45 クソゲーと神
俺は今日もダラダラと夏休みを過ごしていた。
「はあー平和だなー」
ジルマと胡桃はどこか買い物にでも行っていて家には珍しく俺一人だった。
「平和、うん、平和だ」
平和とひたすらに連呼する、もはや暇すぎて何も考えられない。だがそんな俺の平和は長く続いた試しがない。だからきっと今日も続かないのだ。
鳴り響くチャイムの音で俺はようやく重い腰を上げた。
「誰だ? 俺の平和を邪魔するのは」
そうして扉を開けるとそこにいたのは、不死の体質を持つ紫藤、ビニール袋を持っている中二病を患っている黒井の二人だった。
「何? お前ら何で一緒にいんの?」
本来この二人は知り合いですらない筈、接点なんてないからな。
「いや偶然なんだけど進藤の知り合いか?」
「我が盟友よ、異世界から抜け出して更なる癒しを求めてここに来た。我に力を貸してくれ、お前の力が必要なのだ」
「ゴメン進藤コイツ何言ってんだ?」
「いや俺も分からん……とりあえず上がれよ」
黒井は玄関前で立ち止まると急に後ろを向いて親指、人差し指、中指の三本を立てて出鱈目に文字のようなものを書く。もちろん空中には何もないし何も起きていない、その行動に紫藤は何をしているのか聞くと黒井は真剣に答えた。
「敵が監視していたので結界を張っておいた、恐らくは組織の連中だろう。奴らは悪魔の力を持つこの俺を恐らくは危険視してつけていたんだろうがバレバレだ、恐らくは最低ランクの戦士……恐らくはまだ力も制御出来ていない下っ端だろうが念のためな」
「恐らく多いな!」
「いや進藤……本当にコイツは何を言ってるんだ?」
「気にしたら負けだぞ」
「フハハハハ!」
黒井の中二病度が以前より遥かに増していることに対して頭を悩ませるが、とりあえず二人の要件を聞かないとな。麦茶を用意し俺の部屋に案内してから紫藤と黒井に何の用かと尋ねた。
「僕は別に……夏休みで暇でさ、だから秘密を共有できる親友の君と過ごしたいなと」
いつから俺とお前が親友になったんだ、それと気持ち悪いな。
「我は魔王に家を乗っ取られてな、家族も奴の手中に落ちた。我は追い出されたので平穏を求めてこの場に惹かれたのだ……ただ心に声が聞こえ、その通りに進んでみればここに辿り着いたというわけだ。まあ我が右腕に封印されている闇の力なら奴らなど一瞬で塵と化すがな」
もし本当ならここに来てる場合じゃないだろ、闇の力とやらでとっとと助けてこい。
こいつら結局暇だから遊びに来たってことだよな? まあ暇だったしちょうどいいか、遊びに付き合ってやるか。
「でも僕何も持ってきてなくて、今日はジルマちゃんとかいないの?」
「買い物だよ、女子は良いよな楽しみがあって」
「フッ、何の準備もしない愚か者共め。我が叡智が導き出した真の禁じられた遊戯を見るがいい」
そう言い黒井が取り出したのはゲームのカセットだった。
「何のゲームだこれ? 神の導きに惹かれて? 聞いたことないな」
「これが我が魂と共鳴したのだ、つまり運命だったということだ」
「あ! でも進藤、君の家ゲーム機あるのか? 貧乏なんだろ?」
確かに俺の家は貧乏でゲーム機なんて本当はあるはずがないんだが、一台あるのだ。しかもちょうどいいことにこのソフトを出来るものが。
「ほらこれでいいか?」
「え、あるの? 何で持ってんだよ、ゲーム機買うくらいなら生活費に回せよ」
「ド正論だがこれは貰い物だ、取りに来ないからもうこれは俺のだろ」
このゲーム機、ブレイドステーション略してブレステ。以前俺の家に来た……誰だったかな? とにかく家に来てそのままの状態なのでもう貰っても大丈夫だろう。
「やはり我が見込んだ人間なことはある、さあ! 盟約により今ここに闇の遊戯を始めるとしよう!」
「闇の要素どこだよ」
「おっしゃやるかって言いたいけどこれ人数分ないんだよな、二人分しかないじゃん」
確かにコントローラーは二人分しかないが、そもそもこのゲームは二人用と書いてあるし問題ないだろ。話し合った結果、最初は黒井と俺でプレイすることになった。
しかしこれどんなゲームなんだ? RPGとは書いてあるけど。
「始まったようだな、気を抜くなよ」
「いや序盤だろ? ここではまだまだ気を抜いたっていいだろ」
始まった始まった、へえ……主人公は騎士の国の新米騎士か、どうやら主人公が1P、友人が2Pらしい……あれ? え、これ名前!?
1P『うわあああ! 魔物だああああ! ああああああ!』
主人公叫びすぎだろ、臆病にも程がある。よくこれで騎士になろうなんて考えられたな。
1P『うわあああ! のおおおお! ああううううう!』
いつまで叫んでんだ!? 戦えよ! 騎士だろ! あ、戦闘に入った。どうやらこれはド◯クエのようなコマンドバトル、ターン性のようだな。やりやすくていいじゃないか、さて攻撃だ!
『1Pの攻撃! ゴブリンに2のダメージ!』
『ゴブリンの攻撃! 1Pに18のダメージ!』
いや主人公弱すぎだろ!? おい! 一撃でもうHPが一桁になったぞ!? これ本当に最初の敵か!? いや待て……もしかしたら負けイベントか? それなら納得だがどうだ?
『ゴブリンの攻撃! 1Pに18のダメージ! 1Pは死んでしまった!』
『ああ……こんなところで死ぬなんて……神様、やっぱり僕には騎士なんて……』
『その後、王国は魔物の襲撃により滅び世界は闇に包まれた』
『GAMEOVER』
「いや普通に終わった! 何この序盤からのハードモード!?」
「我が依代が戦ってすらいないぞ、やり直せ」
「ていうかこれクソゲーだろ、何円したんだ?」
「200円だ」
「安いなおい!」
それから何度も何度も繰り返し、19回目でようやくゴブリンを倒した。運よく攻撃を避けたり、クリティカルを出したりしてようやく勝てたのだ。
何だこの序盤でラスボスに勝った感は!
1P『ふう、どうやら大したことなかったみたいだな』
いや大したことあったわ! 俺が何度やり直したと思ってんだ!
1P『2P! 大丈夫か?』
2P『大丈夫だ、この程度の魔物なら騎士でもない俺でも倒せるぜ』
おい主人公騎士ですらないんじゃねこれ!?
2P『どうやら近くの町などが襲撃を受けているらしい、すぐに行かなきゃ助けられねえぜ』
1P『そんなっ!? 怖くて動きたくないぜ!』
お前騎士じゃないだろ。
そんなこんなで話は進み、途中紫藤に交代して町を解放しつつまたボスと戦闘になった。
「またボスだぜ、まあレベル上げはやったし大丈夫だろ」
「フッ、我が力を見せてやろう」
そういやこのゲームまだセーブポイントとかないんだけど大丈夫か? これまさか負けたらまた最初からやり直しじゃないよな?
1P『フッ、魔王軍四大騎士のドルーラだな。お前を倒しに来た!』
2P『そういうことだ、覚悟しな!』
ドルーラ『たかが騎士一人と騎士ですらない者一人で何が出来る! 返り討ちにしてやるわ!』
『ドルーラの攻撃! 煉獄の怒り! 1Pに899のダメージ! 2Pに420のダメージ! 二人は死んでしまった!』
『GAMEOVER』
「いやおい! 何だこのインフレは!?」
「我が一撃!?」
ちなみにどちらもHPは200前後でどう足掻いても耐えられるダメージではない。というか何で騎士のはずの主人公が仲間のただの男よりダメージ喰らうんだよ! 防御力どうなってる!?
そして俺の予測は正しく……物語は最初からになった。
うん、これは人気でないわ。下手したら200円の価値もあるかどうか怪しいぞ。
* * * * * * * * *
紫藤は進藤家を出た後、一人山で修行をしていた。
「出ろ! 魂の放出!」
それは長村から教わった必殺技、紫藤はまだ習得できずにいた。
「はあ、今日もダメか……進藤は凄いよなあ」
その思わず口から漏れた言葉は嫉妬でもなく純粋な尊敬だった。自身は未だに出来ない技を独自の物として見てすぐに習得してしまうその才能、人を助けるというその心、どれも自分には欠けていると思わずにはいられず、持っている人物を羨ましいと感じていた。
「もう遅いし、帰るか」
夜の街を歩く。夏でも夜は暗いものであり、それが当たり前だった。
だが紫藤の目に入って来たのは強烈な光。思わず眩いと感じ目を閉じてしまう程の閃光。
(うっ!? 何だこれは!?)
ドンッ! と誰かにぶつかった感触が紫藤にはあった。それで目を開けて周りを見ると光は消えており幻でも見ていたのかと思ってしまう。
通行人は自然に、何もなかったかのように人々は通り過ぎていく。
――ただ一人以外は。
「ぶつかっておいて謝りもしないか、それは悪だ」
声がした、よく通る声だ。少なくとも紫藤の耳にはハッキリと聞こえていた。
「ど、どうもすみま――」
「浄化」
紫藤の謝罪の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
紫藤の体は一秒も経たずに光に触れた瞬間消滅した。
その一秒にも満たない時間で見たものは――白と黒の羽が生えた男だった。




