56 守護者と脅威4
少し短めです。
真稀は分からなかった。自分は何のためにここにいるのか、今はどういう状況なのか、目の前の男は誰なのか、分からないから聞いてみたのだ。目の前に呆然と突っ立っている進藤に。
言語機能などは覚えていたようで知識はあるようだ。
「貴方は誰ですか?」
「え? し、進藤歩だけど」
「では貴方が私のマスターですか?」
「えっと――」
「貴方をとりあえずマスターとして仮登録します」
「そんなあっさり!?」
(これは失敗だ、いや最悪の状況じゃないし最低条件としての使命の忘却はクリアだ。でもこいつの心は取り戻せてない)
「し、進藤君……」
進藤に向かって死にかけている状態の竜牙が声を発した。
「会長」
「敵ですか?」
「違う」
「そうですか」
「心は取り戻せなかったか」
「すいません、でも使命の忘却には成功したみたいです。一応事件はこれで解決したってことになりますね」
「そうだな……一度戻ろう」
進藤は竜牙を背負い、後ろに真稀を連れて最奥の部屋を出た。それから藤林達と合流して病院に竜牙を送り届けた後、一旦解散し、進藤家にて説明会が行われていた。
「えっと……どゆこと?」
「だから、事件は無事解決。襲われた人の異能は戻らないけどもう襲撃されることはなくなった」
「うんそれで?」
「後ろのコイツは俺の事をマスターとして登録してるらしくてずっと俺に着いてきてる」
真稀は軽く頭を下げる。それを見た成瀬と胡桃は頭の中で整理するが理解が及ばない。
(え? 事件を解決したのは凄い。でも何で犯人の親玉の女を従えて戻ってきてるの!? マスターって何!?)
「どうゆうこと?」
「マスター、この個体は知能に欠陥があるようです。破壊しますか?」
「するなするな! 物騒すぎるぞお前!」
「どうゆうこと?」
それから一時間後、ようやく落ち着いたので事情をようやく呑み込むことが出来た成瀬は真稀に向かって問いかけた。
「奪った異能はもう本人には戻せないんだよね」
「はい。そもそも異能を使うために必要な粒子が体にもう存在しないので――」
「難しい話はいいよ、そっか……やっぱりダメなんだ」
成瀬は雷牙のことを気にかけていたのだ、もしかしたらとも思っていたが世の中がそう上手くいかないということは分かっていた。
「雷牙のことは残念だ、でも本人は大丈夫だって言ってたじゃないか。未練なんてないって。なあ、異能ってのはなければダメなのか? こんなことはお前が一番分かってるだろ」
「……そうだね、無能力者であることを気にしてないと思ってたけど、ある意味異能に固執してたのかな」
「お前は自分が辛かったから気にかけてるんだ、その考えは間違っちゃいない。でも雷牙にも、もちろん成瀬、お前にも友達がいる。もう一人じゃない、周りに助けてくれる人がいる」
「……ありがとう。進藤君はやっぱり凄いな、私助けられてばっかりだ。いつか……困った時は頼ってね、私が、解決部が力になるから」
「今でも十分頼りにしてるよ、また夏休み明けに会おうぜ」
「うん、またね」
成瀬が出て行った部屋の中には椅子に座った胡桃と進藤、その後ろで突っ立っている真稀がいた。
「それで歩、もしかしてその人ここに住むの」
「……そうなるのか」
「当然です、マスターの傍を離れるわけにはいきませんので」
「お前仮のマスターって言ってたのに」
「仮でもマスターはマスターです、私のマスターですマスターとしての自覚を持ってくださいマスター」
「うるせえ! ゲシュタルト崩壊するわ!」
胡桃はその会話を聞いて少し不機嫌そうに頬を膨らまして一言呟いた。
「……この女たらしめ」
「ん? 何か言ったか?」
「べっつにいぃ?」
「感じ悪くね?」
「べっつにいぃ?」
「感じ悪いな!」
* * * * * * * * *
とある病室で、雷牙と竜牙はベッドに腰をかけながら話していた。
「兄貴、大丈夫なのか? もう動いて」
「安心しろ、ちょっと全身火傷と体中に掠り傷を負ってしまっただけだからな」
ちょっとというには包帯が全身に巻かれているので全然安心出来ない。
「そんなにヤバかったんだな今回の敵」
「ああ、今頃は進藤に着いて行ってるだろう」
「そうなのか」
「ところで……異能が使えなくなったようだが本当に大丈夫なのか」
「本当のところを言えば辛い、当たり前に使ってた物が使えないってこういう感じなんだなって」
それを聞いて竜牙は真稀に対して殺意を持ち、どうやっても雷牙に異能を返してもらおうと思ったが雷牙が――でも、と言葉を続けたので聞いておく。
「部長さん達に言ったのは本心だった。俺は異能に未練なんてない、まだ慣れてないだけだ。俺はずっと兄貴に勝ちたかったんだ、でもこう言ってくれた人がいた。力で勝てなくても俺は友達の数で勝ってるってさ」
「フッ、随分と素敵な友のようだな」
「それはもちろん、胸を張って言えるよ。解決部は最高の友達だって」
雷牙は窓の外を見て爽やかにそう言った。
* * * * * * * * *
藤林は自分の家に帰っていた。
「ただいま」
家の中から返答はない、藤林は一人暮らしだからだ。
「あと一か月くらいか」
部屋の中は殺風景だった。その中にあるカレンダーを見てそう呟いた。
そのカレンダーには赤丸が一か所ついていた。その日に何が行われるかと言えば――剣術世界大会である。正確にはその予選、日本中から腕に自信がある剣士が集まってくる日本予選だ。
「待ってなさい……クソジジイ……!」
「私が勝つ、一人で頑張って来たこの力で」
次回で三章終了です。




