仕事とドライブ
長浜から電話を貰った翌日、翔太郎は海沿いの道を車で走っていた。
開けた窓から吹き込む優しい潮風と、視界の左側に見える美しい新緑。賑やかでありながら不快ではないラジオ。謎の解明兼仕事と言いつつもこれはこれでいいな、と翔太郎は思った。
記者という職に就いて良かったと唯一思える部分である。と言っても、翔太郎の務めている出版社はかなり緩いからこそ、こんなことができるのだが。
海沿いの道をナビの指示に従って走っていると少し、開けた場所に出た。ナビによるとここが目的地終点らしい。
波の音に混じって聴こえるエンジン音、少し海の方を眺めれば白い船がコンクリートの岸に向かって行儀よく並び、岸には少し古びた民家のようなものが建っていた。
船の上ではなにか作業をしているであろう人達と、そこに群がりお零れを頂戴しようとゴロゴロしながら待っている猫がいた。この街ーーそう、ここはとある漁村だった。
翔太郎はそれを微笑ましく思いながらこの漁村に纏わる話を聞かせてくれるという人の元へ向かった。
指定された場所に着くと周りの民家よりは少し古そうな、しかし、どこか落ち着く雰囲気を持つ家があった。
ドアをノックすると直ぐにその家の主人である老婆がでてきて家の中に招き入れてくれた。
そこそこ広い部屋に通されお茶と何故か枝豆が出された。翔太郎は居酒屋かよと、心の中で突っ込みつつ、相手の気遣いを無駄に出来ないからと有難く頂戴した。
「わざわざ遠いところからよくお越しくださいました、つまらぬものですがよかったらどうぞ?」
「いえいえ、こちらこそ急にすみません」
「いいんですよぉ、老いぼればばあの話を聴きに来てくれるだけで嬉しいからねぇ」
と、老婆はなんとも可愛らしい笑みを浮かべながら嬉しそうに言った。
「それで、早速お話を聴きたいのですが……」
「えぇ、あれですよね、この地にまつわる水棲馬伝説について、ですよね?」
翔太郎が頷くと老婆は静かにそれを騙り始めた。