6 魔法使いと万能薬1
今日は土曜日だから部活もない、解決部に入ってから忙しかったから家でのんびり過ごすこの時間は正に天国。この時間がもっと長く続けばいいのに、そう思っても当然である。だいたいキャラ濃いんだよあそこに来る連中は、不死者に中二病に山籠もりの武闘家っていい加減にしろって話だろ。もっと普通の生徒はいっぱいいるはずなのに何でそういう奴らは依頼に来ないんだよ。
「はぁ、この時間いいなあぁー」
「もう! そんなダラダラしてていいの? 三時からバイトでしょ?」
「そうだけどいいじゃないかここ最近疲れてるんだから」
「しょうがないなあー、まあお昼出来たから食べようよ」
「そうだな、食べよう」
はあ本当に平和だ。ご飯も美味しいし休日最高! しかしそう思っていると必ず日常というのは崩壊するものである。日常なんて脆いものだから崩れるのも早いのだ。
「確かに美味しいわね、この豆腐の血液煮は!」
「そんな物騒な名前じゃない! 麻婆豆腐だ! 誰だ?」
「……突然現れたけど、食べる?」
「いいのかしら、じゃあ貰うわ!」
謎の黒いローブを身につけた小学生くらいの少女が突然現れ、麻婆豆腐を一緒に食べた。もうどこからツッコんでいいのか分からないな。食べ終わってから少女は立ち上がり、俺に向けて手のひらを差し出してきた。何だ? 握手? だが握手したら払われた、何でだよ。
「おい、何だこの手は? 金でも要求してんのか? むしろお前が払えよ」
「お金? そんなものが欲しいのではないわ、私が欲しいのは不死鳥の羽よ。ここにあることは分かってる、大人しく差し出すなら危害は加えないわ」
「そんな伝説みたいなものあるわけないだろ」
「隠すつもり? そんなことして得なんてないわよ」
「いやホントに知らないから、何だよ不死鳥の羽って中二病か?」
もし中二病なら黒井を紹介しよう、中二病同士仲良くなりそうだ。
「本当に知らない? ならいいわ勝手に探すから」
「ふざけんな、待ておい! ……行っちまいやがった」
「私片付けしてるから追いかけてきたら?」
「そうする」
それにしてもいったい何者だ? 突然現れたのを考えると瞬間移動の異能力者か? 少女の後を追いかけると、もう最近は入っていない倉庫に辿り着いた。この倉庫は両親が使っていたもので使わないものなどを保管していた場所だ、中には世界から集めてきたガラクタなどが多数ある。
「おいガキ! いい加減に人の家を勝手に歩き回るのはやめろ!」
「用が済めば出ていくわ、それより何ここ!? 宝の山よ! ここは宝物庫なの!?」
いえ、ただの古びた倉庫です。
「それだけに残念だ、本来ならここの物全て貰いたいくらいだが私は急いでいる身、目的の物を回収し戻らねば!」
「……随分と真剣だな、ここにあるのなんて何の使い道があるのか分からないガラクタだろ」
「価値が分かってないようね、例えばこれ」
そう差し出してきたものは滑らかな感触のスベスベした赤い円盤。
「これは魔族の力を増大させるディスク! これを使えば下級悪魔だって上級悪魔並みの魔力を手に入れることだって可能なのよ!」
価値は分からなくていいかな、少なくとも今この世界で使える代物じゃないってことは分かった。
「そしてこれは不死鳥の羽! どんな病気も治る万能薬の材料となるの!」
いやこれ黒いぞ!? カラスの羽だろ!? しかもそれじゃんお前が探してた物。
「あとはってあったじゃない! これさえあれば用はないわ、あの豆腐美味しかったわありがとう!」
「消えた?」
超スピードとかじゃない、やはり瞬間移動か。にしても何だったんだ? あれはどう見てもカラスの羽だったけど。まあもう来ることはないだろうしどうでもいいか……さてバイトの時間だ。
バイトも終わりタイムセールでおばさん達と争いを繰り広げて一日を終え、翌日。目が覚めると何故か昨日の少女がいた。
「なんでいんの」
しかしその問いに少女は答えない。俯いて何かを堪えるようだった。
「話……聞こうか?」
その言葉に一回頷いたので俺は一階のリビングに案内をして胡桃と一緒にその少女、ジルマの話を聞いた。
「万能薬が作れなかった?」
「ええ……材料は合ってたと思う。でも出来なかった、私の腕が未熟だったせいで」
「お前は薬剤師見習いか?」
「私は魔法使い」
「魔法使い? つまり異能力者ってことか?」
「全然違うわ、私達魔法使いは詠唱して術式を完成させてから魔法を使う。貴方達ってそういうのないんでしょ」
「でも聞いたことないね、魔法使いなんて」
「当たり前よ。魔界にしかいない私達は地上の人間に知られているわけないもの」
「魔界? まさかそんなものがあるのか? この世界とは違う異世界的なやつが」
説明を聞いて絶句した。この世界、ジルマが言うには地上、そして別世界として魔界があるらしい。その魔界という場所は本来地上とは繋がっていない、だがゲートを作り上げることで行き来が可能になるらしい。ゲートを作るためには大量の魔力が必要であり、容易ではないらしい。
「そもそも何でジルマはそのお薬を作ろうとしてるの?」
「病気よ、魔法使いの里のほとんどがその患者。今里を救えるのは私だけなの」
その里では数か月前から病が流行り、免疫力が低い子供や老人は死の淵にいるらしい。材料は地上にしかないものもある。それで里の人間で病気にかかっていても動ける大人が力を合わせてゲートを作り、それを通りここに来たらしい。そして材料を見つけ、調合したところ失敗。材料がもうなくなってしまったようだ。
「待てよ、そもそも何で俺の元に来たんだ? 何故わざわざ話した」
「頼れる人がいない、でももう自分じゃどうにも出来ない! だから助けを求めた、でも求められるのが貴方しかいなかった!」
「分かったもういい、泣くな」
俺はジルマの話、ファンタジーみたいな話は今も信じられない。でもこの子は真剣だ、助けを求めて俺のところにきた。こんなに困っている子供を放っておくなんて流石に出来ない、助けよう。そう心に決めた。
俺はジルマの頭にポンッと手を置き自分に言い聞かせるように宣言した。
「絶対助けてやる、解決部出張サービスだ! だから詳しく話せ、俺は何をすればいいのか」
「……ありがとう」
魔界とか魔法とかはどうでもいい、今はこの子を、この子の故郷を救うことを考えよう。