59 並行世界と一日旅行
現在、学は進藤を呼びつけて目の前にある玄関を占拠している機械を見せていた。
「これは?」
「あはは、ついに地盤が出来たんだよ……世界移動のね」
「何!? お前確かここだと五十年くらいかかるって言ってなかったっけ?」
「それはあくまで最大でってことでね、長村さんに聞いて必要な材料もどこにあるか楽に分かったから作業がスムーズに進んでいってね。もっともまだ初歩の初歩ってところだけどね」
学の説明を聞いて進藤は顎に手を当てて何かを考える。
「それはすごい……でもな。この機械のせいで玄関通れないんだけどどうしてる?」
「あはは、それはしょうがないから窓から――」
「頭いいけどバカだよなお前」
機械は完全に玄関を封鎖しており現在進藤達は玄関より奥には進めないし、奥がどうなっているのかも分からない。
「あはは、それで今日は試運転をしたいと思ってるんだよ。進藤、君も加えてね」
「……危険は?」
「あはは、もしかしたら時空の狭間に取り残されて即死亡するかもしれない」
「ジョークだよな?」
「いや、一割くらいでそうなる。何せまだ未完成だからね」
それなのに試運転するのか、と進藤は心の中でツッコむが学はせっせと起動の準備をしている。機械についている紐を腕に巻き付けていく。
どうやらこの機械は機械の一部である紐を巻いた生物だけを送れるようだ。
「おいバカやめろ、起動ボタンを押すなおい待て本当にお前バカやめ――」
「あはは、しゅっぱーつ」
起動を押した瞬間、進藤達はこの世界から消えた。
進藤達は気が付くと先程とは違う場所にいた。
「こ、ここは?」
「あはは、どうやら成功したようだよ。ここが並行世界の伊能町だ」
「マジかよ……」
進藤は周りの景色を見渡すと町はいつも見る景色と変わりなかった。
「今いる場所はあの転移した自宅からそう離れていない、そう設定したからね。あ、ほら進藤という表札がある」
「本当だ、あそこに並行世界の俺が住んでいるのか」
実際に転移してみると進藤は違和感を覚えていた。
(町の雰囲気がいつもと違う)
どことは明確には言葉に出来ないが何かが違う、そんな確信が進藤にはあった。
「ちなみにここに居られる時間は夜の十二時までだ。まだ試作段階だからね、それ以上いるとこの世界に異分子として強制的に戻される」
「へぇ、とりあえず町を見てみるか」
進藤達は町を散策してみることにした、しかし町の景色自体はいつものものと変わらず退屈だと感じ始める。
「お、宝天高校か。でもまあ変わってない……はずなんだけどなあ」
「見事に荒れ果ててるな」
そこだけが異常だった。自身も通っているからこそその異常は目立つ。校舎はボロボロ、まるで不良高校のように窓ガラスも割れていた。
「なんでここだけこんなになってるんだ?」
「生徒の問題だろう? まあ確かに気になる変化ではあるけど」
そうして歩き回るうちに進藤達は最初の場所、つまりこの世界の進藤家の近くに戻ってきていた。
あの学校以外は目立った変化はなく、面白いことなど何もなかった。しかし進藤は戻って来た時思いついたことがあった。
「俺の家……入ってみるか」
「あはは、この世界の君がいたとしても事情を呑み込んでくれるかは分からないよ?」
「いや、俺には変わりないなら大丈夫だ」
「どんな理屈だい……」
家に鍵は掛かっていなかったこともありすんなり入れてしまった。インターホンを鳴らしたが何の反応もなかったので扉を開けてみたのだ。中は埃も多少あるがまだ生活できるレベルの汚さだった。
「こっちの俺は掃除をせんのか」
「まああくまで君であって君じゃないからね、違いもあるだろう」
そして誰もいない家を探索すると進藤達はおかしなことに気付く。
「俺の部屋がない。あるにはあるんだけど何も家具がなかった」
「リビングと寝室以外には何一つなかったね、いや家具どころか服も見当たらない。これはもしや……」
「誰?」
「お前は……」
リビングで立ち尽くしている進藤達に声を掛けた少女がいた。その姿は進藤達には見覚えがありすぎる少女だった。
「胡桃?」
「っ!? どうして私の名前を知っているの?」
「進藤、ここは並行世界だ。君と彼女が知り合いだという保証はない、少なくとも今の言葉で知り合いですらないことは分かった」
「あっ……そういやそうだったな」
「何をヒソヒソと、この家には盗めるものなんてないわよ」
小声で進藤に注意して会話する学、そんな二人を見て胡桃は泥棒だと判断した。しかしすぐに否定の言葉を入れる。
「いや違う! 俺達は決して怪しい者じゃない! ただこの家を調べていただけだ!」
「それ思いっきり怪しいんだけど……」
「あはは、僕達はホームレスでね。この家誰も住んでいなさそうだったからちょっと調べていただけだよ」
「ふーん、それにしては身なりは綺麗だしゴミ一つ付いてないけど」
「あはは、そりゃホームレスだって衛生には気を付けるさ」
かなり苦し紛れの言い訳だったが胡桃は納得の様子を見せた。
「泊まる場所を探してたってことね、まあ悪そうには見えないし一日だけなら泊まっていいわよ? 私の家じゃないけどね」
「本当かい? じゃあありがたく」
「それならこの家の主に挨拶くらいしないとな」
進藤はこの世界の胡桃と進藤が知り合いではないことを考え、誰が住んでいるのかを知るために家の主に挨拶をしたいと言い出した。
「いないわよ」
「何?」
「だからいないって……ここに住んでた進藤夫妻は事故で死んじゃったの。でも私は進藤さん達に恩があったからここにたまに来て掃除してるわけ」
(この世界でも父さんと母さんは生きてないのか……ちょっと期待したんだけどな)
進藤が並行世界に無理矢理連れてこられたにも関わらず、それほど怒ってないのはもしかすれば生きている両親に会えるかもと思っていたからだった。死んだと聞かされた進藤のテンションは明らかに下がっていた。
「その夫妻に子供はいないのかな?」
「いなかったわよ、子供が出来ない体質だったらしいから」
(え……子供が出来ない? じゃあ俺は……?)
胡桃は寝室に布団を出しに行きリビングには進藤と学だけが残された。
「あはは、並行世界だからね。こういうこともあるさ、どうやら君はこの世界には存在していないらしい」
「ショックだ、色々」
それから布団を敷き終わった胡桃が戻ってきて作った料理を食べて腹ごしらえをしていた。時刻は夕方でありもういい時間だったのもあり、二人の腹は悲鳴を上げていた。
「やっぱり胡桃の料理は美味いな」
「やっぱり?」
「あ! いやすまん、予想通りって意味な」
ちょっとしたことでボロを出してしまう進藤に学は少し呆れた視線を向けている。
「進藤……はあ、そういえば君は宝天高校の生徒だろう? あの学校はどうしてあんなにボロボロなんだい?」
「……話せば長くなりますけど。ここらの不良が破壊して行くんです、彼らの天敵がいなくなったからだと思われます」
「その天敵とは?」
「生徒会長です」
いなくなった。そう言った胡桃の顔は暗かった、進藤達は何も聞かずに死んだと断定する。
「殺されたんです、闇の使者である黒井に」
「はい?」
「私と友人はその黒井を倒す為に共闘し、ついに――」
それから胡桃の話は永遠に続き時刻は夜十二時に近づいていた。
「なあ胡桃、もう寝ないか?」
「あはは、そうだぞ。夜更かしは女の敵だと言うだろう?」
「それもそうね、続きはまた明日にでも話すわ」
話の中分かったことと言えば、とりあえず黒井はここでは最悪の敵だということだけだった。
朝になり、目が覚めた胡桃は周りを見渡す。
「あれ? あの二人がいない?」
その寝室にはもう進藤達はいなかった。元の世界に帰ったのである。
「なんだ、あともう少し話そうと思っていたのに……なんだか一緒にいると安心する人だったな」
* * * * * * * * *
進藤達は元の世界に帰ってきていた。時刻は夜十二時丁度。
「何だか疲れたな、随分と俺の周りは変わっててビックリしたよ」
「あはは、あくまで並行世界。可能性の一つでしかない」
「そう言えば……あっちの胡桃の話、俺は生まれてないらしいから当然として紫藤も出てこなかったな。藤林や成瀬、雷牙だって根野だっていたくらいなのに」
「あはは、可能性の一つとしてその紫藤って人はあの胡桃と関わっていないんだろう」
進藤は残念だったこともあったが楽しかったと告げ、家に帰っていく。
生まれないという可能性の一つと学は言ったが、進藤はこの世界以外で生まれることはない。進藤は■■と繋がったこの世界だからこそ今生きているのだから。




