62 大会と藤林1
コロシアム内にアナウンスの声が響き渡る。
『決着! ダウンした坂本選手! それにより第一試合を制したのは御伽選手!』
剣術世界大会日本予選、そのルールは三つ。
一。木刀で戦うこと、自身の刀を所持してはならない。何故なら刀の性能が平等でなければ実力が推し量れないからである。刀は受付で預け、木刀が支給される。その頑丈さは硬化の異能を使っているのでそこらの鉄よりも硬い。
二。十秒倒れていれば負け。剣道では相手に攻撃を加えて勝利になるがこの大会では、十秒以上倒れているか降参以外に負ける条件はない。しかし明らかに過剰な攻撃やダウンしている相手への攻撃は失格となる。
三。殺害は失格となる。当たり前だが相手を殺せば失格、その日の試合が終わり次第警察に連行される。
『はいそれでは次の試合の選手も準備完了ですので、第二試合に移りたいと思います! おっとまず入場してきたのは鞭閃流、村田公介選手! 三年前から大会に出場し続けるも、全て一回戦で敗退してしまっています。今年はリベンジなるか!?』
進藤は未来の対戦相手である村田という男をジッと見る。
(やっぱり見ただけじゃ実力は分からないか)
強さは見ても分からない。そのことを進藤は今までのことで多少は分かっていた。様々な道具を使って戦力を増強した学、異能の力で進藤を追い詰めた仙人などと戦ったからである。
(油断だけはするなよ――って言ってもそこまでバカじゃないか)
「おっしゃ! 今年こそリベンジや! ワイの鞭閃流は無敵やからな!」
(無敵なら負けてないだろ……)
登場ゲート前、未来は静かに瞑想していた。目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませて緊張を抑える。
(緊張はある、でもそれで実力を発揮できないなら最悪。観客や他の剣士達に見られているというのは考えないようにしよう)
『少し遅れて出てきたのは藤林未来選手! 今回が初出場でありますがなんとあの藤林一刀流の藤林一刀斎の孫だという彼女! 無能力者ということは分かっていますが果たしてどんな戦いを見せてくれるのかあ!?』
未来が出てきた瞬間、会場内のあちこちから不安そうな声、見下す声が上がっていた。
「あれテレビで言ってた無能力者だろ? 戦えるのかよ」
「無能が出るとか身の程分かってるのか?」
「村田! サクッと終わらせろよおお!」
「良かったな! これで先へ進めるぞ!」
その上がった声に進藤達は文句を言いつつもこれが現状の評価だということを受け入れる。
「未来ちゃん! 頑張ってね!」
「ファイトよ!」
「頑張れよ!」
「目にもの見せてやれ! いつも通りに動け!」
応援を始める進藤達だが、その中でもやはり解決部の仲間は特に声を上げて応援していた。そしてその声援は未来にも届く。
「皆……」
「なんやええやつらやんけ、ワレのダチか?」
「ええ……大事な、友達です」
「そうか、まあだからといって手加減はせえへんけどな?」
「望むところです!」
未来と村田はお互い開始位置に立つ。開始位置は中心から五メートル離れた場所、つまり二人は十メートル離れていることになる。準備が出来たと審判が判断しアナウンスが試合開始を告げる。
『それでは第二試合、始め!』
開始の合図と共に二人は木刀を構えながら走り出し中心で振り下ろす。二本の木刀が交差して力で押し切ろうとする。
「藤林一刀流、灯篭流し」
「ぬわっ!? 急に力をっ!」
灯篭流し。相手の攻撃を受けつつ刀で軌道を変える受け流しの技。木刀を傾けることで相手からかかる力を受け流した未来は、すかさず村田のがら空きの胴に木刀を叩き込む。
「うぐっ!? なんややるやんけ……少し舐めてたかもな」
『おっと開始数秒で村田選手がダメージを受けました! これは意外な展開です!』
村田はすぐに未来から離れて評価する。それを見て観客も驚きを見せた。
「おい、意外とやるなあいつ」
「そうだな、技量は結構あるんじゃないか?」
「これはひょっとしたら、村田が負ける可能性もあるのか?」
「あらら、一気に観客を味方につけたな」
「油断かしら!?」
未来はすかさず村田に近づき木刀を振り下ろすが、それは弾かれる。
「なっ、何それ?」
『出たあ! 村田選手の鞭閃流!』
「これが鞭閃流の極意や、自分の関節を極限まで柔らかくして鞭のような攻撃を可能とする!」
まるで鞭のように腕を振るうことで未来の攻撃を弾いた村田は自信満々に言い放った。
「これは攻防一体の究極技や、これを出したからにはもうワレに勝ち目はないで」
「でもアンタ負けてるじゃない!」
「やかましいわっ!」
未来は弾かれるも攻撃の手を休めないが、村田のまるで鞭のような軌道を描く木刀に全て弾かれてしまう。そして弾いた直後にはすぐに未来の体に上下左右からの攻撃が襲いダメージを受ける。
「藤林一刀流、啄木鳥!」
「無駄や無駄無駄あ!」
村田の周りを全力で走り回り、死角から突きを放つがそれも弾かれてしまう。
「藤林一刀流、貝独楽!」
「無駄あ! ありゃっ!?」
未来の回転を利用した強烈な一撃を弾こうとするが、力で押し返すことが出来ず一旦腕の動きが止まる。しかし後ろに下がりまたすぐに鞭閃流の動きをし始める。
『おっとこれは藤林未来選手為すすべないか!?』
その光景を見て観客席にいる進藤達はその技術に少しだけ感心していた。
「あの動き……攻防一体だというだけあるな」
「ああ、そして不規則な動きで攻撃の方向が読めない。少し苦戦するのも分かる」
進藤と竜牙の冷静な分析に雷牙はどうすればいいのかと問いかける。
「そうだな、俺ならば強引に力で破ることも可能だろう。無論それは俺だからであって藤林さんに出来るわけではない、つまりあれを破るには技術方面か弱点を突くしかない」
「弱点?」
「何だ会長も気付いてたのか、まあ藤林も気付いたみたいだけどな」
突然、未来は距離を取り自分から攻め込むことを止めた。
『おっとどうしたことでしょうか!? 藤林未来選手攻撃の手を止めました!』
「な、何で攻め込まん? 諦めたんか!?」
未来は何も答えずに攻撃が届かない二メートル程離れた位置をただ黙って維持し続ける。
「だが鞭閃流の凄い所は攻撃にも使えるということ! このままいっても事態は停滞するだけや!」
ただ避けている。その未来の眼は死んでおらず何かを待っているかのようだった。
「はあっ、くそっ、何で攻撃してこん!?」
十分以上経った頃、ずっと腕を振り回し続けていた村田は息切れを起こしていた。それを見て未来は木刀を構えだす。
『おっとようやく構えた藤林未来選手、何かを待っていたんでしょうか!?』
「はあっ、はあっ、やっと、やる気になったん、か」
「次の一撃で勝たせてもらうわ」
「な、なんやと!?」
息を切らしながらも村田は腕を振り続ける。その動きは最初よりも速い、人間疲れている時は余分な力を使いたがらない、だからこそ速度は上がっていた。
しかし明らかにキレがない。
「藤林一刀流、啄木鳥」
『あー! ついに藤林未来選手の攻撃がクリーンヒット! 村田選手が転がっていく!』
対して未来は避けている間は精神を集中し続けていたようで技のキレは上がっている。その突きは鞭の動きをする木刀の防御を打ち破り村田の左肩に直撃し、その衝撃で地を転がりうつ伏せになる。
「がっはあっ! ぐっ、まだ、はあっ、まだ」
地面に倒れたので審判のカウントが始まる。
村田は立とうと右手を動かして上半身を起こそうとするが、その右手には力が入らないせいで何も出来なかった。左腕を動かそうとしても未来の突きを喰らって痛みで動かない。
(まさか疲労で右が役に立たないのを見通して左に突きを!?)
『五! 六! 七!』
それから村田は何とか足だけで立とうと足掻くがついにカウントが十に達してしまった。
『九! 十! Aブロック一回戦第二試合村田選手対藤林未来選手! 勝者は藤林未来選手だあ! これは予想外、いえある意味意外でもないんですがこれで村田選手は今年も一回戦で敗退だあ!』
「ぐっ、やかましいわ!」
「大丈夫ですか?」
未来は倒れたままの村田に心配そうに手を差し伸べる、その手を村田は取ってなんとか立つ。
「はあぁぁ……結局今年も敗退か」
「そ、その……来年も頑張って、ね?」
「やかましいわ! 来年より今年や、絶対こっから先負けるんやないで」
「……ええ!」
藤林未来。日本予選Aブロック一回戦第二試合勝利により二回戦に駒を進めた。




