40 並行世界人と略奪1
進藤は紫藤と別れ自分の家の目の前にまで帰ってきて扉を開けた。これでやっと帰って来たと安心出来る――筈だった。
「これ俺の……家か?」
進藤が驚くのも無理もない。扉を開けた先は正に異次元であり異空間、太陽すら通さないことで暗いのにまるで月明かりでもあるかのようによく見えるという矛盾するような場所。それは学の冷蔵庫や収納空間と同じものだった、その空間は見たところどこまで続いているのか分からない。
「いったい……何が……そうだ、携帯! 胡桃に連絡を!」
しかし携帯に表示された文字は圏外、この空間は電波など飛んではいない。仕方ないので進藤は一旦外に出て電話をかけた。
「あ! 胡桃か? 家が魔境と化してるんだけどいったい――」
「ごめんなさいいいい! 留守の間家を守れなくてえええ!」
電話に出た、瞬間に強烈な鳴き声が進藤の耳を襲う。
「ぬおっ!? 落ち着けよ! 今どこにいる?」
「えええええええええ」
「あ、ダメだコレ」
「えええ――――ごめんなさい代わらせてもらったわ、ジルマよ」
「ジルマか、お前も一緒なんだな? 今どこだ」
ジルマは胡桃が話が通じないと分かり即座に電話を奪い取っていた。
「今は胡桃の元の家にいるんだけど、一旦こちらへ来てくれない? 詳しい事情はゆっくり話すわ」
「分かった、そっちへ今から向かう」
電話を切り、進藤は胡桃の実家の水瀬家へ来ていた。
中に入るとジルマと泣き止んだ胡桃、そして水瀬耕史がリビングにあるソファーに座って進藤を待っていたようだ。
「アンタもいた――」
「よくも僕の妹を泣かせてくれたね、君は死刑だ」
「判決重いな! ていうか俺じゃないだろ、そこんとこどうなんだジルマ」
「いえ留守を頼まれたという責任から泣いた可能性が高いから間接的には貴方のせいかしら」
「お前どっちの味方だ!?」
進藤は耕史が襲い掛かってくるのを何とか躱しつつ、全員はそれぞれ気持ちを落ち着かせて話をし始める。
「それで何がどうなってるんだ? 俺が中国行ってる間に何があった?」
「学が暴走したわ、今あの家は学の手中にある」
「……ここにいないからもしかしてと思ってたけどやっぱりか」
「突然ここは僕の研究所にするとか言って私達は強制的に追い出されたの、私は魔法で応戦しようとしたんだけど一瞬で外に出されてて……たぶんそういう道具なんでしょうね」
進藤は少し考え込んでから口を開く。
「どんな事情があるにしろ本人に話を聞くしかないな、俺は戻るわ」
「待って、まだ話は終わってないわ」
「実は今あの家の中だいぶおかしくなっちゃってて……何故か三人一組じゃないと入れないって立てられてた看板に書いてあって、本当かどうか確かめたら二人だと強制的に外に出されちゃったの」
「恐らくそういう道具なんでしょうね」
「もう何でもアリじゃねえか! でもそれならこれで三人だ、行けるだろ」
進藤は胡桃、ジルマを見て三人揃ったので行けると思い家を出ようとしたがそこに待ったをかける人物がいた。
「妹は危険な目には遭わせないよ?」
「おい! いや確かにあの何でもアリな男のことだから危険かも……仕方ないな、助っ人を呼ぶか」
「どうする気?」
「ジルマも待っててくれ。俺は今から助っ人と共に乗り込んでくる」
「私も戦えるわよ?」
「……少しの間とはいえ一緒に暮らしてたんだ、何か対策くらいしてるよあの男ならな」
意外にも進藤の学に対する評価は高いものだった。
「聞いた通りの男ならたぶん自分の目的の為なら何をしても構わないと思っているタイプだろう、かつて僕が君を殺そうとしたようにね。せいぜい気を付けることだね」
「……ああ」
進藤はそのまま水瀬家を出て自分の家にまで戻る。玄関前で助っ人として連絡した人物を二人待つこと三十分、ついに二人の人物が姿を現した。
「待たせたね」
「待たせたか」
「……結構待ちました」
「そこは待ってないと嘘でも言うところだろう……」
「デートじゃないんですけどねこれは! 会長も悪いな、こんないきなり呼び出して」
「「いや全然大丈夫だ」」
「そうだどっちも生徒会長だった!」
進藤が呼んだ二人の助っ人、それは宝天高校の生徒会長である志賀竜牙と海北学園の生徒会長である法堂守里だった。
「進藤君、君にも解決部にも俺は迷惑をかけていたからな、気にしなくていい」
「私も進藤君、君にはあの時の恩がある。恩返しが出来ると思うと嬉しいぞ」
「はは、ありがとうございます二人とも」
(この二人どっちも喋り方が同じだ……)
「それで何故呼び出されたのか私は知らんのだが」
「俺もだ、どういう状況だ?」
進藤は現在家を居候させていた男に乗っ取られたこと、更に相手は何でもアリな様々な道具を使ってくることを話した。
「なるほどな、どこの誰とも知れぬ怪しい男を居候させていたのか。優しさがすぎるぞ」
「確かにな、お前の家は貧乏だと聞いている。優しいのはいいがその分厳しさも持った方がいいぞ」
「思ったより辛辣だな……」
そうして生徒会長二人と家主という三人組で魔境と化した家の中に突入した。
その中は少し前に進藤が来た時と変わらず妙な空間だった。ただ言われていた看板を通り過ぎてから魔界の空のような色をした空間に変わっていた。
「三人でなければ通れないなどとは言ったもの勝ちのようなものだな」
「それは貴女が言えることじゃないでしょ」
「それはどういうことだ? 海北の生徒会長、是非詳しい話を聞き――」
「ストップ! 分かれ道だ」
進藤達はしばらく景色が変わらない空間を歩いていると三つの分かれ道のようなものがあった。その中心の方には『この分かれ道は一人で通るべし』と書かれていた。
「三人一緒に行った方がいいんじゃないか?」
「だが看板にこう書いてある以上我々は従わなければいけないのだろう?」
「ああ、じゃなければ強制的に外へ追い出されるからな……俺は真ん中に行く」
話し合った結果、竜牙は左、進藤が中央、法堂が右の道を進むことになった。
「それじゃ一旦ここでお別れだな」
「ああ、必ずそちらに合流してみせる」
「俺もだ、必ず助けに行く」
「ありがとう二人とも、それじゃ!」
三人はそれぞれ別の道を行き走っていく。
そして進藤は走り続けて奥地に辿り着いた。奥地はまるで東京ドームのような広さを持っていた、その場所に進藤は見覚えがある人影を見つける。
「あはは、君が真ん中に来たか。予想通りだよ」
「……斉江」
今、現家主と元家主が相対した。




