21 風紀委員と強行手段1
とある河原にて男子高校生の喧嘩が繰り広げられていた。一人を残してそれ以外は全員地に倒れ伏している。
「ハッハッハッ! 俺が最強だ! ここらじゃ俺がナンバーワンだ!」
「酷い怪我だな」
「ええ、何人かは確実に入院コースですね」
「誰だテメエ等?」
高笑いをしていた不良の男は声がした方向に振り向くとそこには美形の男と知的そうな女がいた。両方とも腕の部分に風紀と書かれた勲章を付けており、それを見た不良は見覚えがあることに気が付いた。
「その勲章、宝天高校の風紀委員か! 良い子ちゃんが! 気に入らねえんだ――」
不良は最後まで喋ることはなく一瞬で氷漬けになってしまった。そんなことも気にせずに風紀委員である二人は倒れている宝天高校の生徒だけを担ぎその場を離れて行った。
* * * * * * * * *
あの催眠術師の一件から数日。俺はあの時西川を殺した犯人の顔を見れなかった、何故ならその人物は上空にいたうえに黒のローブを着ていて顔がよく見えなかったからだ。そしてこの黒ローブについて引っ掛かったのは以前魔法使いの里に行った時に聞いた話、里に観光客だったのか黒ローブの人間が来ていてその男が立ち去ってからすぐに奇病が流行り始めたらしいということ。もしかすれば同一人物かもしれない、そう思って探そうとするも情報通の楠木ですら何も知らなかったのでお手上げ状態だ。
「よっ」
「これで全員揃ったわね」
「今日も依頼人来るかな」
「本当なら依頼なんて無い方がいいんだけどね、その方が悩みがないってことなんだから」
解決部にいつものように顔を出すと既に全員揃っていた。俺と成瀬以外は西川のことを知らないのでいつも通りに過ごしているようだ、まあ無理に話して場を悪くするのも良くないしな。
コンコンとノックの音がしてドアが開く、そこには風紀と書いてある勲章が腕にある険しい顔をした男がいた。この勲章は風紀委員か、一体何の用だ? 依頼なんてするタイプのやつじゃなさそうなのに。
「実は校舎裏で大量の雑草が生えてきてしまって手が足りない、能力者の悪戯だと思うがな。ここには無能力者の者がいるが草むしりくらい出来るだろう? 手伝え」
「……ええ、分かりました。校舎裏の草むしりですね」
何だこいつ、ムカつくな。上から目線だし無能力者を見下してるのが態度に出すぎだ、風紀委員のくせに……こんな奴が風紀乱してるんじゃないのか? とりあえずじっとしてても始まらないので俺達は校舎裏に行くことにした。
「な、に?」
「どうなっているんだ?」
「これは……」
校舎裏に行ってみると俺達は動揺した。雑草がものすごい生えてるからじゃない、一本も生えていないからだ。何だよこれ、騙されたのか? するとそこに一人の男がやって来た、その男も風紀の勲章を着けている。
「どうも解決部の皆さん、お仕事ご苦労様です」
「え、ええどうも。そちらこそもう雑草はないようですけど随分早く終わったんですね? 人手が足りないと聞いたんですけど」
「ええそうですね、足りないですよ今回の作戦は無茶苦茶ですから」
「作戦?」
「貴方達を潰す計画です」
「何!?」
まさか風紀委員は西川のように脅されて、それともまさか黒幕!? それにしても潰すというなら何故一人なんだ? 他にもいていい気がするんだけど。
「僕一人なのが気になりますか? 申し遅れたんですが僕は風紀委員長の氷室風哉と申します、この場にいるのが僕一人なのは僕一人で十分だからですよ、残りの人たちは皆貴方達の部室の方を片付けにいっています」
「私達の部室を!?」
「それって今滅茶苦茶にされてるってこと!?」
「それじゃ早く戻らないとヤバいんじゃねえか?」
「急いで戻らないと! きゃっ!?」
突然部室に戻ろうとした成瀬の足元に氷柱が飛んできて地面に突き刺さった、もしこれが肉体に当てられたならばやすやすと貫通してしまうだろう。これがあの氷室の能力か!
「そう簡単に戻らせたりはしませんよ」
「させるか!」
「……ほう」
俺は成瀬の方に向けて飛んできた氷柱を素手で砕いた、それを見て氷室は感心したかのような表情をしている。
「ここは俺一人で十分だ! お前ら全員部室に戻れ!」
「で、でも」
「大丈夫だ信頼しろ! こんな奴には負けない!」
飛んできた氷柱を砕きながら成瀬と俺は見つめ合う。
「分かったわ……必ず無事でいて!」
「了解っと」
成瀬達は走って部室の方に戻っていった。
「凄いなあ、君は。この氷柱は時速二百キロ以上出てるってのに」
「まあ俺は強さがとりえみたいなものだからな、それより聞きたいことがあるんだけどよ。お前ら黒ローブとはどういう関係だ?」
「黒ローブ? いったい誰のことだい?」
何? 本当に知らないのか? ということは氷室や風紀委員もまた黒幕に脅されたかして従ってるだけなのか。
「まあいい、狙いは君だ。君を殺せば僕の目的は果たされる」
「狙いは俺か、いいぜ? かかってこいよ」
「フフ、言われなくても!」
氷室は右手をこちらに翳して氷の礫を無から作り出して放出してくる、それを全て拳で砕いてガードするがその防ぎ終わったと思った瞬間に真上から先程の氷柱とは比べ物にならない大きさの氷柱が落ちてきた。
「大氷柱落とし」
「……物騒な技だな」
「なっ!? 後ろだと!?」
「そらっ!」
俺はその氷柱を高速で躱し超スピードで氷室の背後に回り込み殴ろうとするがその拳は氷室に届く前に何かにぶつかった。氷だ、まるで紙のように薄い氷の壁が氷室の周囲に何枚もあった。強度は氷といってもまるで鉄並だがそんなものは何でもないかのように叩き割っていく。
「僕の氷をいとも簡単に砕くことができるとは驚いたね、でも僕の能力はわりと応用が利くんだよ」
氷室に近寄ろうとした時、地面から何かが来るのを感じた。嫌な予感がしたのでその場を離れる、先程までいた場所には地面から氷で出来たであろう透明な槍が突き出ていた。そしてまたそれを感じ取り連続で地面から出てくる槍を躱していく、走りながら氷室に近づき殴りかかるが突如空中から氷の剣が一本現れ回転しながら襲い掛かってきたので氷室への攻撃を止めて剣を砕く。
だが考えが正しければ弱点は見つけた。先程から氷で一度に何かを作るのは一個単位でしか作っていない、もし多数同時に作れるなら俺の周囲に槍をいくつも作って囲み串刺しにすれば勝つのは簡単な筈だがそれをしないということは単体でしか作れないということだ。
(もしかして気付かれたか? もしそうなら厄介だな、身体能力は圧倒的にあちらが上だ。こうなればあのことを言うしかないか)
「うおお!」
「実は君に一つ言っていなかったことがあるんだけど」
「おりゃっ! 何だ!?」
「今君の家を僕の部下が破壊しに行っている」
「な、何!?」
「君のことを調べていたとき既に両親が死んでいることが判明した、あの家は君の両親の形見のようなもの。違うかな?」
確かにあの家は両親が残してくれた数少ない形あるものの一つ、思い出もたくさんある。そんな大切な場所を破壊だって?
「僕の指示で破壊は止められる、だから僕を倒さない方が良い。君の思い出がなくなってもいいなら構わないけれど君はそんなタイプじゃない、だから頼むよ。このまま何の抵抗もせずに死んでくれ、大氷柱落とし」
その言葉の直後、俺の頭上から直径三十メートルはありそうなバカでかい氷の三角錐が落ちてきた。




