23 弟と束縛1
雨が降っている中、傘も差さずに走っている進藤。目的地はもう人も寄り付かない工場跡地だった。
――十分前、部室にて――
風紀委員長である氷室を倒し部室に戻ってきた進藤は倒れている藤林を起こし何があったか聞いていた。
「雷牙は……敵よ」
「……何だって?」
「あいつは伝言を私に伝えてわざと残していったの、アンタを向かわせるようにってね」
「いや待て、雷牙が敵!? 本当なのか?」
「本当よ、突然後ろから攻撃されて気を失う前に言われたの」
「それであいつは何処にいるんだ?」
「もう二十年ぐらい前に危険な兵器を作り出そうとしていて潰されたこの町の工場って有名でしょ、そこで待つって……言ってたわ。もちろん私も行くわよ」
藤林はそう言い終わると体を動かそうとするがダメージが酷いのか思うように体が動かずよろけてしまった、だがそこを進藤がまた受け止めて床に寝かせた。藤林は今の自分は足手まといになるだけだと感じて進藤にあとを託し目を閉じる。進藤はそれから急いで件の廃工場に向かっていった。
「ほっんとに……情けないわ、今の私」
――現在、廃工場にて――
もはや人も寄り付かないであろう工場跡地、二十年程前、つまり進藤達が生まれる前にこの場所では未来にやってくるナニカに対抗するためという工場長の指示で核兵器を上回る爆発物を作り出そうとしていたらしい。それらは結局完成する前に政府にバレて工場自体を取り壊されてしまった。今ではこの場所にはたくさんの瓦礫や備品などが散らばっているだけで誰も近寄りはしない。
そんな場所で雷牙は解決部にて攫ってきた成瀬と胡桃を近くの木に縛り付けていた。先程までは気絶していた二人だったが目を覚ますと縛られていることを認識し、自分達を縛ったであろう雷牙を見つめる。
「……どうして? 雷牙君、何でこんな……」
「部長、私達は騙されてたんだよ。最初から仲間や友達になる気なんてなかったんだ」
「でも……あの河原で貴方は助けてくれた。私はまだ信じてる、お願い――黙っていないで何か答えて」
「……仲良しごっこはもう終わりなんだよ部長さん、俺は元々アンタ等の仲間になる気なんてさらさらなかった」
「……そん、な」
絶縁宣言。いやもとより演技で友情や仲間意識などなかったという宣言に成瀬は俯いて動かなくなってしまう。胡桃も目からは涙が流れており、それが地面に落ちた時にその男は来た。
「ここにいたか!」
「進藤君……」
「歩!」
「……どうやら伝言は伝わったらしいな、しかし氷室さん負けるの早すぎだろ? 何か策があるって言ってたのに」
「その言動からお前はやっぱり敵なんだな」
「……ああ、俺は指令を受けて解決部に入った。部活の内容、部員の情報、それらを調べるためにな」
そう言った雷牙の制服の腕部分には今まで見せたことがなかった生徒会と書かれた勲章が付けられていた、それを見た進藤は何かを察したのか雷牙に問いかけた。
「黒幕は……生徒会長か?」
「……ああ、今回の風紀委員の件も西川も玉川も全て生徒会長に脅されてやったことだ」
「お前もじゃないのか」
「俺は違う、脅されてなんかいないぜ。あの人は……俺の兄だからな」
「嘘!? 雷牙君が生徒会長の!?」
「とにかく二人は返してもらうぞ」
「……いいぜ、俺に勝てたらな」
「二人とも! そんなことは止めて!」
進藤と雷牙は歩いて距離を詰めていく、成瀬のその言葉に進藤の足は一瞬止まったが雷牙の方は止まらず急加速した。それはまるで電気が走るかのような速さ、電光石火と呼んでもおかしくはない程だった。
「何!?」
だがそれほどの速さをもってしても進藤の身体能力には届かなかった、前へ繰り出した拳は片手で止められてしまう。それに驚いた雷牙だがその次の行動をすぐに起こす、左手に電気を纏わせ前に突き出す。当たれば気絶してしまう電撃だがそれも進藤には効かなかった、まるで電気が進藤に当たった瞬間に霧散してしまったかのように雷牙には見えていた。
「何だ……そりゃ」
「何だ……これ」
しかしその光景に驚いているのは雷牙だけではなく本人である進藤もだった。
(な、何が起こったんだ!? 電気が当たった瞬間に消えた、これは反応から雷牙がわざとやったとかじゃなさそうだ。なら……これは何だ? 今まで電撃をというか異能の炎なんかが俺に当たったことはないから今回が初めてで何が起きたのかは分からない、でも俺に電撃は……効かない?)
* * * * * * * * *
氷室は目を覚ますと屋根がある校舎の陰で眠っていたことに気付く、そしてその場所にあの殺しかけた進藤が運んでくれたのだとも気付いた。もしも運ばれなければ雨が降る場所で放置され風邪でも引いていただろう。
「おや、起きましたか」
「あ、君は副会長か」
「その様子だと負けてしまったようですね、つまり今頃雷牙君が動き出しているはず」
生徒会副会長である二階堂が氷室の傍で立っていた。
「これで妹の件は……」
「ええ、会長は取り合わないでしょう。貴方は負けたのですから」
「ハハ……まあそうだろうね、でも僕は賭けることにしたんだ。進藤君にね」
「貴方の妹の病気は確か不治の病でしょう、誰かにどうにかできるとは思えませんが」
「……それは生徒会長でも?」
「……ええ、正直なところ会長がその病気を治せる方法を知っているのか疑っていました。それでも一人の友人として僕は会長を信じている」
「でも信じるのはいいけど間違っているのを更生させるのも友の役目なんじゃないかな、副会長。貴方はいつまでアレに付いている?」
二階堂は心の中で悩んでいた。友として信じるか、それとも嘘だと決めつけて説教をするか。
「それにしても進藤君の能力はいったい何なんだい? まさかあんな力を持っているなんて」
「彼の能力は身体強化ですよ、まあ強さは他と比較出来ないですがね」
それを聞いて氷室は考え込んだ。いったいどこに考え込む要素があったのかと不思議に思う二階堂だが氷室の言葉を聞いて驚愕することになる。
「それはおかしい。彼は少なくとも二つは力を持ってる、身体強化と……異能の無効化」
「異能の無効化? 何を言って」
「僕の氷を彼は殴って破壊していた――かのように最初は見えていた。でもよく見ればあれは氷に触れた瞬間氷の方から崩れ去っていくようだった。幻とかじゃなく本当に触れたその部分から崩れ去っていた」
「そんなものがあったら誰も……」
「うん、この世界がひっくり返るだろうね」
* * * * * * * * *
進藤と雷牙の戦いは再び始まり空から落雷が進藤に向かって落ちてくる――が進藤はダメージなどなかった。落雷も雷牙の異能の一つであり消された、つまり効かないのだ。雷牙はその光景を見てやっぱりかと唇を噛む。
「異能での、電気が通じねえか。異能の無効化? 笑えねえ力だぜ?」
「俺もさっき知ったから驚いてるんだけどな」
「だいたい能力が二つってのがもう前代未聞だろ、異能は一人一つしか持ってねえはずなんだ」
「騒がれるのは嫌いだ、内緒にしろよ?」
「ああ、だが弱点はある! お前の無効化はダメージを与える異能にのみ発動する、もし全て消えるなら俺の速さも発揮できないからな。つまりお前は殴って倒せばいい!」
「やれるもんならな」
進藤と雷牙は互いに拳を握り、超スピードの殴り合いが展開されていった。




