17 カナヅチとプール
梅雨が近い六月になり、雨も増え始めた頃。また悩みを持つ男子生徒がこの部にやって来た。一年生の水無君というらしい。
「泳げない?」
「はい、もうすぐプールが始まるから困ってて……」
「でもそんなの友達とかに」
「実は僕の友達もカナヅチで、二人いるんですけど一人は俺は炎タイプだから水は苦手だとか」
タイプ相性とかポケ◯ンか。
「もう一人は俺はゴムだから泳げないとか」
ワン◯ースか。何そいつ悪魔の実の能力者気取ってんのか? そいつ麦わら帽子年中被ってる?
「それで先生に相談したらここの話を聞きまして、泳ぐのなんて無能力者でも出来るだろって」
言い方がムカつくなその教師。それは無能力者をバカにしつつ泳げないコイツもバカにしてるじゃねえか。世の中には誰にも得手不得手がある、それを考えないでダメだしするだけな教師は人の気持ちを考えられないヤツと同じようなものである。
「泳げないなんてカッコ悪いし、泳ぎを教えてくれないでしょうか」
友達も泳げないんじゃなかったのか。そういうことで俺達は休日に市民プールに来ていた、学校のはまだ使えないし誰でも来れる場所と言えばここぐらいしかない。まだ夏ではないから熱くもないがそれなりにプールに人は来ていた、そんな中俺達も着替えて集合する。
「歩、どうかなこの水着」
「似合ってるよ、いいんじゃね?」
胡桃の水着はワンピース型だ、真っ白な生地が何だか眩しく見えた。成瀬の水着はどうやら黒ビキニのようだ、スタイルはいいので似合っているとは思う。
「で、私はどうかしら」
「お前はあれだ、似合うも何もないだろ。スク水じゃん」
「……言いたいことは分かるけどそこは似合ってるって言えばいいのに。アンタ、雷牙はどう思うわけ?」
「ん? ああ、えっとそこはかとなくいい感じだな! 何というかそう! あれだよあれ!」
「もういいわよ」
どれだよ。女子は大変だな。それぞれの水着披露も終わったし水無君の為の水泳教室が開幕した。胡桃はカナヅチなので参加はしていないが藤林と成瀬、それに雷牙で教えることになった……俺は泳ぐのが得意というわけではないので胡桃と一緒に遊んでいた。
もう三十分ぐらいは経っただろうか、俺は水無君の成長が気になり見てみると十メートルは泳げるようになっていた。それはけのびの距離もあるから大して凄くはないんだがゼロからならば大きな一歩である。もっとよく見てみると今練習しているのはクロールで息継ぎが上手く出来ないようだ、実は俺も出来ないので五十メートル息継ぎなしで泳ぎ切ったことがある。
「もっとこう手足をバーンとしてドーンと進むのよ!」
分からないわ! 説明下手すぎる!
「そうね、冷静に動いて足はバタ足を途絶えさせずに。息継ぎさえ出来れば後は大丈夫なはずなんだけど」
「手を動かすと同時にその動きに合わせて顔を自然に水面上に出すんだ、俺のを見ててみろよ」
雷牙は泳ぎが得意らしいな、クロールでグングン進んでいく。それを見て水無君も真似しようと頑張っているがなかなか上手くはいかない。そんな時事件が起きた。水無君は今日まで泳げなかったのだ、慣れない動きをしていたせいか足をつってしまい溺れかけていた。
「ゴボッ!? ガッハアッ!?」
「ちょっ!? 大丈夫!?」
それを見ていた成瀬が少し離れたところから救出すべく泳いで向かっていく。
「うっ! あばばばば」
「お前も溺れてんじゃねえよ!?」
何でお前も足つってるんだ! 雷牙……はいない。泳ぎすぎだろ、どこ行ったんだよ。それを見て藤林が急いで泳いでいく……待て、もう分かった。そこから先だいたい読めたから行くな!
「ゴブブブッ!?」
「やっぱりな!?」
どうせお前も足つると思ったよ! その惨状を見かねたのか胡桃が勢いよく向かっていく。
「おぼぼぼぼ!?」
「お前泳げないのによく行く気になったな!? ああもう! お前らちょっと待ってろよ!」
結局全員俺が助けてプールサイドに寝かせた。何でこうなんの? 水無君以外余計な手間かけさせやがって。そこからは順に意識を取り戻していったが胡桃だけすぐに目が覚めない。溺れたの一番最後だったくせに! 成瀬達はいなくなった雷牙を探しに行き、とりあえず大人に助けを求めるつもりらしい。
「これはもう人工呼吸しかねえだろ」
「うおっ!? 遅えよ雷牙! 何してた!?」
「いやちょっと遠くまで泳ぎすぎてな、悪い。成瀬から事情聴いたけどまさかこんなことになるとは思わなくてよ」
「まあこれは予想外だった……」
「というわけで人工呼吸だな」
「どういうわけだよ、あのなあせめて成瀬達が戻ってきてから」
「え、そんなに見られたいのか?」
「何で俺がするって決定してんの!?」
「でもそうグズグズしてられないぞ」
確かにこのまま放っておくよりは意識が戻った方がはるかにいいに決まってる、でも人工呼吸とはつまりキスだろ? 無理だろ、寝てる間にキスしましたなんてもしあのシスコンにバレたら俺は恐らくその日に殺されそうだ。
「成瀬達も戻ってこないぜ、ここは早いとこやっちまった方がいいって」
「お前は悪魔の囁きか」
キスは無理っぽい、だがこのままにしておいてもし万が一命の危険とかあったら大変だ。仮にこれが原因で何かあったら、近くにいたのに守れなかったらそれこそあのお兄ちゃんに殺されるかもしれない。つまりどちらにせよ殺されそうだから良い方は人工呼吸だ。そうだ、人工呼吸は医療行為というか応急処置というか、決していかがわしい行為だったりするわけじゃない。
俺の唇が胡桃の唇に触れようとした時、俺はラブコメの定番を思い出した。こうして人工呼吸したりするときはする直前で目が覚めたりする。これはまさか、いやもう五秒は経っている、大丈夫だ。
触れた。そして目が開いた。
何でだ! そこで目が覚めるくらいなら王道の方がまだマシだろ! 胡桃は状況を理解していないようだが段々顔が赤くなり理解してしまったらしい。ちなみに俺はもう離れて何事もなかったかのようにしている。そこへ成瀬達が戻ってきた。大人の手は借りられなかったようだ。
「胡桃! 目が覚めたのね!」
「僕のせいですいません!」
「良かったあ! あら? 何か顔が赤い、熱でも……あっつ! え!? 凄い熱よ!?」
「ぷしゅうううううぅぅぅぅぅ」
「きっと溺れたのが良くなかったのね、進藤君! 一旦家まで連れて帰ってもらっていい?」
いえ、俺のせいです。熱も一時的なものだろうとは思うがとりあえず家に連れて帰ることにした。俺達以外の部員はまだ水無君の特訓を手伝っていくようなので二人だけで帰ることになった。帰り道、俺達は一言も喋ることなく家に着き、その一日は何も話さずに終わった。翌日になれば心に余裕も出来たのか少し話が出来て、三日も経てば元通りになり自然と話せるようになった。
「えっと……どうだった? 私とその……して」
「お前そんなことよく聞けるな!?」
「答えてよっ」
「……いや、あの時は焦ってたからかよく分からなかった。もう忘れろ、お前だって嫌だったろ? あの時は何もなかったんだ」
「……むぅ」
「何で膨れてるのか分からないんだけど……」
ちなみに水無君は見事練習の成果を発揮して水泳の授業中、クロールで二十メートルも泳いだらしい。
何か最後ラブコメみたいな……




