20 無能力者と催眠術師
今回は前回のようなものではなくシリアス80%はいったはずです。
解決部、私が作った人助けの部活動。私、成瀬玲美は幼い頃から人の役に立ちたかった、そうすることで自分の生まれてきた意味があると信じられるから。だが今日は部活動は休みにした、何故なら生徒会室に呼び出されたからだ。そしていざ生徒会室に行って話を聞けばふざけた話だった。
「進藤歩を退部させろ」
この一言である。何故生徒会長の頼みとはいえ大切な部員を辞めさせないといけないのか、そう疑問に思って何故か聞いてみても危険分子だとか言ってよく分からない。あの進藤君が危険? とてもそうは見えない。
「ならばもういい、手間を取らせたな」
「はい。失礼します」
結局何だったの? 彼は良い人だ。無能力者は嫌いだという人が多い中で気にしないで接してくれる、新しく入ってくれた雷牙君も同様に。あれ? そういえば志賀って名字って生徒会長もそうだったような気がする。
「それでねー」
「え、じゃあ家に泊まる?」
「そこまではいいわよ」
あっ、あの二人は部活仲間で友達の未来ちゃんと胡桃ちゃんだ。二人は仲が良くどちらも入りたい部活動に入れてもらえなかったから解決部に来てくれた。二人も進藤君も雷牙君も皆仲間で友達だ。
「二人とも今帰り?」
「えっ、はい。そうですけど」
あれ? 何だろう? 何かよそよそしい? 未来ちゃんは私には敬語使うから分かりにくいけど何だか様子が変だ。
「へえ、私もこれから帰りなんだけど一緒に帰らない?」
「え!? えっと、遠慮します」
「ちょ、ちょっと未来ちゃんこの人知り合い?」
「いや知らないわ、変なのに絡まれたわね」
「え? ちょっと待ってそんなボケはいらないから」
「いやボケてないですよ、先輩とは初対面ですし」
え? 初対面? 毎日のように顔を合わせているのに? 私覚えられてないの?
「胡桃ちゃん! 貴女はもちろん覚えてるでしょ!?」
「え? えっと私と先輩ってどこかで会ったことありましたっけ?」
「部活で! 解決部で会ってるでしょ!?」
「部活? 私達部活には入ってないんですけど」
嘘でしょ? 覚えていない、私のことも部活のことも。私がショックを受けている間に二人は走ってどこかに行ってしまった、でもそれを追いかける気にもなれない。これは明らかに何か特殊な力が働いてる、二人が覚えていないはずがない! 記憶操作? 誰がやったか知らないけど絶対に許さないわ。
でも動こうにも今は何も分からない。明日になれば何か分かるかもしれないけれどもし分からなければずっとこのまま、あの二人だけじゃなくて他にも被害が拡大するかもしれない。そうだ! 聞いた話ではオカルト研究会の人に百発百中の占いをするって人がいるって話題になってたわね、試す価値はある。そう結論付けた私はオカルト研究会の部室に行って占ってもらった。
「犯人は男ね、それと頼れる者が必ずいるわ、その人を頼りにしなさい」
「頼れる者?」
それはきっと占いをしてくれた自分のことなのでは? 犯人については男という点しか分からなかったがこれで容疑者は半分に減ったと言ってもいい。明日から調査開始ね。
そして翌日の昼休みになり何か手がかりがないか個人的に頑張って調べてみたが何も進展なし。せめて胡桃ちゃん達に話が聞ければいいんだけど今の私って二人から良く思われてないみたいだし無理かな。悩んでいると昨日占ってもらった女の子を見かけたのでお礼を言おうと思い声を掛けた、しかしここで私にとって予想外なことが起きた。
「え? 占いは昨日はしていなかったはずなのだけど……」
「……え、そうだった、かしら? ごめんなさい勘違いだったみたい!」
どういうこと? 昨日会ったばかりの彼女まで記憶を消されてる? でもクラスの人や先生は私のことを覚えてたからおかしい、何故彼女の記憶が消されたの? まさか犯人は占いのことを知っててバレると焦ったから記憶を消したの? ということは犯人はやっぱりこの学校の生徒ね、そして占いで判明した男子だということが手がかり。
「おいふざけんな、俺の弁当を返せ」
「いいじゃん別に毎日食べてるんだから」
「じゃあ今日も食べさせろよ」
「大丈夫大丈夫このピーマンだけは残しておいてあげるって」
「ほぼ残らないんだけど!?」
あれは進藤君と誰かしら? 声を掛けようとしてふと気が付く。進藤君もどうせ私のことを覚えていないだろう、二人のように記憶を消されてるはず。声を掛けても無駄だ、だから何事もないように知り合いですらないかのように通り過ぎた――のだが。
「あ、待て成瀬。そういえば昨日は何で部活なかったんだ?」
「え!?」
「どうした?」
「私のこと……覚えてるの?」
「俺そんなに記憶力悪いイメージだったの!?」
嘘……進藤君は覚えてる? 関係性でいうならもう消されているはずなのに、もしかして占いでの頼れる者っていうのは進藤君のこと? もし仮にそうなら事情を話さないといけないので私は今の状況を全て話した。
「そんなことが起きてたのか……昨日そういえば俺のところにも誰か来たような気がするけど思い出せないな。分かった、二人には俺から心当たりないか聞いてみる。記憶を消されるときに犯人を見たかもしれないし、いや犯人の記憶もなくなってるか?」
「それにこの学校に記憶操作の能力の生徒なんていないよ、もちろん教師もね」
記憶操作はいない? この子まさか生徒全員の能力を暗記してるの!? 進藤君の知り合いっておかしい人ばかりね、でもいないはずがない。占いの噂は校内にしか流れていない、私が接触したのも昨日だしその時点で残っていた人物じゃないと犯行は不可能なんだから。とにかくそれぞれ情報収集を開始した。
三時間程経ち放課後、また集まって情報を整理する。すると進藤君が重大なことを言い出した。
「胡桃と藤林に聞いたんだが二人は誰かに何かされたなんてのは覚えてなかった、でもそれを見ているやつがいた」
「目撃者が!?」
「ああ、黒井を覚えてるか? あいつだよ、偶然だったらしいぞ。外の木に登っていたところで藤林達が妙な男と話をしてたってな」
「その容姿は!?」
「落ち着け、確かパーカーに眼鏡をかけてたってさ。放課後にならその格好でも怒られはしないからな」
「パーカーに眼鏡? もしかして……西川明次かも」
二人のおかげで犯人が一気に絞れた。西川明次、そういえば最近問題を起こしたって噂があったわね。
「西川の能力は催眠術だよ、記憶も消されたというより知らないと思い込まされているだけなのかも」
「じゃあ後はそいつの居場所だが」
「それなら最近は人目につかない屋上によくいるみたい、まあ性犯罪犯しちゃったんだからまともに歩けないってことでしょ」
「今サラッと凄いこといったな、性犯罪? マジで?」
「大マジです」
そして屋上に行くとあの子の読み通りパーカー眼鏡の男、西川がいた。私達がここに来たことに驚いているみたい。
「どうしてここが」
「貴方が皆の記憶を催眠術で封じ込めたのは分かっているわ! 早く能力を解除して!」
「そういうこった、全部もう分かってんだよ」
「観念してねえ」
「ハハッ、仕方ねえな。これはあんまり使いたくなかったんだが!」
何? 西川が懐から取り出したのは五円玉に紐が括りつけられたもの。それを左右に揺らして何かを呟いている。
「二人ともあれを見るな! 催眠術だ!」
「正解! だが掛ける対象はお前達じゃない! 俺だあ!」
そう言った瞬間変化は訪れた。西川の筋肉が肥大化し始め服が破れた――上下両方が。
「うわっ! 今度は露出狂だよ!」
「言ってる場合か! 催眠術ってあんなのも出来んのか!?」
「そのとおり! そして強化された俺はそこらの不良を瞬殺する力を秘めている! 今まで何人も病院送りにしてゴミを排除してきたのだ! さあお前達もここで消してやヴォウフッ!?」
「長い!」
「えぇ?」
あんなに凄そうな筋肉男を一撃で? 強いとは思ってたけど進藤君ってこんなに強かったの!? 何だか最終決戦がすぐに終わると虚しくなってくるように今私は複雑な気分だわ。
「ヒッ!? やめろ来るな! 悪かった! 俺も脅されてやっただけなんだ!」
「そいつは何処の誰だ」
「お前達を潰したがってるのはせい――」
グシャッ! そんな音と共に西川は喋らなくなった。突如飛来した何かによって頭を潰されてしまったからだ、私はそんな光景を最後に意識を失った。目覚めた時、事件は無事に解決したと進藤君が言っていたけどアレはどうも解決したという顔ではなく今までにないくらい険しい顔だった。




