66 大会と藤林5
未来の鞭のようにしなる腕、その持っている木刀が全ての突きをいなし、弾いた。
その光景に森川は目を見開き愕然とし、同時に観客などその場にいる全ての人間が驚愕する。
『し、信じられません! 今藤林未来選手が使用したのは村田選手の鞭閃流! 有利に立っていた森川選手も愕然としている様子です!』
「当然や……前代未聞やぞ、人の剣術真似るなんてな」
「すごいすごい! 未来ちゃんすごいよ!」
「そうね! やっぱりすごいわ!」
喜んでいる胡桃と成瀬だが、進藤を含めた戦闘に今まで関わって来た者は驚きはしているものの険しい表情のままだった。それは村田も例外ではない、いやこの場の誰よりも真剣な表情をしている。
「確かに驚いたわ、でもそれだけや。数回見ただけで真似られる程簡単な剣術なわけないやろうが」
「え? でも未来ちゃんは」
「確かに形だけはかなりの完成度や、でもな……使う本人であるワイから言わせてもらえばまだまだ練度が足りん。あれじゃ強い突きなんかの一撃が来れば破られてまう!」
「そう、それにそんなに練度が低い剣術を使っても戦局は変わらない。いや、狙いはまさか……」
己の技が弾かれたことではない、森川は未来が藤林一刀流ではない流派の技を使ったのに一番驚いていた。
「バカな……どういうことです? 捨てたのですか!? 藤林一刀流を!?」
「捨ててないわよ、ただ加えたの。一つの流派を極めるのはいいかもしれない、でもそんな相手に同じ流派で勝負したって勝てないのは分かってる。だから別の流派を混ぜて私なりに戦う! それにアンタが私の出す技を当てれていたのは知り尽くしている流派だからよ、だからもう読めないわ。この試合で私が使うのは藤林一刀流であってそうではないから」
「随分と安く安く見られたものです、少し流派をアレンジしたからと倒せると思わないでください! 藤林一刀流、啄木鳥!」
森川の高速の突きが未来に迫る、その突きを未来は体を捻ることで躱し、更にステップを踏む。その足取りは軽やかでまるで踊っているようだった。
「あれは! 私の舞踏剣術!?」
「模倣してるんだ、実際に戦った相手だからこそ出来る、体感したから分かるんだ。ちょっとした剣術のコツってやつが!」
『おっと次は御伽選手の舞踏剣術かあ!? 最早何をするのか予測不可能です!』
「ぐっ!? チョロチョロと目障りですよ! 貝独楽!」
森川の周囲を軽快なステップを踏みつつ攻撃を繰り出してゆく未来に苛ついたのか、周囲ごと薙ぎ払う貝独楽を繰り出してその場で回転するが未来はそこにはいなかった。
「どこにっ!?」
「藤林一刀流、滝壺……!」
未来は回転をかけてジャンプするとそのままの勢いで滝壺を繰り出す。それは回転の勢いにより本来の威力より数段上の威力に跳ねあがっていた。木刀は森川の頭に直撃し地面に叩きつける。
「がっはっ!?」
『森川選手ダウン! カウントを取ります! 一! 二!』
カウントが始まるが森川はすぐに立ち上がる、しかし足は少し震えておりダメージが大きいことが見てとれる。
「ま、だ、まだです、よ」
「まだ、やるのね?」
「当たり前でしょう……僕は負けない、道場で学んだこの流派、貴女が独学で得た今の実力! 比べずとも僕の方が強くなければならない! そうでなければ今までの時間は何だったんだ!」
森川は悔しかった、まだ負けていないのに悔しさでいっぱいだった。わざわざ道場で学び稽古をした、その実力は跳ね上がったが未来は違う。道場を破門されて一人で修行してきた未来に負ければ森川の自信は崩れてしまう、それだけはどうしても許容できなかった。
そんな思いが伝わったのか、または伝わらなかったのか。未来が構えたのは紛れもなく藤林一刀流、啄木鳥の構え。
(啄木鳥だ! 今の状態で放っても互角かそれ以下の威力しか出ないだろう……それでも打ち破ってみせる!)
『状況は一変し静かな睨み合いに、恐らく次の一撃で全てが決まるでしょう! 場の緊張が高まっています――今踏み出したあ!』
「「藤林一刀流、啄木鳥」」
技の出も速度も全く同じだった。両者の間に空いていた距離はみるみると縮まっていき――まさに衝突するその瞬間それは起こった。
未来は突然、突き同士がぶつかる寸前で体を捻り回転し始める。
「なっ!?」
「藤林一刀流、貝独楽!」
急な技の変更に森川が予測できた筈もなく、突きを放ち隙だらけになった瞬間に木刀が首元に叩きつけられる。
森川は地を転がって数メートル吹き飛ばされ今度こそ気絶してしまった。
そしてダウンしたことによりカウントが開始され、十秒経った。
『十、決着! 今Aブロック三回戦第一試合決着しました! 勝ち上がったのは藤林未来選手だあ! しかし私はもう何年もこの仕事をやっていますが、今まで見てきた試合と比べても上位の方に入る試合内容でした! 同じ流派同士の激突、工夫、模倣、もう私は感動です!』
会場内は大歓声に包まれる、進藤達の声もその音に紛れていた。未来はそんな称賛の声を背に受けながら森川に歩いて近づく。
森川もその歓声で目を覚ましたようだ。
「目が覚めたの?」
「クク、負けたんですね僕は……」
「どう? 宣言通り勝ったのは私よ。後、別に道場で学んだとか独学だとか私はどうでもいいと思う。アンタ自身の強さは正直私を超えてたしね」
未来はそう言い残すと登場口から出ていき姿を消す。その後ろ姿を見て森川は思う。
(全く全く完敗ですね……最後の一撃、あれは紛れもなく藤林一刀流でした。極めたなどと言っていたことが今更ながら恥ずかしい、技を習得して終わりではない。その先に工夫をすることで完成、いや始めから極めるだとか完成なんていうのも存在しないのかもしれないですね)
未来に与えられた休憩時間は第二試合が行われる時間と本来の休憩時間の十五分。第二試合に関しては時間はかからないだろう。未来は進藤達と他愛ない話をして過ごし、残り五分になったら控室で瞑想することにした。そして控室に入り精神を研ぎ澄ます。
控室にはもう一人の男がいた。剣神とまで恐れられ、腰まである長髪を一つに束ねた男。その目は閉じられており未来と同じ瞑想中だと分かる。
控室に音はない。二人の人間がいる筈なのに静かな空間だった。
『試合開始一分前です、選手の方はご入場をお願い致します』
そのアナウンスを聞いた瞬間、二人の眼は同時に開かれて歩き出す。
今、未来の力の限りをぶつける試合が始まろうとしていた。




