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解決部 ~あなたのお悩み解決します~  作者: 彼方
二章 並行世界人と略奪
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41 並行世界人と略奪2


 かつて竜牙は悪魔に体を乗っ取られて親友を殺害、解決部に全校生徒を苦しめてしまったことを後悔していた。それは後悔したところでどうしようもないことだが自分が軟弱だったからという強い気持ちが心に負担を掛けていた。

 だからこそ自身を助けてくれた進藤に対しては言葉には出来ない程の感謝と迷惑を掛けた罪悪感を抱えている。




 そして今日になって迷惑を掛けた人間に会うことになったのは、三本ある分かれ道の中でその道を選んでしまったのはある意味運命だったのかもしれない。


 竜牙は薄気味悪い紫色の空間を進んでいく。すると少し大きめの部屋のような場所に出る。


「少し道の感じが変わったか?」


「まさかここに来たのが進藤じゃなくて貴方だとはな生徒会長」

「誰だ」


 竜牙は前方から声が聞こえたので一旦止まり警戒する。


「失礼だな、僕を脅して人殺しの命令をしておきながら忘れたのか?」


 人影がだんだんとよく見えてきてはっきりと見えた瞬間、竜牙は見覚えのある顔で驚く。


「お前、お前は確か……玉川駆か?」

「覚えてるじゃないか、最低の生徒会長!」


 玉川駆、かつて竜牙が悪魔に乗っ取られていた頃に進藤を殺すように命令を下し命令通りに進藤を殺害しようと勝負を仕掛けるが返り討ちに遭い自分の能力で自身が身動きとれないビー玉になってしまった。

 それからはずっと進藤家に放置されていたのだが現在学が家を乗っ取っており、中を掃除していたところビー玉を発見。お決まりの科学道具で仮の体を作り出しそこに魂を強制的に癒着させ以前の肉体であるビー玉を放り込めば復活完了である。


「僕はアンタのせいで自分がビー玉になり殺そうと思っていた相手の家に放置されるという屈辱を受けた! どうやらあの進藤の話では悪魔とやらに乗っ取られていたようだけどたとえそうでも到底許せないんだよ僕はね!」


「……そうだろうな」


 竜牙は根は優しい男である。たとえ乗っ取られていたとしてもそれは自分がやったと同じだと思っている。本来なら玉川は警察に捕まるような犯罪を犯していた悪人だが、たとえ悪人であったとしても迷惑を掛けたという気持ちは変わらなかった。


「何のつもりだい?」

「見れば分かるだろう、謝罪だ」


 土下座。竜牙はプライドも恥も捨て誠心誠意謝罪をした。


「ふ、ふざけるな……今更遅いんだよ、謝られたって過去は変わらないんだよ!」


「それでも……たとえ無意味でも俺は頭を下げる」


「…………勝負だ」

「何?」

「僕と勝負しろ、僕の能力は知っているだろ? 君に同じ屈辱を味合わせてやるよ」

「……分かった。それでいいなら俺はそうしよう」


 玉川の能力はゲームで負けた者をビー玉にしてしまうこと。玉川がポケットから取り出したのはトランプだった。


「勝負方法はHIGH&LOW、一回勝負だ」

「分かった、それでいい」


 HIGH&LOW。トランプを親が表、子が裏向きでセットされ相手の表のカードより自分のカードの数字が高いか低いか選ぶという単純な遊びである。ルールが細かく決まっているというわけではなく遊ぶ者独自のゲーム性がある。

 今回玉川は一回勝負でカードの強さは2が最弱、KよりAの方が上というルールと決めた。



 玉川がシャッフルしてからセットした伏せたカードを表にする、数字は3だ。それを見て明らかに動揺し自らの運のなさを呪うがそれを見て竜牙は驚きの言葉を口にした。



「LOWだ」

「は?」


 本来表のカードが3だったならば高確率でHIGHでありLOWで勝つとなると2を出さなければいけない。圧倒的に不利な条件でありこれでは勝負を捨てたと言われてもしょうがないレベルの言動だった。


「ふざけているのか……勝負は真剣勝負! これが罪滅ぼしのつもりか!? アンタは――」


 玉川は激昂していたが竜牙の表情を見て言葉に詰まった。その顔はとても諦めた者の顔ではない。


「何を企んでる? 明らかに勝率の低いLOWを選択した理由は何だ?」


「これが俺の選択だ。ここで神が俺を見捨てるなら俺は何も言わぬ屍、いやビー玉として生きていこう、だがもしこんな俺でもこれから罪滅ぼしのチャンスを与えてくれるのならば! 俺は今を全うし、生きる! 過去を許してほしいわけじゃない、罪悪感を消したいわけでもない、ただこんな悲劇を繰り返さないように生きる!」


 竜牙の手により伏せられたカードがめくられる、その一瞬が竜牙にも玉川にもまるで数分の出来事かのように長く感じられた。



 めくられたカードの数字は――――3……引き分けだった。



「な、に? 3? どんな確率だ、ありえるのか?」

「今現実に有り得ている、俺はこの件が片付き次第迷惑を掛けた者全てに改めて謝罪しよう……そういえば引き分けの場合はどうなるんだ?」


「引き分けは引き分け。勝ちも負けもない、どちらもビー玉にならずにゲームは終了する……」


「そうか、それは良かった」

「何を言っている? 僕は敵だ、それを」

「もう俺は俺自身のことで他者を傷つけたくないだけだ」


「勝負は何回でも可能だ、引き分けたくらいじゃ」

「それなら何回でも俺が引き分けにしよう。この勝負の勝敗が永遠に決まらないように、君をもう傷つけないために」


 玉川にはとても正気とは思えなかった。だが何故かこれから何回勝負を挑んでも引き分けになる、そんな想像が頭の中を駆け巡っていた。有言実行、この男は絶対にそうすると思えてしまう。



「ハアァ……もう、いいよ」



「もういい? それはつまり――」

「諦めたよ、この勝負。僕は降りる……僕はここから出ていくよ」


 出ていく、その言葉通りに玉川は竜牙が来た方向に向かって歩いて行った。


「……一つだけ」


 玉川はその言葉に立ち止まる。


「もう人を傷つけるな、俺もそうするからお前も他人を傷つけるな」



 竜牙が喋り終わると玉川は何も言わずに歩いて行ってしまった。



「さて、少し時間がかかったが進藤君達は大丈夫か? 急ぐか」




* * * * * * * * *




 奥地では進藤と学が対峙していた。


「何でこんなことをした」

「僕もつい最近までこんなことをするつもりはなかったんだ、でもここが僕のいた世界と離れているせいなのか世界の違いに驚いた。僕はもっと遠い世界に行き世界の違いをこの目で見るんだ! だから世界移動のマシンを作るために手っ取り早くこの家を研究所に作り替えることにした、合理的だろう?」

「それならここを出て行けば済む話だろ」

「あはは、家を作ったりするのは骨が折れるんでね」


「違う違う! 作るんじゃなくて買えばいいだろ!」


「何も違くないさ、言っただろ? 僕の世界では紙幣など存在しない。全ての物は作り出したり交換したりするものだ、自分が生まれ育った環境のルールはそう簡単には変えられない」



「分かったよ……ならお前をぶっ飛ばしてでも俺が変えてやる、世界が違えばルールも違う。それを分からせてやる」


 こうして進藤と学は戦うことになる。それぞれの世界のルールの違いによって。


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