1 無能力者と常識
進藤 歩……ツンツンしている髪型。基本的には善人だと思われる。生活に影響するタイムせールのことを大事に思っている。適当な性格をしているがやると決めたことはやる。
俺、進藤歩は今大変困った状況下にいる。このままではタイムセールに遅れてしまう――いやそれも大事だが今は違う、罰として連れてこられた解決部は部員全員が無能力者。依頼をこなせって言ったってそもそも依頼があまりこない、どうしろってんだ? それに先生も事情を説明したら「じゃあ後は自分で頼むよ」とか言って行っちゃったし……とりあえず入るか、入らなきゃいつまでも進まないしな。
「失礼しまーす」
「あ」
「え?」
ドアをガラガラと開けた瞬間、顔のすぐ横を何かが通り過ぎた――それは刀! 刀身はきれいに磨かれていて手入れをよくしてあると見ただけで分かった。でも……。
「危ねええええ! 髪だけで良かったあああ! おい! 何で入口付近で素振りしてんだよ! しかも真剣で! 危ないだろ!」
「ご、ゴメン……いつも人が来ないから入口でも構わないかと思って」
「そもそも部室で素振りをするなよ! 剣道部じゃないんだぞ!」
「ええとほんとゴメン、って誰?」
「依頼人かな?」
「あ! 歩!」
「え、胡桃!? お前ここの部員だったのか?」
胡桃のやつ部活に入っているとは言ってたけどここだったのか、道理で見ないわけだ。てっきり家庭科部とかだと思ってたけど。
「あれ? 胡桃の知り合いなの?」
「うん! 部長に紹介すると同棲してる夫の歩だよ!」
「その言い方は誤解をって誰が夫だ! あとお前居候だからな!?」
「不潔ね、斬ってあげようか?」
「何処を!?」
怖い! この刀女怖いよ! 目線がどこを斬るか物語ってるよ!?
「俺はただ入部しに来ただけだ、佐藤先生に言われてな」
「佐藤先生に? じゃあ依頼じゃないのか……まあいいかな、歓迎するよ。私は二年で部長の成瀬玲美」
「入部希望か、なら歓迎するわよ。アタシは一年の藤林未来、さっきはゴメンね」
「ああ、よろしくな二人共。俺は二年の進藤歩だ、これからよろしく頼む」
「私はみな――」
「お前のことは知ってるからいい」
「酷い!」
「それじゃ俺そろそろ帰るわ、じゃあな」
「うんじゃあねって早すぎでしょ! 歩来て三分かそこらよ!?」
「俺大事な用があるんだよ」
「用って?」
「タイムセール」
「舐めてんの?」
「いや舐めてねえよ! こっちは割とこれに命かかって――」
「そんなことより! アンタ! 胡桃と同棲ってどういうことよ!」
居候だよ! 藤林気にしすぎだろ! あと刀を人に向けるな!
結局その日、質問攻めにされてタイムセールには間に合わずに夕食は白米にもやしと卵を乗っけて醤油をかけたもののみになった……鶏肉にこだわってたわけじゃないけど肉が欲しかった!
翌日、教室に行くと楠木がニヤニヤしながら近づいてきた。
「ねえねえ、解決部に入ったんだってえ?」
「お前何で知ってるんだよ、昨日のことだぞ?」
「フフ、くるみんに電話で聞いたよ。罰で入部、しかもそこは無能力者の溜まり場と来たらこれはネタにするしかないでしょ!」
するな! 胡桃のやつ誰かに電話してると思ったらこいつに電話したのかよ、一番しちゃいけない相手だ。一度話したら最後、面白いと思ったことは洗いざらい吐かされる。どうせすぐ情報を手に入れてくるし翌日にはからかわれるって思ってたけど。
「なあ楠木、お前は嫌いじゃないか? 無能力者」
「分かりきってるでしょそんなの」
確かに分かりきってる、楠木は無能力者を嘲笑うようなやつらではない。今更なことを聞いちゃったな、でも世間では異常と言われて差別されることに変わりはない。新聞部は校内活動だけど記事になったら悪い噂も当然流れるだろう、余計なことはしないように釘を刺しておかなきゃな。
「記事にはするなよ?」
「え? あ、ごめーんもうしちゃったから手遅れ! 明日の今頃食堂にたくさん張り出されてるよ」
「何てことしてんだ……! 無能力者が差別されるような内容は書いてないよな?」
「もちろん、だって友達が無能力者なのに差別を広げるようなことするわけないじゃん」
真顔でそんなことを言う楠木、こういうことは真剣だ。楠木にとっても胡桃は中学校からの付き合いで親友だからな。
そして放課後部室に顔を出した、扉を開けて中に入ると成瀬は意外そうな目を向けてきたのでその理由を聞くと初日だけ来てサボるつもりだと思っていたらしい。
「そんなに不真面目に見えたか?」
「えっと、だって誰だって嫌でしょ……無能力者と一緒に部活動なんて」
「そんなわけないだろ、差別が酷いのは知ってる。でもいじめを受けているからそいつとは関わらないなんて薄情なやつにはなってないつもりだ。俺はこの場所に居続けるさ」
「まあアタシと胡桃は信じてたわよ? アンタのこと」
「胡桃はともかくお前もか?」
「まあね、胡桃が信頼してるんだもん。それに一緒に住んでるのに差別するとか最低だしもししてたらアンタの体を真っ二つにしてたわ」
「サラッと怖いことを言うなよ……」
「じゃあ今日もよろしくね」
「ああ」
それから一時間。俺と胡桃は読書、藤林は真剣で素振りってまたか。部長である成瀬は何かの課題をやっているのかペンをひたすら動かしている……その間に誰一人この部室に訪れることはなかった。
「いや誰も来ないじゃん、俺ひたすら読書しかしてないんだけど。これ文芸部と変わらなくね? いつも人少ないとは言ってたけど少ないっていうかゼロじゃん、全く来ないじゃん」
「……えっとおかしいなあー、いつもならもう来るんだけどなあ」
「本当か?」
「本当よ? だってたまに顧問が顔出すし」
藤林が言うには顧問がほとんどで依頼などほぼ来ないらしい。え、そんなレベル? これは……うん、暇だ。やることないし、だってこれ毎日二時間くらい自由時間ってことだろ? 俺そんなことしてる暇ないわ、だってスーパーで安い食品見て回らなきゃいけないんだよ。
「気になったんだけどさあ、何でこの部を作ったんだ?」
「どうして作ったって分かったの?」
「そりゃあ誰からも認知されてなくて部員もこれだけ、これだけじゃ弱いか?」
「まあ推測は合ってるわ、この部は私が四月辺りに作ったの」
「じゃあだいたい一か月前か? まだ作ったばっかじゃないか」
「いえ、作ったのは私が一年の頃、つまりもう一年以上は経っているわ」
そんな前から!? 一年の四月って部活どこ入るか決めるとこだろ? 入学して早々に部活作ろうなんて言うやつ会ったことないぞ。でもつまりそれは一年の頃は部員が成瀬一人ってことを意味している、誰も仲間が出来なかったってことだ。
「理由だったわね、私は証を残したかったの、無能力者でも人の役に立てるっていう証明をしたかった。無能力者だというだけで差別される今の時代、せめてこの学校だけでもそれをなくしたかった。元々人助けみたいな誰かの役に立つことが大好きでね、だからここでも役に立ちたかった……そんなところかな」
「凄いなお前、そうやって行動出来ることでさえ凄いのに一年間折れずに頑張ってきたんだろ? 俺には真似できないよ、無能力者とか異能力者とか関係なくそれを聞いてお前のこと尊敬できるよ」
「ええ!? 何!? そんなこと言っても何も出ないわよ!? あ、飴食べる?」
顔を真っ赤に染めた成瀬はブンブンと手を振り回しながら飴をこちらに差し出してくる……何も出ないんじゃないのか。
「ああ、貰うよ」
飴を受け取りながら思う。成瀬の意思は強い、さっきの話を聞いて俺は成瀬のことを手伝いたいと思った。これからこの学校の差別をなくす、遠い道のりだろうけどやろう。俺は一人気合を入れた。
成瀬 玲美……髪型はロングストレート。顔は整っていて性格は優しい、諦めが悪い。折れない意思を持ち人助けが好きな女子生徒
藤林 未来……髪型はツインテールでツンデレというテンプレを踏んだ少女。家は藤林流という剣術道場でありわりと有名である。尚、この現代で刀を持って何も言われないのは漫画や小説だから! というわけではなく異能力者で溢れているこの世界では銃刀法違反などない。自衛などで使う人がいるからである。
水瀬 胡桃……ショートヘアー? で肩辺りで揃えている髪型。家事全般はこなせる上にその腕前はプロを名乗っていいレベル。頭も良くて手先も器用、だが運動神経などは壊滅的に悪い。明るい性格でムードメーカー的な存在かも。