7 魔法使いと万能薬2
それから俺はジルマから何を助けてほしいのかを聞いた。俺に出来ることは足りない材料探し、ジルマ一人では危険な場所にあるらしく採りにいけないのまであるらしい。元々あった材料は里の長老が所持していたもので自分で採ったものではなかったようだ。地上にある材料はわりと簡単、ブルーベリーとかハチミツとかでそういったものは言われてから速攻で揃えてきた。
「それで材料で採りに行かなきゃいけないものは?」
「あとは魔界の物だけね、マンドラゴラ、竜神の角、魔素の結晶、不死鳥の羽、ベヒモスの目玉にヒドラの舌」
手伝える気がしねえ! 何だそれ本当に薬が出来るのか!? 目玉とか何の意味あるの!?
「じゃあ今から魔界へ行くか」
「行く前に聞くけどいいの? 帰ってこれる保障は出来ないわ」
「何を今更、いいよ。助けてやるっていっただろうが」
「気を付けてね二人とも、戻ってきたら美味しい料理出来てるから」
家を出て、ジルマの魔法で瞬間移動すると目の前に黒い穴があった。周囲の空間が歪んで見え、そこだけが異常だとはっきり分かる。
「これがゲート、今からこれに入って魔界に行くわ。覚悟はいい?」
「そんなものとうに出来てるっての」
そう言って俺達はゲートに触れるとその瞬間景色が歪み、視界が真っ暗になって視界が戻るとそこはもうさっきの場所ではなく、紫色の空、妙な生物、空気もマズイ変な場所。おそらくここが魔界なんだろう。
「地上より空気悪いわよね、でも魔界の中でもここはまだマシな方よ。悪いとこなんて呼吸しただけで肺が溶けて機能しなくなる場所なんてあるくらいだもの。それより材料集めを急ぎましょう、まずは――」
「待て、二手に別れよう。その方が早く集まる」
「ダメよ! 私一人でも危ないって言ったでしょ! 貴方一人行っても死にに行くようなものだわ!」
「それならまず一番危険なのはどこだ? そこから行こう、どうせ行くなら後回しにしない方がいい」
「そうね、どうせ行くなら一緒か。一番はやっぱりベヒモスの目玉にヒドラの舌ね、これは討伐しなきゃ手に入らないもの」
「ならまずはヒドラだ」
「了解、じゃあヒドラのいる巣まで瞬間移動するわ」
ヒドラか、ゲームとかだと結構強いイメージだけど本物はどうなんだ? さて御対面と行くか!
「あそこに見えるのがヒドラ、まず真っ向から戦っても勝ち目はないわ。不意打ちででかいダメージを与えてそのままの勢いで――ってちょっ!?」
紫色の鱗に覆われている複数の首を持つ生物、それを見て俺は走り出していた。ジルマの説明は聞いてた、先手で攻撃! 殴るしかない! 大丈夫だ、こいつからは大した覇気を感じない! 勝てる! ドゴッ! と凄い音と共に確かに何かを砕くような感触があった。首一つの骨を砕けた! 上空で俺は一撃目に続き二撃目を打ち込もうとする。
「GYAAAAAA!?」
「ぬおっ!?」
だがヒドラは瞬時に敵である俺を発見、複数の顔がこちらを見たかと思えばその口から紫色の液体が勢いよく吐き出された。それを俺はなんとか身を捻って躱し、地面に着地、しかし奴の頭は一つじゃない。地面に着地した瞬間を狙いまた吐き出してくる、それを何回かジグザグに進むことで躱して体に近づき思いっきり殴る。また砕けた感触、何度も殴ってダメージを与えまくる。その途中で首が一つ噛みつこうとしてきたのか近づいてきたのでターゲットをそちらに変更、殴る、また殴るどんどん殴る。これで奴は首を二本、胴体の大半は機能しなくなった。
しかしまだヒドラの猛攻は止まない。同時に三方向から俺を噛み砕こうと近づく頭、流石にこれはどうにも対処出来ないので足の一本程噛まれる覚悟をしていると、後方から来ていた頭にどこかから火球が当たりのけぞった。その隙に手前の二つの首を拳と蹴りでほぼ同時に砕く。
「ジルマか……助かった!」
「貴方説明くらい最後まで聞いてよね!」
「悪い悪い!」
怯んだ後方の頭も蹴りで砕いて全ての頭を砕いた、その結果ヒドラは絶命したのかグッタリとしていた。見れば近くの紫の液体が吐き出されたところは地面が蒸発したかのようだった、見た目からして思ってたけどやっぱり毒か。
「貴方……滅茶苦茶よ、ほぼ一人でヒドラを倒すことが出来るなんて魔王様くらいしか聞いたことないわ」
「いや最後の火球は助かったし二人で倒したんだろ」
「まあ、いいけどね。それでさっきの提案だけど……」
「二手に別れるってやつか?」
「ええ、貴方は強い。その実力ならベヒモスだって倒せると思う。二手に別れましょう、どうせさっき一人で突っ走ったのも一人で大丈夫だからってアピールのつもりだったんでしょ」
「バレてたか……それでどれを採ってくればいい?」
「竜神の角とベヒモスの目玉をお願い、後は私だけで十分よ」
「了解、じゃあ送ってくれ」
「はいはい」
ふと服を見ると少しかかったのか一部が溶けてなくなり肌が赤くなっていた。普段なら無茶なことはしないけど今回はスピードが大事、無茶でも何でもして速攻集めなきゃいけない。
「ベヒモスは容赦なく倒していいわ、でも竜神とは戦っちゃダメよ? 絶対に敵わないから」
「了解」
「じゃあ、気を付けて」
それから俺はベヒモスを倒して気持ち悪がりながらも目玉を採取。そして竜神の角を採りに行くため教えられた竜神が住むという森に行った。森の深部まで進むと、居た。人間など指一本で軽く潰せそうな大きさ、深紅の鱗、そしてヒドラとは違い知性を宿した目。一目見た時から俺は察してしまった、この生物には勝てないと。
「お主は地上の人間か、一応聞いておくが何用だ」
見透かされている! 確証はないけど嘘は吐けない!
「貴方の角を貰いに来ました、闘争は望みません、あくまで話し合いで」
「嫌だと言ったら?」
「……敵わないと分かっていても戦います」
あまりの威圧感と圧迫感、存在感に言葉も丁寧になる。
「冗談だ、だがそれが本当になるかもしれないので理由を話せ人間。我が角はそうホイホイと上げられるものではない。数十年前にも千年前にも角を上げた男がいた、あの男には正当な理由があった。お主にはどうだ?」
数十年前? たぶん里の村長だろうな、滅多に上げないらしいし元から持ってた村長のことだろう。しかし千年前か、竜ってのはそんなに生きるものなのか。
「どうした、答えよ」
「俺ではなく知り合いの為です。そいつの故郷は今原因不明の病気が流行っていてそれを治すために貴方の角を使って万能薬を作らなければその場所は滅ぶ、そうしないために必要なんです」
「ふむ、虚言ではないようだ」
「分かるんですか?」
「今お主の記憶を読んだ、悪く思うなこれも必要なことだ。だがその記憶から分かったがその知り合いとは一日前に知り合ったばかりではないか、何故ここまでする?」
「……人助けが好きな子がいるんです。見下されても、罵倒されても人を助けるような子が。その影響ですかね」
何言ってんだ俺は。でも意思の強い成瀬に俺も影響を受けたのは本当かも。
「良い」
「え?」
「実に良い、お主のような善の心を持った者とは千年以上会ってない。合格だ、ほれ」
合格、そう言うと自分の角を爪で少し切断した。それが俺の元に落ちてきた。どうやらこれでいいらしいな、もう俺の方のノルマは終わった。急いで戻ろう、里の場所はあらかじめジルマに聞いてある。しかし善の心? 俺はそんな善人なつもりないんだけどな。
「それにしてもあの者は少し千年以上前の奴に似ているな、その心も運命も。過酷なものだ、これからが大変だぞ……」
そんな竜神の呟きは俺には聞こえることなく、急いで魔法使いの里に向かって走って向かった。