24 弟と束縛2
雷牙の体は一瞬光を放ち凄まじいスピードで移動を開始し、何回もフェイントを混ぜて進藤の背後に回り込むが進藤の目には全て見えていた。たとえ雷の力で移動速度が速かろうと進藤の身体強化には遠く及ばないということを雷牙自身も薄々感じてきていた。
「ハアッ、とんだ化け物だなあ」
「お互い様な、雷落としたりできるやつに言われたくはない」
「そうか? ……こんなことが出来ても上には上がいる。俺は大したことないんだ」
「……お前のその過小評価は何なんだ? お前は強いよ、勝てるやつなんてそういないはずだ。それなのにお前は自分が大したことがない? 過小評価にも程がある!」
「何でだ、事実だぜ? 俺は凡人、兄貴は超人、俺より下の奴等はただのゴミ。これが全てだ!」
雷牙は電気を纏い加速した拳を進藤に放つが避けられる、それを躱されても何度も攻撃を仕掛けるが全て躱される。進藤には余裕があるが雷牙にはない、全力の攻撃を仕掛けるも届かない。
「ふざけんな! お前のその考えは無能力者を蔑む奴等と同じようなもんだぞ!」
「ああそうさでも部長さん達をバカにしてるわけじゃねえ、所詮俺達は全員強者に喰われる雑魚なんだから」
「いい加減にしろ!」
「グッ!?」
移動していた雷牙の腹に進藤の拳がめり込み直線状に吹き飛び工場の残骸に激突した。進藤は飛び上がり追撃を加えるために拳を引くがその瞬間雷牙が雷のような速さで進藤に突っ込んで来た。多少の痛みはあったのか呻くが進藤は雷牙の頭を掴んで真下に投げ飛ばして自身もそこに降下していき両足で雷牙に向かって着地しようとするが雷牙は素早く起き上がりその場を数メートル離れる。雷牙がいなくなったことで進藤は普通に着地した。
「兄貴は強かった、完璧だった。今までに運動でも勉強でも喧嘩でも勝てたことがない、故に兄貴が俺の支配者だった」
「だから……なんだ」
「俺より遥か高みにいる兄貴には逆らえない、だからせめてこの手が届くように今まで努力は出来るだけした。でも今でも届かない、俺は逆らえない」
「……おかしいだろ」
「何だと」
「なんで兄弟で主従関係みたいになってる、競い合うのはいい、でも命令を聞くのは違う。強いから逆らえない? 違うだろ、お前は逆らう気がなかっただけだ! お前自身の意思はどこにある!?」
「……俺だってこんなことしたくない」
「なら――」
「でもやるしかない! 兄貴の強さを知らないからそんなことが言えるんだ!」
「何で強い奴に従わなきゃならない! 大事なのは自分の意思だ! 不満があるなら逆らえ、それは自分の心を束縛してるんだ……お前は笑ってた、解決部にいる時は楽しかったんだろ!? それを自分の手で壊すのか!?」
雷牙は激しく攻めながら、進藤はそれを防御しながら言葉を交わす。雨が降り続ける中彼等の戦いは長く続いた。
「楽しかった、友達が出来たみたいで嬉しかった!」
「寝ぼけんな! 俺らはとっくに友達で! 大切な、解決部の仲間なんだよ!」
「っ!? 俺達は……友達? 仲間? 寝ぼけてるのはどっちだ! 俺は敵だぞ!」
「そう言って自分に言い聞かせないといけないくらいお前は迷ってるんだよ、ずっと支配してきた兄と対等な仲間。どっちをとるのかなんて聞かなくてもいいよな!」
「敵、敵敵敵敵俺は敵なんだあ!」
「敵敵うるせえええ!」
その時、進藤は何をしたらいいのか分かったような気がした。あくまで敵と言い張るのなら敗北させてしまえばいい、敵――つまり自分達を倒すという目的を果たせなくすればいい。
「だから倒すぜ、雷牙!」
「消えろおお! 轟雷拳!」
今までと比べ物にならない程の電気が右拳に集中していく、それはバチバチと音を立てて進藤に向かうが進藤もまた拳を突き出していた。二つの拳が激突し一瞬拮抗し合ったように見えたが雷の右手を弾き飛ばし雷牙の顔にただの拳が突き刺さる。
雷牙は勢いよく吹き飛んでいき最初の戦闘開始地点から五百メートル以上離れていた現在の場所から工場跡地にまで吹き飛んでいった。進藤もその後を追いかけていき雷牙を見つけるとそこは開始地点で成瀬達が縛られている場所であり雷牙は気絶しているようだった。進藤は成瀬達の縄を解いて自由にする。
「雷牙君……」
「歩、このままでいいの? 縛っとく?」
「いや縛るな、いいんだよこれで。こいつは仲間だろ」
「進藤君……雷牙君をまだ」
「何だよ? お前も信じてたんだろ、ならずっと信じてろ。こいつは部活にいた時は楽しかったって言ってたぜ?」
「……そっか、うん。良かった」
それから雨は止み夕日が辺りをオレンジ色に染め始めた頃、雷牙の意識が目覚めた。
「俺は負けたんだな、使命を果たせなかったんだ」
「雷牙君!」
「そうだな、これで敵のお前は死んだも同然だ。強い奴には逆らえないだっけ? なら俺の方が強いからお前また戻って来いよ」
「……ハアァ……許してくれるのかよ? 俺は裏切り者だぜ」
「もちろんだよ、雷牙君は私達の仲間だもの!」
「まあ歩と部長がいいなら別にいいけどまたこんなことしたら許してあげないよ」
「藤林は少し厳しいかもしれないけどな、でも謝れば許すだろ」
「……また行っていいんならこれを受け取ってくれねえ?」
雷牙が成瀬に渡したのは入部届と書かれた紙。
「え、でも既に受け取って」
「改めてってことだよ部長さん、今日から本当の仲間ってことでな」
「生徒会長はいいのか?」
「……なんとかするさ、俺自身がケジメをつけなきゃいけないんだから」
こうして解決部には改めて志賀雷牙が入部したのだった。
* * * * * * * * *
宝天高校生徒会室にて雷牙は兄である竜牙と対峙していた。
「それで? 始末したのか」
「いや、それは出来なかった」
「……何故顔を出せる? なら早く始末しに行け」
「俺は! 解決部を、進藤を害することは出来ない」
「何?」
「友達なんだ、だからこれからは兄貴の敵になる。その前に教えてくれよ、何で進藤を狙うんだ」
「チッ、役立たずめ。俺に従わんのならお前に用はない、せいぜい自身の選択をあの世で後悔しろ」
竜牙が雷牙に向かって手を伸ばしたその時、ドアが開き二階堂が入って来たので竜牙は素早く手を引っ込めて冷静に何の用か問いかける。
「今日の報告に来たのですが……その必要はありませんでしたか」
「フン、お前達はすぐ帰れ。これ以上用がないならな」
雷牙は先程のことを思い出しゾッとしてしまう、結局竜牙に何故狙うのか聞き出すことは出来なかった。二階堂と共に雷牙も生徒会室を出ていく。
「さて、今日は来客が多いな。誰だ」
「気付かれてたか」
竜牙は窓の外をギロッと睨むと同時に姿を現したのは進藤だった。雷牙がケジメをつけに行くと言ったので心配になり見に来ていたのだ。
「……進藤歩か」
「そうだよ、でだ――お前屑だろ、見てたんだよ全部。自分の弟を何だと思ってる?」
「何だと? 言うことを聞く都合のいいゴミといったところか、最も今日でただのゴミになったわけだが」
「ふざけてんじゃねえぞ! もしまた誰かを脅して解決部に手出ししてみろ、ぶん殴るぞお前」
そう言うと進藤は外の木から飛び降りていなくなってしまう。その今までいた場所を見て竜牙は呟いた。
「……今回で邪魔になることは分かった。少し早い気もするが準備を始めよう、次は俺自身が引導を渡してやる」




