22 風紀委員と強行手段2
進藤家の目の前に眼鏡を掛けた知的そうな外見の少女がいた。
「住所を見る限りここね、進藤って書いてあるし」
この少女は風紀委員の一員であり委員長の氷室の右腕とも呼べる雨宮静香。彼女は氷室に進藤歩の家を精神的に追い詰めるための保険として破壊するように指示されていた。少し哀れそうな表情をし進藤家を見つめる。
「可哀想ね、でも許して。氷室様には理由がある、何を犠牲にしてでも守りたいものがある、だからごめんなさい」
雲行きが怪しくなり始めて黒い雲から雨が降り出してきた。雨宮の能力は雨を降らせる力だった、ただしそれは普通の雨ではなかった。
「斬雨」
その雨はまるで小さいがナイフのような形をしていた、それは本物のナイフを凌駕する切れ味を持つ水のナイフ。それは進藤家だけに集中的に降り注ぎ家は切り裂かれる――筈だった。
「え、何? あれは魔法陣?」
家を覆うように魔法陣が現れてそれが雨を弾いている。その光景を雨宮は見たことがなく能力者の仕業だと思ったが近くにそんな人影はない。
「うるさいと思ったら防御用魔法陣が発動してるし、何貴女?」
「はっ!? いつの間に後ろに!? あ、あなたこそ誰ですか?」
「私はジルマ、そこに住んでるの。で貴女は?」
「わ、私は宝天高校風紀委員所属の雨宮静香です! そこに住んでいる?」
「ええそうよ、居候だけど。ところで貴女この家に攻撃したわよね、つまり敵……よね?」
瞬間、雨宮の目にはジルマの目がまるで獲物を狩る時の猟師のように見えた。すぐにジルマから離れて斬雨をジルマに向かって集中させる、だがそれは家と同じ魔法陣に当たり防がれてしまう。
「それは! 成程貴女の仕業ですか、調査では水瀬胡桃と二人暮らしだと報告を受けていましたが間違っていたようですね」
「どうでもいいけど殺しはしないからとっとと立ち去ってくれない?」
「それは無理よ、私の役目はこの家の破壊。邪魔をするなら貴女か――」
「熱き炎我が魔を喰らい放出せん、ファイアーボール」
「――っ!?」
ジルマが呪文を唱え終わった時、手のひらから直径一メートルはある炎の塊が放出された。それが自分にぶつかる前に雨宮は今降らせている雨を自分の前方に集中させて滝のようなものを作り出して炎を消火する。
「……どういうこと? 貴女の能力は魔法陣のようなもので防御するだけじゃ」
「能力? これは魔法よ」
「魔法? 能力のことをそう呼ぶ人はいるわ、でもそんな非科学的な力はない」
「魔法は非科学的で能力は違うの? それはちょっとおかしいんじゃないかしら」
「私達が使う能力は空気中に含まれている謎の物質が作用して使えるようになると証明されてるもの、科学的に証明されていればそれは現実に存在しているわ……それと聞こえてるわ!」
雨宮が話している途中でジルマは詠唱を小声で開始してファイアーボールを繰り出したがまた先程のように消火されてしまう。
「どうやら貴女に炎は相性が悪いみたいね」
「そういうこと、少し驚いたけどね。……貫雨」
貫雨。そう言った瞬間雨の形は鋭く尖った槍のように変化する。ジルマは防御用魔法陣でそれを防ごうとするが尖った雨は魔法陣を貫通した。それにジルマは驚いた表情を浮かべつつも冷静に躱し詠唱を開始する。
「空間の神よ我が身を運べ、テレポート。そして暗闇よ星の光を消し飛ばせ、ダークネス」
「消えた!? それに視界も!?」
テレポートで雨宮の後ろに瞬間移動し、ダークネスで雨宮の視界を奪った。雨宮は突如起きた自身の変化に動揺し動けないでいた。
「雷よその力を我に分けたまえ、放て。サンダーシュート」
「うっぐっ!?」
背後から襲った電撃、雨宮は自分が何で倒されたのかも分からずに暗い闇の中で地に伏せてしまった。ジルマはそんな雨宮を放置し何かが起きていることを悟り自身が共に暮らしている者達の安全を願い、家の中に戻っていった。
* * * * * * * * *
時同じくして宝天高校校舎裏にてでかい氷柱を落とす氷室の大氷柱落としが進藤に向かって放たれた。だがその落ちるまでの時間に進藤は走り出し氷室との距離を詰める。
「なっ! 聞いていたのか! 君の家が破壊されるぞ!」
「聞いてたよ! でも一応頼りにしてるんでな!」
「クッ、何の話だ!?」
僅かな間に氷室との距離を詰めた進藤は地面に尖った氷の何かが落ちていることに気付いた。
「氷撒菱、足元に注意しなければね?」
だが進藤はそれに構わずに氷撒菱を踏み抜いて殴る態勢に移った、氷は足には刺さることなく粉々になっていた。あと一歩のところまで追い詰められた氷室は切り札を使うことを決心した、その技は体力を削り氷をもう生成出来なくなるが莫大な量の氷を一度に生成出来るものだった。
「氷結の塔!」
進藤は突如自身がいる場所に現れた塔に飲み込まれて閉じ込められた、その塔は入口も窓もない密室空間で中に居る者は凍死という選択肢しかない恐ろしい技――だがそれは一瞬で破られた。進藤が殴って破壊してそのまま塔の上から落下し、そのスピードを利用し威力を増大させた拳を氷室の頭に叩き込んだ。氷室は勢いよく地面に顔面をぶつけてバキッと何かが折れる音がした。
進藤は倒れた氷室を確認し部室に戻った成瀬達を追おうとしたが、背後から何者かの気配がし振り返った。そこには足をガクガクと震わせ無理にでも立とうとしている氷室の姿があった。
「……もう止めとけよ、無理すると死ぬぞ」
「負ける、わけには、いかな、い。僕は……負けな……い!」
「何がそこまでさせるんだ、何の為に戦ってる」
「妹が……病気、医者に見せても、何も分からなかった……不治の病、だと診断さ、れた」
「……まさか黒幕がその妹を治すとでも言ったのか」
「そう、だ。僕はもう、それに賭けるしか……ないから!」
氷室は先程から進藤に向かって歩み始めていた、一歩、また一歩と時間を掛けて歩き近づいていく。震える足でついに進藤へと辿り着いた氷室は拳を引き進藤を殴りつけた、しかし殴ったと同時に地面に倒れてしまうがその体を進藤は受け止めゆっくりと地面に寝かせた。
「医者にも原因不明の不治の病を治せるものに心当たりはある、後は任せとけ」
進藤はそう言うとその場を離れて解決部の部室の前まで急いで戻ってきた、その道中には風紀委員の生徒が何十人も倒れており激戦だったことが分かる。しかし部室の扉を開けると倒れていたのは風紀委員ではなく藤林だけだった。
「おい! しっかりしろ!」
「……ぅ……あ? 進藤……せんぱ――アンタ……勝ったわけ」
「お前……いや今はいいか、他の皆はどこだ。成瀬は、雷牙は、胡桃は!?」
風紀委員長を倒しても――事件はまだ解決していなかった。
次回サブタイトルが違いますがちゃんと続いています。




