4 中二病と落とし物
今日も部活だ、そしてその後はタイムセールだ。今日は魚が安い! 魚は他じゃ取れない栄養も取れるから是非とも入手したいものだ。陽気に部室の扉を開けるとそこには黑いマントを羽織り、小さい黒い翼を生やし、眼帯をしている男がいた。
「む! 曲者か!」
「それはお前だろ!」
「フフフ、我は闇の使者である。曲者ではない」
「いや明らかに曲者だよ」
「えっと? 知り合い?」
成瀬から知り合いか聞かれたが確かに知っている。この男は黒井蒼真、二年になってから同じクラスになり知り合った。さっき闇の使者とか言っていたがあれはこいつのただの妄想、つまり中二病だ。まあ流石に授業中もあの格好というわけにもいかず普通の制服姿だが今は放課後、枷から解き放たれたというわけだ。
「我が友歩よ! 我が願いを叶えよ、報酬は我が魂だ!」
「俺は悪魔か! 報酬とかいらないから相談があるなら早く言えよ」
「何!? 報酬が要らぬだと? では無償で叶えるというのか?」
「そうですよ、私達は人助けをしてるんです。相談ですか?」
「ああ、こんな悩みは我にとっては悩みとは成り得ないものだが」
「なら帰れよ」
「冗談だ」
「それで相談というのは」
「フム、では話そう。我は太陽が真上に来る時気付いた、我が通信魔法が使えぬことに! 探知魔法で探したが見つからず、仕方なく闇の使者である我自らがここに赴いた」
「……えっと、ごめん。何を言ってるのか分からないわ」
「相変わらずだなあ黒井先輩」
「ちょっと進藤、アンタ知り合いなら訳しなさいよ」
別に外国語喋っているわけじゃないんだけどな。まあ確かに分かりづらいか、よく聞けば分かるんだけどな。太陽が真上、つまり正午に気付いた。通信魔法ってのはおそらく通信が出来る道具、だから携帯か? 探知魔法ってのはノリで言ってるだけかもしれないけど。
「つまりこいつは携帯無くしたから困ってるんだとさ」
「そうとも言う」
「そうとしか言わないけどな」
「成程つまり黒井君の携帯を探すっていうことね」
「そういうことだ」
しかし携帯を落としたと言ってもそれに気付いたのが昼だっていうんなら手がかりないと探すのはキツイぞ?
「家に置いてきたとか?」
「朝は確かに所持していた、つまり道路かこの施設内。だが内部にはなかった」
「つまり外にあるかもってことね」
「ならまず交番に行ってみるか」
携帯は個人情報の塊だ、落とせば不安になるのは分かる。この世界善人なんて数える程しかいないだろう、もし携帯を見つけても交番に届けるなんて選択肢が出ることはほとんどない。だが可能性が少しある以上、行かないわけにはいかない。
「携帯電話? いや届けられてはないね、他の物ならいくつもあるんだけど」
「そうですか、お時間取らせてもらってありがとうございました」
「交番にはなかったわね」
「じゃあ道路に落ちてるかもってこと?」
「そうなるな、一応通学路を探すか。黒井、お前がいつも通る道に案内してくれ」
「いいだろう、だが決してそこを歩いてはならない。我が家は猛毒の沼地に存在し、そこからしばらくはそれが続く。脆弱な人間が入ればひとたまりもない、一瞬で溶けて消えてしまうだろう」
そんな場所があったら今頃立ち入り禁止区域になってるだろ。
* * * * * * * * *
「しっかし誰の落とし物だ? この携帯は」
歩達の目当ての携帯は地面に落ちていた、だがそれを拾った者がいた。根野士郎。歩にいつも突っかかり敗北するのを繰り返している男であった。
「誰のかはどうでもいいけど、中見てみるか」
そしてロックをどうにか解除して中を勝手に見た根野は中身を見た瞬間に目を細めた。
「何だこの文字の羅列は? 暗号? いや違う、文章だな」
そこにあったのはものすごい数の文、小説だった。根野はそれを読み始めて持ち主探しを再開した。
* * * * * * * * *
見つからない。黒井の家から学校までの通学路を探してみたがなかなか見つからない。これだけ探してないってことはもしかして盗まれたんじゃ?
「ねえ、その携帯諦めて買い替えるって選択肢はないわけ?」
「そんな選択はないぞ、運命はあれを選んだのだ。我専用の物だとな」
「でも今日はもう日が暮れそう、もう少し探して見つからなかったら今日は終わりにしましょう」
「さんせーい! もうクタクタだし」
「一日経ったら見つかる可能性は限りなくゼロだろうな、なんとか今日中に見つかればいいんだけど」
それから二人一組で探せば見落としもなくなるということで俺は黒井と二人でペアになって探していた。
「なあ、本当に買い替える気はないのか?」
「当然だ! 何故ならあれには禁書目録が書かれているのだ! あれを手放すということは我が英知が欠けるということに他ならない」
英知か、ダメだ言葉の意味が分からない。携帯に何か書かれているのは分かったが何が書いてあるんだ? その時だった、ふと視界に入るのはここ数日見なかったバカだ。根野のやつ退院したのか、また絡まれるだろうなあ。あ、目が合った。
「進藤! テメエよくもやってくれたな! おかげでこっちは病院のベッドの上で暇な毎日だったぜ!」
「はあ? 俺もお前に負けないくらい暇だったわ! ん? お前その手に持っているのは携帯か?」
「あ? ああこれか、落ちてたのを拾ったんだが中々面白いのが書いてあってよお」
「あ! それは我がアカシックレコード! 貴様それを何処で手に入れたというんだ!」
「アカシック……なんだって? そんなもの俺は持ってないぜ?」
「とぼけるな! それは我が力の一端! 今すぐ返せ!」
「ああ多分だけどその携帯のことだと思うぞ?」
「携帯を? アカシックなんちゃらって機種ってことか」
いやそれは違う。
「お前そういや中見たのか?」
「ああ! 面白いものが書いてあったんだけどテメエが書いたのか!」
「何? 見たのか? この中の禁断の書物を?」
「小説のことか? おう見たぜ? 面白かった!」
小説? そうか! 黒井が散々言ってた携帯を探す理由はこれか! 小説を書いていたんだ、言わばネタ帳みたいな大切な物ってわけだな。でも勝手に人の携帯見るとかちょっと常識足りてない気もするけどな。
「そうか、我が書物は面白かったか!」
「ああ! 早く続き読ませてくれ!」
「生憎だがまだ完成しておらん、来るべき日が来れば其方に見せようではないか」
「おう、待ってる」
嬉しそうだな黒井のやつ。嬉しいだろうな、自分がやった何かが評価されるってのは。そういえばこれで依頼も解決か、自分で解決してないのに解決なんて変な感じだけど。
「そうだ進藤! 今こそ入院の恨みを晴らしてやるぜ!」
こいつそれしか頭にないのか? 黒井の小説褒めてそれで終わりにして帰ればいいのに。雄叫びを上げながら走ってくる根野に俺は間合いに入った瞬間顎にアッパーを決めて空高く打ち上げた。まあ今回の依頼はお前のおかげで解決したようなもんだ、今回はいつもより手加減してやった。
「ねえ! 今人がミサイルみたいに上がってったんだけど何か知らない!?」
「さ、さあな。知らないよ、それよりあったぜ黒井の携帯」
「あ! これで依頼解決だね! でも何か自分が見つけてないのに解決って変な気分だなあ」
それは俺もだ、このモヤモヤした気持ちはどこにぶつければいいやら。タイムセールにぶるけるか、そうしよう。今日は絶対に魚をゲットしてみせる!
黒井「さあ! 我が禁書目録をしかと見届けるがいい! 最もそれを見た瞬間あまりの情報量に貴様の脳は焼き切れるだろうがな!」
出版社「……つまらないです、書き直してください」
黒井「!?」