2 不死者と美少女1
解決部に入部した俺だったが依頼など来なくて暇な時間を過ごしていた、まあまだ入部したばっかだし! まだこれから来るかもしれないし! とりあえず部室に行くと部屋には素振りをしている藤林しかいなかった。
「お前だけか?」
「胡桃は居残り授業、部長は職員室に行くってさ」
「へえ、それは分かったけど素振り止めてくれる?」
「無理」
「何で!?」
「アタシは剣の腕を磨くために鍛錬がしたくて入部したの」
「ここは剣道部じゃないんだが……」
「それくらい分かってるけど、剣道部にだって最初は行ったけど良い顔されなかったのよ。だから剣道部は論外ね、胡桃がここに入るっていうから心配で一緒に入って部長に許可を貰ったわ。この部室で迷惑にならない程度なら素振りぐらいしてもいいってね」
「俺の迷惑だ、それにしてもやっぱり……無能力者だから、か」
「そういうこと、はみ出し者なのよアタシ達はね」
「達?」
「胡桃も家庭科部に入部を認めてもらえなかったのよ、とってつけたような理由でね」
だから入部する場所を探して最終的にここに辿り着いたってわけか。あとどうあっても素振りを止める気ないのか、また俺の時みたいになったら危ないってのに。今日は依頼人来る可能性があるんだよ、新聞部の新聞でここが紹介されたからな。だからこのままでは――突然ガララという音と共に扉が開いた。
「え?」
「あ」
おい? 今後ろで鈍い嫌な音が聞こえたんだけど、骨を削ったような変な音が聞こえたんだけど? 何か嫌な予感がする、読書を止めて後ろを!? 本に赤い液体が! というか部室全体に!
「おいお前何があ――」
「……あ、いや、これは」
「あああああああああ!」
そこには肩から上がなく、首の部分から血が大量に勢いよく噴出してる男子生徒の体があった。足元を見ると斬られた頭が転がっている。こいつやりやがった! 高校生で殺人を犯しやがった! だからあれほど止めとけって言ったのに!
「と、とにかく止血を!」
「いや手遅れだろこれ! か、隠せ! このままだと誰かしらはこの部室に来るぞ!」
「わ、分かった! ろ、ロッカーに!」
藤林と一緒にロッカーに死体を隠そうと必死になって慌てる。どのみちこの部屋中に散ってる血でバレそうだから手い言い訳を考えないとな。トマトジュースとか……無理あるかな? あるよな。
「お待たせー!」
「「あ」」
「え、何この赤いの。それに二人が持ってるのって――」
胡桃が入ってきた。まだ手にある死体を見てどんどん顔が青くなっていく胡桃。
「きゃああああああ!」
「待ってえええええ!」
「胡桃! 落ち着け! このことは内密に!」
バッドタイミング! くそったれな運命め! 俺は胡桃の背後に高速で回り込み手刀を首に落として気絶させた。ん? 待てよ? 何で俺は藤林を庇っているんだ? つい最近会ったばかりのやつを庇う必要なんてないよな? そう思い俺は携帯を取り出して電話をかけた。
「もしもし警さ――うわっ! 危ないな何すんだ!」
「こっちの台詞よ! アンタ何通報しようとしてんのよ!」
「いや別に庇う必要はないかと思って」
「遅れてごめーんってナニコレ」
「また目撃者増えた!」
「おい成瀬聞いてくれよ、藤林のやつが」
「アンタは何話そうとしてんのよ!」
「何だこれはあああああああ!」
「また! ってあれ? 誰もいない?」
唐突に声が聞こえた、でも扉にはいないし開けた音も聞こえなかった。まさか逃げたのかと思い廊下に出たが誰もいない。確かに男の声が聞こえたんだけどおかしいな、一体どこから?
「ここだよ! お前が今手に持ってるだろうが! 僕の頭をさあああ!」
「え?」
な、何だコレ? 死体のはずだ、死んだはずなんだ。なのに喋ってる? 頭だけなのに元気に喋ってる!? 気持ち悪っ! 俺は頭を手から放して床に落とした。
「痛っ! 何で放すんだよ! あ! 僕の体!」
「うそっ! こっちに頭が転がってきた!」
そして何が起きたのか、俺達はその光景を黙って見ていた。首無し死体が足元の頭を手に取って首にくっつけた。すると元から繋がっていたかのように首がくっついた、外傷はおそらく完治している。まあもう出た血はどうしようもない。そのままだから、部室が血塗れで殺人現場みたいだ。それから我に返った俺達は目が覚めた胡桃と一緒にどういうことなのかをその男に問いただした。
「不死者?」
「そう! 僕の能力は不死者、いや能力と言っても厳密にそうだと判明してるわけじゃないけど」
「そうなら早く言いなさいよ……人殺しちゃったと思ったじゃない」
「僕の力で傷は治っても流石に殺されたら意識が少し吹っ飛ぶんだよね。あと君は現に僕を殺したけどね」
「さっきのどういう意味だ? 能力は子供の頃に病院で検査されて分かるんじゃないのか?」
現代では子供は成長する過程で病院に検査に赴きそこで自分の能力が判明するのが多い。
「検査では無能力者だったんだ、でも子供の頃に気付いた。手に傷が出来てしまったときにその傷口が治っていくのを見たんだ。それから僕は実験を重ねてこの力を理解していった、これは異能と言うよりは体質に近いんだと僕は思ってる」
「体質か、なるほどな」
「驚かないんだね」
「いや驚いた、俺と同じだからな」
「え?」
俺もなのだ。病院では無能力者と判断された、でも何故か異能なのか分からないが身体強化し属する力が無意識に働いている。だが病院の検査の結果のせいで子供の頃は無能力者として扱われ両親以外からはよく思われていなかった。今ではその可愛がってくれた両親もいない、海外で事故に遭い死んでしまったから。
「僕達は案外似たもの同士なのかもね、僕は紫藤緋色。二年だよ」
「俺は進藤歩。同じく二年だ」
「アタシは一年の藤林未来。さっきはゴメンね先輩」
各々自己紹介を済ませ、一旦騒動は収まった。
「でもこの部屋の惨状はどうするんだ」
「うっ、アタシのせいよね……」
「そうだな」
「よし! 皆で今日は掃除しましょう! 最近部室の掃除してないから!」
「おー、掃除張り切っちゃうなー」
「まあ、アタシのせいだし」
「はぁ、何もしないよりはな」
「僕も手伝うよ」
それから季節でもないし何かの節目でもないが大掃除が始まった。埃も少し溜まっていて汚かった、まあそれより目立つ真っ赤なシミがそこら中にあるけど。一番胡桃が大活躍していた、普段掃除とかやってくれてるから動きがプロだ。
「お湯で拭くと血が固まっちゃうから水で濡らしたタオルで拭くんだ、何度かこすれば汚れはマシになるよ」
「細かいところを掃除するならめんぼうがオススメだよ、届かないところにも届くし汚れもよく取れるの」
プロか。家事のプロか。胡桃の知恵もあり大掃除は成功したとも言える。壁や床に着いた血も目立たなくなったし、埃一つない。ていうかここまでする必要あった?
「ふうぅーようやく終わったあ」
「大変なんだな掃除って、なんかいつもやらせて悪いな胡桃」
「ううん、私が好きでやってることだから」
「それでもお礼は言うよ」
「綺麗になったし! 時間も過ぎたし! 今日はこれで解散! お疲れ様!」
そして下校時刻になり皆帰っていった。
あれ? 紫藤って依頼人だったんじゃなかったっけ? 今日掃除だけやって帰っちゃったけど……まあいいか。