に王族が突然部屋に来たら、私もこんなこと言えないと思うわ。……いえ、どうかしら? まだ『王族』ってピンと来てないし、言えるかも?」


「いやあ、オーラあるぞ。なんていうか、顔の作り? 雰囲気? そういうのがやっぱ全然違うわ。相手は十一歳の女の子だったんだけど、掌に変な汗かいたよ」


「ふぅん。王様に会っても私は別になにも感じなかったけれど……この世界に長く暮らしているあなたに、何か補正が働いているのか、それとも、その子が特別なのか……」


「陛下については遠目に二、三回見た程度だからなんとも言えないな。……で、どうしたらいいと思う?」


「そうねえ」


 キリコはそのへんに投げ捨てた帽子を拾って、ぱたぱたと顔をあおぐ。


「一つ。謁見当日までこのままあなたを神殿に引き留めて、王女殿下があきらめるのを待つ。聖女権限なら、勇者を引き留めるぐらいはできると思うのよね」


「お前が嫌われるぞ。お前が嫌われるってことは、俺たち二人が嫌われるってことだ。なるべくそういう方向は避けたい」


「運命共同体だものね。……では別な意見。王女にぶっちゃける」


「そうなるよなあ。でもなあ。……他には?」


「王女殿下をどうにかできる相手とのコネクションなんかないわよね。まあ私がいるけれど、私への好感度を下げさせたくないんでしょう?」


「そうだな」


「……だとするとそうね、王女殿下には消えてもらうしかないわ」


「もちろん却下だよ!」


「でしょうね。なら、ぶっちゃけるしかないわ。それとも、あなたの『合成』で作ったものを、あなたの手腕で再現できたりは?」


「多少はできる。でも、王女殿下の目はごまかせない。俺は細工師としては中の下ぐらいだよ。対して、俺の『合成』で作り上げるのは、この世にありえないほどのものっぽい。人生いっぱい使って真剣に修行しても、たどりつけるかどうかわからない」


「じゃあ『ぶっちゃける』しかないじゃない。……王女殿下についてけっこう詳しいみたいだけど、人となりとかはわからないの?」


「詳しいのは誰でも知ってるデータだけなんだよ。『奔放な末王女』っていうレッテル以上のことはわからない。だからまあ、最悪、いろんなところにばらされる覚悟も必要だ」


「今から『隊商にもらったもので製作者はわからない』ルートに移れない?」


「無理だと思う。たぶん、『どの隊商だ!?』が発生するし、俺が住んでる村は割れてるから、そこに来そうな隊商ぐらい割り出すのは簡単だと思う」


「隊商の人たちが『さあ、知らないな』ってなったらあきらめる可能性は?」


「可能性はある。でも、王女殿下の性格がわからないから、あきらめないかもしれない。少なくとも、細工物に対する興味はかなりあるようだった。俺たちが想定できる以上の信念をもってブローチの作り主を求める可能性もあるし、本気で調べられたら俺が嘘ついてたことがバレる。あるいは……」


「あなた以外の誰かを『嘘つき』に決めつける?」


「そう。さすがにそんな、どこに火の粉がかかるかわからないマネはできないよ」


「王族ってずいぶんすごいのね」


「すごいんだよ。やる気と根気があればあらゆる情報にアクセスできる地位にあるし、王族の『ちょっとした興味』のために動く集団もいる。国民もだいたいは協力的だろう。それがこの世界の王族なんだ」


「じゃあ、ぶっちゃけましょう」


「……いいのか?」


「いえもう、それしかないでしょう。というかね、私としては、あなたのすさまじい能力がしっかり世間に認められてほしいと思ってるんだってば」


「俺の能力(チート)ではあるけど、俺の能力(スキル)ではないんだよなあ」


「いいのよ。もらったものはあなたのものだから」


「そこまで割り切れるのはすごい」


「そうは言うけどあなた、ドヤ顔で私にフライドポテト振る舞ったじゃない。それはあなたにしかできないことだし、私は喜んだし、頼れる時はガンガン頼ったらいいのよ。私なんてチートと立場がなかったらただ顔がいいだけの女なのよ」


「ドヤ顔だったかあ!?」


「堪えきれない笑いを必死に堪えているような顔をしていたわ」


 こんな感じ、とキリコは再現した。

 しかしキリコの美しい顔面では、俺のドヤ顔を再現できなかった。


「……とにかくだ。キリコ、じゃあ、ばらす。ばらすけど、それで何が起こるか想像もできない」


「そうね、バラした途端に異世界転生するかもしれないわ」


「さすがにそれはないと思う」


「じゃあ大丈夫じゃない?」


「……お前は本当に強いよな。頼りにしてるよ。マジで」


「でしょう? 甘えていいのよ。抱きしめて頭をなでてあげましょうか?」


「絵面が犯罪」


「合意だからいいのよ。じゃあ、バラしておいでなさい。ついて行きましょうか?」


 ちょっと悩む。

 そこまで甘えていいものか、というのももちろんあるが、どうすればもしも悪い方向に事態が転がった時に対処しやすいか、というのがメインだ。


 最悪の場合。

 うーん、人知れず、死ぬか、行方不明?


「キリコ、もしも俺が失踪したら探す?」


 答えるまでもない、というように、キリコはドヤ顔で笑った。

 ついてきてもらうしかなさそうだった。

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