53 守護者と脅威1
進藤と竜牙は通路を、道中現れる白衣の少女達を倒しながら進んでいく。
「あの部屋に来たのが全員じゃなかったみたいだな……」
「そのようだが体力の消費は抑えられる、問題はあの二人が耐えられるかどうかだが」
「心配はするけど信頼はしてます」
(そういえばあの藤林という女生徒、以前刀一本で俺と戦った記憶があるな……あの勇気は強みになるが諸刃の剣だ、やはり一刻も早く戻らなければ!)
そうして進んでいく内に最奥に辿り着いた二人はその光景を見て驚きの表情を浮かべる。
「これは……」
辺り一面にパソコンのような機械があり、一番奥には透明なカプセルのようなものに入っている何十本ものコードが繋がっている白衣を着た女の姿があった。その女はまるで道中倒してきた白衣の少女をそのまま成長させたかのような姿だった。
部屋は酷く荒らされていた、何かの作業をしていたと見られる机は倒れ書類が散乱している。
「ここは以前特殊な兵器を作り出して潰された工場だったはず、それなら設備は揃っている……誰かがここを拠点に実験をしていたということか?」
「あ、会長見てくれ! 机の近くに日記がある」
「何?」
進藤は倒れた机の近くに『にっき』と平仮名で書かれた冊子を発見する。
「……日記くらい漢字で書けよ」
「問題はそこではないだろう、それから犯人の目的が分かるかもしれん」
「まあとりあえず読んでみますかね」
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『にっき』
1985年7月30日。私は今日からにっきを付けることにした。小学校の宿題で面倒だ。
1985年7月31日。今日やったことは異能がなぜ人間に宿ったかを考察してみた、考えた結果三通りの説を出せた。
まず一つ目。異能は神様が与えてくれた人間への褒美という考え方。物語の中には神から何かを贈るというものもあり信憑性は少しはある。しかし自分で書くのもなんだけどバカバカしい。
二つ目。空気中に散らばった粒子の影響。これに関しては現在確かめることは不可能、しかしこれには疑問が残る。粒子が原因だというならば何故突然異能が使えるようになったのかが分からない。
三つ目。脳にはまだ謎が多い、つまり急激に発達したどこかに異能を使えるようにする何かがあったのではないだろうか?
結論。やっぱり分からない。
1985年8月1日。黒い穴を見つけた、蟻の巣ではない。空中に浮かんでいる黑い穴だった。
1985年9月2日。あれからにっきを付けていなくて怒られた。いやでもしょうがないじゃないか、もっと興味があるものがあったんだから。
1986年2月3日。随分時間が空いてしまったが色々分かってきたのでまとめようと思う。
夏休みに偶然見つけた黒い穴。あれはどうやら別の場所へと繋がっていたようだ、中に入ってみれば空気が悪くまるでゴミ処理場みたいな臭いもしていたがそれだけではなく、空が青ではなく紫。もうこれだけで地球ではないと断言できる。
ここで分かったのは全く分からないということだった。未知の生命体も発見し、まるでゲームの世界のようだった。この場所に名前を付けるとしたら魔界というのがピッタリだと感じた。
* * * * * * * * *
まだ読み終わっていないが進藤は一旦読むのを止めた。
(どういうことだ……こいつ)
「進藤君?」
「会長、こいつ――」
「何で日記は書けなくてもっと難しい漢字が書けるんだ?」
「いやそこじゃないだろう……まさか魔界という単語が出て来るとはな、どうやら俺達は魔界というものに縁があるらしい」
多少のボケをはさんで進藤達はまた読むのを再開した。
* * * * * * * * *
2016年10月10日。久しぶりに日記を開いたので今までを書き記しておく。
異能に関する研究者になりあの黒い穴のことを発表した、しかし誰も取り合ってくれなかった。研究成果は妄想と切り捨てられて打ちのめされた。あれは異能を追求する中で絶対に必要な何かのはずなのにだ。
仲間にも恵まれなかったので一人でそれからも研究を重ねた。酸素ボンベにガスマスクという装備で魔界を探索、そして分かったのは魔界というところは本当のファンタジー世界のようなもので文明が低かった、その代わり魔法や秘術と呼ばれるものがあったり違った進化をした世界だった。
そして最も良い収穫が死にかけていたが悪魔と呼ばれる種族の確保である。どうやら日本に来ていたらしく、まだ幼い少年がいる家族を皆殺しにしようとしたら少年の異能が暴走して返り討ちにあったらしい、なんとも間抜けな奴だ。
悪魔から話を聞き出そうとするも失敗、なので拷問をして無理矢理吐かせた。するとなんてことだ……魔界には英雄達が封印したとされている魔神というとんでもない化け物が存在し全ての種族の支配を目論んでいるらしい。
封印があるから大丈夫などとは言えない。何事も備えがあればいいのだ、だから一人でも準備を進めた。研究者共は使えない、奴等は頭が固く信じないからだ。
2018年12月1日。やっと準備が完了した、いや準備といっても下ごしらえだけなのだが。
まず丁寧なお話により説得した素体の十代後半の女、白井真稀を改造。人造人間と書けば馴染みが深くなるものもいるだろう。それからその素体を元とした量産型の少女を作り出した。
決してロリコンというわけではない。断じて違う。とりあえず大量にあった白衣を着せてみた。
後は起動ボタンを押せば完了だ、これが人類の切り札となることを願う。
2018年12月5日。ダメだ、失敗した。この少女達には感情がない。真稀の方は知らないがどうやら完全に機械である少女達にはそんなものはなかったらしい。
本来ならば起動した後、任意で受けてくれる人を探して、注射でも何でもして体の中にある異能粒子(仮)を吸い取りその者から異能を奪い取る。そしてその異能粒子(仮)のデータを自動で真稀の体にインストールして人類の異能を集めた最強の守護者を作り出せる計画だったはず。
そう、異能を使うのに必要だったのは空気中ではなく体内にある粒子だったのだ。原因までは分からないがその粒子こそ異能の元となっている物。頭が固い研究者共はこんなことにすら気付けなかったらしい。
そして最強の異能力者を作り出し魔神に対抗するつもりだったのだが、あの少女達は人間を襲ったのだ。任意じゃなくて強制で異能粒子(仮)を吸収しだした。
守るために犠牲を出してしまうなんて予想外だった。誰か――彼女達を止めてくれ、彼女が目覚めてもし感情が消えていたら思い出させてあげてほしい。
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進藤達は最後まで日記を読み切り、床に戻した。日記の最後は文字が血で書かれたようで赤黒かった。
「……色々驚いたけどまずはあの機械共を止めなきゃいけないか」
「そうだな、だがどうすれば……どこかに停止ボタンでもあるのか?」
二人は部屋の中を探索しつつ停止ボタンを探しているとそれらしき赤いボタンがあり、平仮名で『ていし』と書かれていた。
「こいつのセンスどうにかできなかったのか」
「細かいことは良いだろう、とりあえず押してみるか」
ポチッという気の抜けるような音が静かだった部屋に反響する。
「特に変わった様子はないけど……一応藤林達のところに戻って――どうかしました?」
「進藤君、どうやらこのボタンを押したのは失敗かもしれんぞ」
「はい?」
様子がおかしい竜牙が見ている方向を進藤が見てみると、そこには今まで目を瞑っていた白衣の女、白井真稀が目を開けている姿があった。
瞬間――真稀が入っていたカプセルは粉々に砕け散った。




