エピローグ
あれから約一年の月日が流れた。
カタカタとパソコンで記事を作りながら翔太郎はぼんやりとフィリと出会った夜のことを思い出していた。
口づけを交わした後、フィリは優しく翔太郎に向かって微笑み、「ありがとう」と言って幸せそうな笑顔を浮かべて暗闇に溶け込むように消えてしまった。翔太郎は泣きそうになるのを堪えながらそれを見送り、車で自宅に戻った。正直、もうその場にいたくなかったのだ。
翌日、長浜にお礼とあの夢がなんなのか全て解決したことを伝えた。そして、本題であったあの夢の真実を全て彼に話した。かなり驚いていたが、妙に納得したような顔をしていた。迷惑かけたな、と謝ると長浜は謝らなくていい、それより、真実がわかってよかったな、と言われた。
でもなあ、と翔太郎はブラックコーヒーを飲みながら思った。叶うならもう一度だけフィリに会いたい、と。
いつか、また、どこかで……。
バシーンといい音が響き渡った。
「いてぇ……」
「何白けた顔してんの」
ハリセンを持って仁王立ちする女、我が編集部の編集長がいつの間にか翔太郎の傍に立っていた。
「いきなり叩かないでくださいよ」
「あんたが白けた顔でサボってるからでしょ」
サボってねぇわ、と内心ツッコミつつなんか用ですか、と不機嫌に呟いてみた。
スパーン、といい音がまた響く。
「新入りよ、新入り。この子お願いね」
「はぁ?ちょ、急に言われても」
と、反論しかけて口をつぐんだ。
なあ、フィリ、やっぱりこれは運命じゃないかな。
「フィリ……」
新入りのその女性は別れ際に見せたあの幸せそうな顔によく似た笑みを浮かべて翔太郎の前に立っていた。