38 不死者と不死者1
中国にある空港、ここに今飛行機が無事着陸し観光か旅行帰りか大勢の人間が降りてきていた。
「いやあ、着いた着いたここが中国かあ」
「……そうだな、ここは中国だな」
飛行機から最後に現れたのは紫藤と進藤だった。何故二人が中国にいるのかというと話は少し遡る。
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今日も平穏な進藤家、その平穏は突然の来客により破壊されることになる。
「何で……俺の家を知ってる」
「や!」
チャイムが鳴り、それに反応し進藤がドアを開けるとそこにいたのは不死の体質を持つ紫藤だった。
「実は進藤を探してたら楠木さんって女の子に会ってさ、それで教えてもらったんだよ」
「あいつ……で? 何の用なんだよ?」
「僕と一緒に旅行行こうぜ」
「断る」
「いや速いな! 興奮するだろ!」
「すんな! だいたい何でお前と旅行なんて行かなきゃならないんだよ!」
「それなんだけど以前僕は学校で絶対当たる占い師の噂を聞いてさ、何にも占ってほしいことなかったんだけどとりあえず行ったんだよ」
「それただの迷惑だろ……」
「そんで何でもいいから占ってと言ったらだ、なんと僕と同じ不死の力を持つ男が中国にいるって言われたんだよ! そこからスーパーでバイトして金を貯め、一人じゃ心細いしお前を誘う金も貯めて今に至るんだよ」
「いやまず俺に確認とって!? 事前に何か言えよ!」
「だって言ったら断るだろ?」
「ああ」
「くぅ……即答……」
紫藤は体をくねくねとさせながら身悶える。それを見てどんどん進藤の目は光を映さなくなっていた。
「とにかく頼むよ! あ、じゃあこれ依頼! 解決部への依頼なはいこれ依頼だから行かなきゃなー」
「……俺に拒否権はないのか」
そして進藤は中国に行ってくると胡桃、ジルマ、学に言い残し紫藤と共に空港に向かった。
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「で? その不死者とやら本当なのか? まああの占い師が占ったんなら当たってるんだろうけど」
「ああ、何でも中国に住んでいる長村という男がそうらしいよ」
「個人情報筒抜けだなおい」
それから二人は長村という男を探すために聞き込みをしていた。中国に来るにあたって中国語が喋れないのは不便である、ということで何でもアリな並行世界人の学に進藤がダメ元で翻訳機をねだると収納空間にあると言うのでそれを持ってきている。
しかし残念ながら長村という人物の情報は中々手に入らなかった。
「全く手がかりがないな」
「ああ、ふぉんとうだな」
「お前ちゃんと探した?」
紫藤の手には焼き鳥のようなものが持たれており口は何かを咀嚼していた、全く人探しをしている態度ではない。
「だいたいその男の名前はいいとして住所すら分からないんじゃ中国の何処に住んでんのか分からないだろ、中国って広いから探すのほぼ無理ゲーだぞ」
「ぐっ、そう、ふむ、だな」
「食べながら喋るなよ、どっちかにしろ」
「…………」
「食べてんじゃねえよ!」
「理不尽!」
「お前本当に真面目に探す気あんのか!?」
「失礼だなあるに決まってるだろ? あ! 北京ダックだ、すいませーん」
北京ダックを買いに走っていった紫藤の鞄の中身をチラッと見た進藤は空を見上げる。中には観光ガイドなどの本が数冊入っていたからである。
「探す気ないじゃん……本当に」
「おい大変だ進藤!」
「……どうした? 売り切れか?」
「長村って男の居場所が分かったんだよ!」
「何でだよ!」
「北京ダック売ってた人がさ、長村って男はこの近くの山の麓に住んでるって! 流石僕だな」
(買い食いしてただけのくせに!)
そして二人は山の麓まで赴き、ポツンと立つ一件家を発見した。
「あれがそうか?」
「そうかもな、よし行ってみるか。すいませーん!」
しかしその紫藤の掛け声には何の反応もなかった。
「留守なんじゃねえの?」
「でも滅多に外出なんてしないって言ってたのになあ」
「何でそんなこと北京ダック売ってた人間が知ってんだ……」
「おかしいなあ」
紫藤は家の玄関からグルッと周り窓の方を見ようとしていた。
進藤が本当に紫藤以外に不死者なんているのかと思っていたその時だった。
バンッ! と何かが破裂する音と生々しい臭いが進藤の耳と鼻に届く。
音がした方を見ればそこにはさっきまで一緒にいた紫藤が首から上が無い状態で地に伏せていた、見知らぬ二十代後半に見える男が傍にいる状態で。
「紫藤! お前、何者だ!」
「何者か……それはこちらの台詞なんだがな。人の家の前でコソコソとしおって」
(この人が長村か? それにしてもこの人から発されている力強いオーラ……少し強いな)
「ああー、何で僕死んで? 全く殺されると痛みとかリセットされるから拷問がベスト……誰?」
「気を付けろ紫藤! そいつがお前を殺したんだぞ!」
「な、え?」
紫藤が驚いているなか、長村も驚いていた。そして何かに納得したように話し出す。
「やはり不死か……お主ら、この儂に何の用だ」
「もしかしてアンタが長村さんか!? 僕達アンタに会いに来たんだよ!」
「……上がっていけ」
長村はただ一言だけ残し家に戻っていった。進藤と紫藤はお互いに顔を見合わせて言葉通りに家に入ることにした。
長村の家の中は簡素なものだった。必要最低限に揃えた家具、電化製品、部屋自体もそこまで広くなく八畳というところだろう。二人は椅子に座り、少しして長村がお茶を人数分持って席に座った。
「……それで? 何故儂に会いに来た? まあ理由が分かってしまうあたり同類だと強く実感させられる……どこかで儂のことを聞いたな? 不死の小僧」
「……!? 凄いな、全部お見通しか」
「フン、何だ同類にでも会いたかったか?」
「え、そういえば具体的には会ってどうするとか考えてなかったな……」
「待て、一つ聞きたい」
「何だ?」
「何で紫藤を攻撃した? いや、殺した?」
「家の前でコソコソとしていたお主らが悪い、まあ何となく不死者の気配がしたから大丈夫だろうとな」
(それだけで躊躇なく? コイツ……ヤバいぞ)
紫藤は出されたお茶を飲み、その水面を見ながら再び口を開く。
「長村さん、アンタも不死身なんだよな」
「まあそうとも言える」
「アンタはこれが異能じゃないって知ってるのか」
「もちろん知っている、何故不死身なのかもな」
何故自身は不死身なのか。これまで紫藤は全く考えてこなかったわけではない、ただ考えても分からないから止めたというだけだ。今でこそマゾヒストとしてその体質を利用し自分の欲望を満たしていたりする変態だが昔はただ自分のことを不気味な存在だと認識していた。
それだけに長村の理由を知っているという発言に心底驚きつつ知りたいという好奇心が心の中で暴れていた。
「……それ、詳しく聞けるか?」
「そうだな、お主には聞く権利があるだろう」
長村と紫藤、今ここに二人の不死の秘密が明らかになるのだった。
長村さん、一応今作の重要キャラの一人です。




