第1話 時の石の在り処
「やっと着いたか⋯ここが世界最大規模の街ルーランダーか。ここに時の石があるんだな?」
「その通り! この俺様の嗅覚に間違いなど絶対にあり得ない!!」
ロエルは低い鼻を高くして得意げに言う。
実際に1個目の時の石はロエルの力で難無く見つけられたので俺もロエルの嗅覚に対してはある程度の信頼を置いている。
「なら良かった。じゃあ早速街のどこにあるのか捜索して行こうか。と言ってもこの馬鹿でかい街から探し出すのは中々気が遠くなりそうだがな⋯⋯⋯」
「そんなの俺様の嗅覚を持ってすれば朝飯前だぜ!あっちの方から旨そうな魔力の匂いがするから行ってみようぜ!」
魔力を食い物にするロエルからすれば時の石の放つ魔力は旨そうに感じるらしい。今俺が持っている石も隙あらば食らおうとするので気が抜けない。
「その方角にはこの街の人々が大勢集まる広場があるみたいだし、そこの人達に尋ねてみるか。一応言っておくが、見つけても食うなよ?」
「わかったわかった。その代わり、後でお前の魔力を食わせろよ?」
「はいはい」
「おお〜、めちゃくちゃ賑わってるなあ〜!」
「栄えている街だとは聞いていたがまさかここまでとは⋯⋯」
この街に入った時点でかなり人が多く賑わっていたが、広場はそれとは段違いだ。移動も困難なレベルで周りが人で埋め尽くされている。
人混みの苦手な俺からすればかなり居心地が悪い。早々に時の石を見つけてこの街を立ち去りたい。
「突然すいません、時の石という魔力を持った光を放つ石を探しているのですが、そのような話を聞いたことありませんか?」
広場にいた中年の男に尋ねてみた。
「はぁ?石だぁ? んなことより今日からこの街で最大のイベントの武闘会が開かれるんだぞ?お前も観て行けよ。何なら参加してみるかい?なーんてな、ガーハッハッハ!!」
全く質問に取り合ってくれない。やけに街が賑わっていると思ったらそういうことだったのか。どうやら今日はこの街が特に活気付く日らしい。
「この人の多さじゃあ探し物どころじゃない。今日はこの街で旅のための物資を揃えて明日から時の石探しを再開しようか。ってお前何してるんだ」
ロエルの方を振り向くと、何かの匂いを嗅いで興奮している様子だ。
「あのでかい建物からすげぇいい匂いがするぜ! ちょっと行ってくる!」
そう言うと、ロエルは猛スピードで広場の中央に位置する巨大な建物に向かって飛んで行った。
「おい!!待て!!」
ロエルを放って置くとろくなことが無い。人混みの隙間を何とか通り抜けてロエルを追いかける。
「ここは⋯⋯⋯さっきのおっさんが言っていた武闘会の受付場か⋯⋯⋯?」
ロエルを追って建物の中に入るとそこには屈強な男達が集まっていた。おそらく大会の参加者達だろう。
「遅いぞアレフ! あそこに飾られてる石を見てみろ!」
勝手に飛び出しておいて遅いぞは無いだろう。そう思いながらロエルの示した方を見ると
「あ、あれは!!」
そこには緑色に輝き強大な魔力を放つ石がショーケースの中に飾られていた。
それはまさに俺の探していたものだった。
「時の石?! こんな所にあったのか!」
「ふっふっふ、俺様の大手柄だぜ!」
ロエルは得意げに笑っている。
「ただここでこんな風に飾られてるって事はもしかしてこの石は⋯⋯⋯⋯」
少し嫌な予感が頭に浮かんできた。
すると受付嬢と思われる女が近づいて来て、
「参加をご希望の方ですか?こちらへどうぞ!」
そう言って俺の手を引きカウンターの方へ連れて行こうとする。
「いや、俺はこの石を見ていただけで⋯⋯⋯」
肉弾戦があまり得意では無い俺があんな男達と殴りあったら最悪殺されるだろう。
「お目が高いですね〜! これは今大会の優勝商品でございます! ある人が大会を盛り上げるためにと提供してくださった、美しいだけではなくもの凄い魔力が秘められているらしい魔法の石なんです!」
「ある人?」
「ふっふっふ⋯⋯⋯⋯それは大会が始まってからのお楽しみです! 今大会では鋭利な刃物以外であれば武器の使用が認められているので、腰に付けていらっしゃるその木刀も使用出来ますよ!」
「いいじゃねえかアレフ、どのみち参加しなけりゃ時の石は手に入らないんだ。それにお前はその木刀以外にも魔法っていう大きな武器を持っているだろ?」
どうやらロエルまでその気になってしまっているようだ。
「魔法? ふふっ御冗談を。とにかく今大会はあのお方も見学にいらっしゃるようなので一人でも多く参加して頂きたいのです! この石に心を奪われたのならば是非、大会にご参加下さい!」
ここまで強く勧められると断り辛い。それに俺も時の石が必要だし、木刀と魔法が使えるのなら流石に死ぬことは無いだろう。やるだけやってみるか。
「わかりました。参加させて下さい」
次回
武闘会開幕!
一戦目の相手はどんな奴だろうか